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犬になって山を駆け回ることのススメ


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記事:E.MIO (ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「おた〜ち〜」「受けたもう〜」
 
ほら貝の音がこだまする中、出発だ。白装束で身を固めた私は、ただひたすら前を向いて歩く。あたりは真っ暗で明かりはない。歩いている山道は、確か谷に面しているはずだ。真っ暗な中、前を歩く人の白い装束だけが浮かび上がっていて、ただただ、その後ろをつまずかないように、必死で歩く。白装束は綿でできていて、ズボンの部分が足にまとわりついてきて歩きにくい。普段の化繊でできたサラッとした感触の歩きやすい登山用ズボンとは大違いである。
 
一体何のためにこんなことをしているのか? 時折、そんな気持ちがよぎる中、ただ、ひたすら歩き続ける。今、私は、山伏の修行中だ。山伏は、「山を犬のように行く人」と書く。まさに、山の中を四つ足ではいつくばるようにして岩をよじ登り、道無き道を滑りながら駆け下り、草むらの中をかき分けて進む。
 
修行の中身は「他言無用」がゆえに、行程表もなく、次に何をするのか分からない。ただ、ひたすら、修行を指導する先達の指示に「受けたもう」(はい、の意味)と答えながら、山の中を駆け巡って、祈りを捧げたり、滝に打たれたりなどする。一つ一つの行動に、意味や目的を考える暇もないくらい、朝から晩までヘトヘトに動き回るのである。
 
もともと、私が山伏修行に参加したきっかけは、偶然の出会いからだった。
 
私は、登山が趣味で、登山歴はかれこれ10数年になる。山上でしか見られない、美しい景色に魅せられて、軽い気持ちで登山を始めたのだが、山は登れば登るほど、実力がついてくるのが楽しくて、山岳会に入会し、当初は考えもしなかった沢登りや岩登り、雪山にまでチャレンジするようになった。そして、登山を始めて数年後には、海外遠征で、ヒマラヤの小さな頂ではあるが、6,000メートル峰にも登ることができた。
 
しかし、技術の習得には終わりがなく、登山は、突き詰めるほど、よりリスクの高い世界となる。周囲で何人かの先輩を亡くすにつれ、山に登ることに疑問を持つようになった。
 
そんな折に、偶然、山形県の出羽三山で修行を行う山伏の方にお会いし、「山は、祈りの場所だ」と聞いた。単なるレベルアップだけの登山にとどまらない、違った山登りの世界に惹かれて、山伏修行に身を投じることになったのだ。かれこれ修行に身を投じるようになって数年、正式に山伏名もいただいた。
 
さて、私の動機は置いておいて、山伏修行を行う意味とはどこにあるのだろうか?シンプルにその意味は二つだと思う。
 
一つは、日本の本来の登山の世界を知ることができることである。日本では明治時代まで、現在のようなスポーツとしての登山は存在しておらず、山に入ることは山での炭焼きなどといった生活のための作業以外は、信仰としての登山に限られていた。しかも、山の中で修行を行う山伏については、江戸時代までは、3,000万人の人口のうち、17万人いたというから、男性の人口のうちの数%は山伏だった計算になる。そんな山伏が今よりもずっとアクセスの悪い山中で、文字どおり、犬のように駆け回って、祈っていた。
 
山伏が信仰していた修験道は、日本にしかない神仏混合の宗教で、一木一石に、神仏が宿ると考え、大自然を敬い、大自然から感じたことを学びとっていく。だから、日本の山には、「釈迦が岳」とか「大日岳」といった名前が付いていたり、山中にも祠など、宗教にまつわるものをところどころで見かけたりする。実際に自分が修行をしてみると、一木一石に目を向けるようになり、ただ単にレジャーとして登っていた山でも、山を見る目に深みが増してくるし、自然に対して敬う心が生まれてくる。歩き方も、より一歩一歩を大事にし、山の中で出会うものすべてに注意深く関心を払う歩き方になってくるから不思議である。また、山伏修行を行うようになってからは、山を大切にする気持ちがいっそう増したような気がする。山ブームで混雑した山のなかで、ただレジャー気分で登っていてはその感覚はなかなか得られないと思う。
 
そして、山伏修行を行う二つ目の意味は、あるがままを受け入れ、謙虚な自分になれることである。山の中では先達の指示のままに全てを「受けたもう」していく。天候は晴れだろうが雨だろうが関係なく行われる。また、登山道から離れた危険な場所にも足を踏み入れる。様々に表情を変える大自然の前では自分の小ささを感じざるを得ない。もちろん、スポーツとしての登山でもそう言った瞬間は無きにしもあらずだが、スポーツとしての登山は、もともと西洋からきたもので、山の弱点を探し、困難を克服、征服していくようなものである。山伏修行はそれとは正反対だ。あくまでも、山の中で、あるがままの自然を受け入れ、逆らわず、自然と一体になっていく。そして、そのような時間を過ごしていくと、修行の終わりには、気持ち良いほどの清々しさと謙虚な自分になることができるから不思議である。
 
実際、私の修行する出羽三山では、山での修行は、母の胎内に帰っていくこととされる。そして、修行が終わることは、新たに生まれ変わることになる。
是非みなさんにも一度、一度、生まれ変わってみる経験をしに、修行の門を叩いて見てはどうだろうか。今まで山に登ったことのある人もない人もきっと違った景色が見えるのではないかと思う。
 
 
 
 
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2020-10-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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