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エンパシー、それは多様化する社会を生き抜くために必要な能力


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記事:武田かおる(リーディング倶楽部)
 
 
「エンパシー」という英単語を聞いたことがあるだろうか。
 
それは、社会の多様化がスピードを増す中で、今後、地球上でどこに住んでいようが、ビジネスを始め、様々なシーンでのコミュニケーションにおいて必須となるキーワードであり、今後より必要とされる能力になる一つになることは間違いない。
 
エンパシーとは、オックスフォード英英辞典のサイト(https://www.oxfordlearnersdictionaries.com
によれば、「他人の感情や経験などを理解する能力」となっている。
 
言葉にすれば非常にシンプルだが、その能力を身につけ、感じ、行動するのはそんなに単純なことではないように思える。
 
イギリス在住のブレイディみかこさん著、『僕はイエローでホワイトで、ちょっとブルー』では、エンパシーというトピックでこの言葉について深く考える章がある。
 
それだけではなく、著者と著者の中学生の息子さんの体験を通じて、イギリスの社会問題や多様化する社会を垣間見て、そこで起こる問題や物事の見方について様々な角度から考えるきっかけを与えられる事により、読者がエンパシーを疑似体験することを可能にしてくれる。
 
私は、1999年イギリスに一年半ほど留学した経験がある。それまで、イギリスと言えば、皇室、ロックミュージック、サッカー、パブ、紅茶を飲む習慣などが、イギリスを象徴するイメージだった。現在なら、そこに「ハリー・ポッター」なども含まれるのかもしれない。
 
階級社会があるとは聞いていたが、日本に住む私にとって、階級社会が現在でもあると言われても、いまいちどういうことかイメージできなかった。また、私はイギリスの英語学校に少し通った後大学院に進んだので、イギリス社会に溶け込んだ生活をしていたわけではなかった。そのため、先生や大学の教授など、いわゆる中上流の階級の人としか接していなかったのだ。しかし、ロンドンから移動して、ヨークシャーという田舎の町の大学院に通い出して気がついたのは、まだ母親になるには早すぎるように思える、十代の白人の女の子がベビーカーを押してたことだ。それも、昼間で、普通は学校に行っているような時間帯だった。またそれは一人ではなく、赤ちゃんを連れた複数の女の子を目にした。
 
当時、欧米ではスパイス・ガールズというイギリス人のユニットが全盛期の時代だったが、赤ちゃんを連れた女の子は、そのメンバーの内の一人を彷彿させるような、金髪を頭の高い位置でのポニーテールにして、サイドにストライプの入ったブランドのジャージを着ていた。
 
私は、スペインから来ていた大学院の同じコースのメンバーにその事について聞いたことがあった。もしかすると、私が見た複数の女の子は、誰かの赤ちゃんのベビーシッターをしていたのかもしれないと思ったからだ。彼女の答えはこうだった。「おそらく、性教育をきちんと受けられなかった、下級階級の子供達なのかもしれない」と。
 
こういった事は、やはり長く住んでみないと見えない部分だ。現在では性教育の充実により、10代の妊娠は減っているようだが(1)、私の20年前の疑問も、本著を読んで、理解が深まった。
 
私は現在アメリカ在住で、ちょうどブレイディさんと同じ年頃の息子がいる。イギリスと国は異なるが、マイノリティとして他国に住んでいる立場としては共感する部分が多々あった。例えば、貧困や人種差別の問題、特に自分がマイノリティとして差別を受ける立場であること、LGBTQについて等だ。だが、イギリス特有の階級社会やEUとの問題などをティーンエイジャーである息子さんの体験を通じて知ることで、一歩踏み込んで、具体的に学んだり、考えたりする機会をあたえられたことは、非常に新鮮だった。
 
特に、ブレイディさんの息子さんは小学生までは、いわゆる保守的なカトリックの学校に通っていたのだが、中学校からは、息子さんの意向で「底辺中学校」に通うことになる。底辺中学校は、それまで通っていた学校にはなかった、貧困や人種の問題等を色濃く映し出しており、そこでの体験が本著で紹介される多様性についてのエピソードの幅を広げている。
 
本書で興味深いのは、ブレイディさんご自身が日本人として、また、息子さんはイギリス人と日本人のハーフとして(ハーフという言葉についても本書の中では興味深い考察がある)異なるアイデンティティを持つ親子で、感じ方も異なるという点だ。それともう一つは、人種的アイデンティティというだけでなく、世代でも社会問題の受け取り方や感じ方が大きく異なるという点だ。
 
特に、これからの社会に重要とされるエンパシーという言葉を息子さんが学校で学ぶシーンは印象深い。私の息子もエンパシーということばを学校で習ったと言っていた。それだけ、少なくとも英米では、現代社会にエンパシーの能力が必須で、学校で教育されるべきだと考えれているのだろう。だからだろう。ブレイディさんの息子さんは、問題が起こったときは、いつも弱者の気持ちを汲み取り、子供ながらに冷静に弱者の立場に置かれている友達への気遣いを見せてくれるところには胸が熱くなる。
 
社会における、貧困、家族や社会の多様化、人種の問題など、イギリスとは異なる形で日本でもそれぞれの問題は程度の差はあれ、実際に起こっている問題だ。
 
「いろいろあるのが当たり前だから」(2)
 
これは著者の息子さんの言葉である。
 
いろいろあるのが当たり前の多様化された現代社会。本書を通じて異文化社会を体験し、感じ考える事で、実際に、自分とは異なる様々な考え方や物事に遭遇した時、どのようにエンパシーの能力を使い、相手の立場に立ってコミュニケーションを取り、行動を起こせるのか。本書はそれを改めて考える機会を与えてくれる一冊である。
 
 
 
 
《参考図書》
ブレイディみかこ(2019)『僕はイエローでホワイトで、ちょっとブルー』
株式会社新潮社,(Kindle版)
 
《参考文献》
(1) Herpers Bazaar, Retrived on Aug 31, 2020, from https://www.harpersbazaar.com/jp/lifestyle/love-weddinng/a27213441/women-pregnancy-rates-over-30-190421-lift1/
(2) ブレイデイみかこ(2019)『僕はイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(kindle版)位置No.1961/2953 (株式会社新潮社 11未来は君らの手の中)

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2020-09-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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