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たとえ、それが不倫だと言われても


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たとえ、それが不倫だと言われても
 
記事:垣尾成利(ライティング・ゼミ5月開講通信限定コース)
 
 
妻に不倫がバレた。
いや、違う。私はこの関係をそんなふうには思っていないから、正確には不倫がバレたのではない。
とはいえ、ずっと隠していた関係を知られてしまったのは事実。
痛恨のミスをしてしまった。
 
たまに外でこっそり逢うのが楽しみで、もうずいぶん長く続いている、妻には内緒の関係だ。
知られてしまうときっと悲しむから、気付かれないように細心の注意を払って付き合ってきた。
絶対に気付かれないように逢う、それは妻に対する最低限のマナーだと思っている。
 
そのためのチェックは入念だ。匂いも付かないように、触れたこともわからないように、唇や衣服はもちろん、鞄の中まで、一緒にいた時間がわかるようなものは何も残さず、名残を自宅に持ち帰ったりもしない。
 
逢ったことがわかるようなものは、帰り道ですべて処分して、普段通り、何もなかったように平然と帰宅する。
 
これまでに一度も…… いや、何度かはわずかな痕跡を残してしまったことに帰宅してから気付いて慌てたこともあったが、妻に気付かれるという最悪の失敗だけは一度もしたことはなく、家庭は円満で自宅にいるときは仲良くできている。
 
隠し事をしていて後ろめたい気持ちはないのか? と聞かれたら、黙っていることに罪悪感がないわけではないし、隠れてこそこそ逢っているのは良くないことだと理解はしている。
申し訳ない気持ちはあるが、欲望を抑え続けることは難しく、これからも関係を絶つことは考えていない。永く続いているけれど、それは所詮一時の欲望を満たす行為で、それ以上にはなり得ない。
わずかな時間でもいい、これからもずっと、こっそりと付き合っていきたいと思っている。
 
これは私の勝手なわがままだ。
このことに家族を巻き込んで溝を作ってしまうことは絶対に避けなくてはならないので細心の注意を払っていたのだが、先日ついうっかり、やってしまったのだ。
 
一緒にいた時間の痕跡を自宅に持ち帰ってしまったことに気付かず、あろうことかリビングまで持ち込んでしまったのだ。
 
そのわずかな痕跡に、飼い猫が感づいた。
いつもと違う匂いがしたのだろうか、飼い猫が執拗に鞄の匂いを嗅いでいたのを妻が見て、何かおかしい、と鞄の中を見てしまったのだ。
 
そこには言い逃れできない証拠があった。
しまった…… と表情に出てしまった。
 
そこには動かぬ証拠がそこにあり、言い訳の言葉も浮かばない。
 
妻は怒った。そして悲しんだ。
私に内緒で、隠れてこそこそとそんなことをしていたのか、と厳しく問い詰められた。
いつどこでどんなふうに逢っていたのか、それも白状する羽目になってしまった。
 
逢うのはいつもお店か外と決めていて、人目を気にするような行動は逆に怪しまれるから、一緒にいる所を誰が見てもおかしくないように堂々と振る舞い、その時間を楽しく過ごしていた。
お店では周りを気にする必要なく向き合って見つめ合い、指先で優しく触れて唇に導き、尽き果てるまで行為を楽しんだ。
 
一緒に外を歩く時は、そっと手に載せて優しく包み込むようにして、周りの人の視線を避けるようにガードしながら触れあった。
 
もちろん証拠なんて残さない。
触れた指先や、艶やかに光る唇を入念に拭い去ることは忘れない。
当然このときもハンカチなんて使わない。使い捨てのペーパータオルで証拠を消し去るのだ。
 
帰宅後は真っ直ぐに洗面所に行き手洗い、うがいをし、衣服は洗濯機へ。
リビングに入るのはそれからだ。
逢った日も逢わない日も、帰宅後のルーティーンは常に同じだから怪しまれることはない。
家にはなにひとつ持ち帰らないのが家庭円満、夫婦円満の秘訣だ。
 
妻のことは愛しているし、別れるつもりもないから、証拠を突き付けられた時、隠していて悪かった、と謝り、反省した。
 
あくまでも家庭が大事。
だから毎日逢うことはしないし、家の金に手を付けるなんてことは絶対にしない。
私の気が向いたときだけ逢う。こういうことは無理をしないことが大事なのだ。
 
絶対にバレない自信があった。
それが…… たった一度の失敗を、猫によって暴かれてしまったのだ。
 
あの日、私はうかつだった。
ポテトチップスの袋を捨て忘れ、鞄に入れたまま帰宅してしまったのだった。
 
妻は動かぬ証拠を前にして「またこんなものを買い食いしてる!! 肥るからダメだって言ってるでしょ!! それで黙って晩ご飯も食べて…… 私が気付かなかったらそれでいいと思っているのがそもそも間違いでしょ!!」
 
仕事帰りに、たまに内緒でこっそりとフライドポテトやポテトチップスを買い食いして帰るのが私のずっと前からの楽しみなのだ。
 
でも、怒られるのがわかっているから、食べたあとの口の周りの艶やかな油も、指先の油もハンカチでは決して拭わない。
店では堂々と食べるが、外でポテチを食べながら歩いていると変な目で見られるから、こっそり隠すように鞄の中に入れて抱え、人目のないときを狙って食べる。
食べカスが胸ポケットや鞄の中に落ちることもあるので入念にチェックする。
 
何ひとつ証拠を持ち帰らないように入念にチェックしてから帰宅する。
特に、店で食べたときは、油の匂いが衣服に付いているのがバレないように少し遠回りして歩いて帰ったりして完璧に証拠隠滅を謀っていたのに……
 
あの日、初めて食べた湖池屋の食塩不使用のポテトは指先が汚れなかったのだ。
それがいつもの証拠隠滅ルーティーンを忘れさせ、食べ終わった袋を鞄に入れたまま帰ってしまい、猫がその匂いを嗅ぎつけたのだ。
 
妻はヒステリックにこう言った。
「黙って買い食いするのは、隠れて不倫してるのと一緒!! あなたがやっていることはポテト不倫よ!!」
 
買い食い、これは不倫なのか?
たしかに、やっていることはとても良く似ている。
 
私がしてきたことは買い食いではなく、ポテト不倫だと妻は言った。
 
こう言われると、罪悪感のレベルはぐんと上がったのだが、たとえそれが不倫だと言われても、やめられないこともあるのだ。
 
以来、私は、バレないルーティーンを強化するべく、歯磨き粉を使わずに歯磨きをしてから帰宅するひと手間を加え、今もひっそりと関係を続けている。
 
 
 
 
***
 
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2020-09-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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