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妖怪図鑑2020


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:エルコンドルパサー(ライティング・ゼミ日曜コース)
※この作品はフィクションです。
 
 
「妖怪図鑑2020あります」
東京でも珍しい寂れた駅前の今にも潰れそうな書店に入ると、店の入口にそんなシールが貼ってあった。正隆が興味を持って本棚を見てみると、目に痛いくらいの黄色い表紙に、人間チックな何かと、明らかに人間ではない何かが描かれてた本が目に飛び込んできた。それが「妖怪図鑑2020」だった。
 
正隆は既に大学生である。妖怪の存在なんてすっかり忘れていたが、正隆は子供の頃は大の妖怪好きだった。正隆はふと懐かしい気持ちになって、その本を手に取り、パラパラと中身を見てみた。図鑑だけあって、その本はどうやら50音順に妖怪が載っているらしい。正隆は子供時代を思い出しながら、知っている妖怪を調べてみることにした。
 
まずは、小豆洗いを調べてみることにした。すると、今風の作業着に身を包んだ中年男性が目に飛び込んできた。背景には広大な畑と日本では見ない様な大型の機械が写っている。どうやら海外の様だ。ページの説明部分を読むと、日本の小豆の自給率の低下に一年発起した小豆洗いはカナダに渡り、大規模小豆農家として日本に小豆を輸出して大成功をおさめているらしい。正隆はなんだこれと思ったものの、マンガ代わりの暇つぶしにはなるかと思い、一冊買って帰ることにした。
 
一人暮らしの自宅についた正隆は、手早く簡単な夕食を作ったあと、インスタントコーヒーを沸かして「妖怪図鑑2020」をじっくりと読んでみることにした。ページをめくると、どうも妖怪の現在の様子が書かれているらしい。「子泣きじじい」は重さを自由自在に変えられる不思議な筋トレ器具を売り出し大儲けしており、「砂かけばばあ」は緑化で消滅の危機にある鳥取砂丘の保護に一役買っているらしい。「山姥」は山中の一軒家までテレビクルーが押しかけてくるため、止む無く街へおりたとある。そして、既に存在しなくなってしまった妖怪もいるらしい。例えば、「垢舐め」はお風呂洗剤による食中毒で死亡、と書いてあった。「海坊主」は某スナイパー漫画の登場人物と同化して消滅したらしい。
 
正隆はデタラメにも程があると思ったものの、妖怪たちが写っているのはどうやらイラストやCGではなく写真の様だった。その点が気になった正隆は、出版社である明文社にこの本について本当なのかメールを送ってみることにした。
 
翌日には明文社から返信が来ていた。メールには、この本の内容は本当であることと、よかったら一度出版社に遊びに来る様に書いてあった。正隆は信憑性を疑いながらも、大学の講義を入れていない明後日の午後に明文社に遊びに行くことにした。その旨をメールで送ると、明文社からは歓迎の返事が届いた。
 
明文社は古本屋が立ち並ぶ東京・神保町の片隅にある雑居ビルにあった。エレベーターがないので、正隆は仕方なく汚い階段を登っていった。3階に着くと、これまたふるぼけた扉に明文社とかいてあった。正隆がコンコンと2回ノックをすると、中からどうぞと返事があった。正隆が扉を開けて中に入ると、小さな部屋に昔ながらの古ぼけた灰色の事務机が2つずつ向かい合わせで並んでいて、その奥に少しだけ広い木製の机と、ところどころ穴が開いて中から黄色いスポンジが見えている黒い革張りの椅子があった。その椅子に座った白いあごひげを長く伸ばした総髪のしわくちゃな老人が正隆を手招きした。
 
「空いている机に座りなさい」
他に社員はいないかと正隆は不思議に思ったが、言われた通りにした。
「よく来たね」
老人は穏やかな口調でそう言った。
「突然お邪魔してすみません」
「いや、いいんだ。私の本に興味を持ってくれてありがとう。聞きたいことがあれば、何でも答えるよ」
 
正隆は単刀直入に切り込むことにした。
「あそこに書いてあることは本当なんですか」
「ああ、本当だ」
「妖怪は、本当にいるということですか」
「いるよ。ほら、今も君の後ろに」
そう言われて正隆が後ろを振り向くと、さっきまでいなかった日本髪の女性が湯呑にお茶を入れて立っていた。しかし違和感の正体に気づいた瞬間、正隆は驚きの余り変な声がでそうになった。その女性はのっぺらぼうだった。
 
「わかってもらえたかな」
正隆は心臓をバクバクさせながら、なんとか頷いた。
「じゃあ、妖怪は本当にいて人間の社会に溶け込んでいるんですね」
正隆は妖怪の存在に驚きながらも、少し興奮して言った。
「自分から進んで人間社会に飛び出ていったやつもいるよ。でも、多くが仕方なくって感じだけどね」
「どういうことですか」
「まあお茶でも飲みなよ」
正隆は続きが気になりつつもお茶を飲んだ。何だか変に苦い気がした。
「多くの妖怪がずっと昔に誕生したものだからね。ここ最近の人間の文明の進歩が早すぎて、妖怪も昔通りって訳にはいかないのさ。例えば、「垢舐め」なんかがそうだね。人間が洗剤を開発したおかげで、今は風呂に垢なんか残らない。妖怪は死なないが、存在意義が無くなると消滅する。妖怪も消滅するのは嫌だからね。自分の存在を守るには、時代に合わせて妖怪も自分の存在意義を変えるしかないのさ。まあ、新しい存在意義を見つけられたやつはまだマシだけど、消えてしまった妖怪も少なくない」
 
正隆は妖怪図鑑の多くに☓印がついていたのを思い出した。せっかく妖怪の存在を知ることが出来たのに、もう多くの妖怪がこの世にいなくなってしまったのかと思うと悲しかった。
「じゃあ、妖怪はどんどんいなくなってしまうんですか?」
「いや、そんなことないよ。新しい妖怪も生まれてくる」
「どんな風にですか?」
「実はさっき君が飲んだお茶には妖怪になる薬が入っていたんだよ」
 
正隆は言葉を失って自分が飲んだ湯呑をまじまじと見た。すると、老人が笑いだした。
「ごめんごめん、冗談だよ。そんな薬はないから安心しておくれ。実は私も妖怪でね。久しぶりに人間と触れ合ったから、すこし驚かせてみたかったんだ。許してくれ」
正隆はその言葉に安心しながらも、老人に対して少し不気味な気分になった。正隆が気を落ち着かせよとしていると、老人が続けた。
「君もあの図鑑を見たと思うけど、妖怪の数は減っていないよ。むしろ増え続けている」
「どうしてですか?」
「だって、人間が増え続けているだろう? 人間が増えるとその分人間の闇や悪意といった部分も増えるのさ。妖怪というのは、人間には理解できないものから生まれるからね。人間全体の文明が進んでも、愚かな人間の数が増えれば、この世の理を理解できない人間も増える。それは、妖怪にとって絶好の餌場になるのさ」
 
 
 
 
***
 
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2020-10-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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