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小さな折りたたみ自転車の大きな楽しみ方


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記事:みつしまひかる(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
旅行の計画を練る時、公共交通機関のスケジュールについて不満に思ったことがあるだろう。
 
帰りの便が昼1本しかなく、最後の日は移動だけになっちゃうなとか、目的地とその最寄りの空港や駅が離れていて、行き帰りの時間が大きな時間のロスをガマンせざるを得ないな、とか。
 
僕はつい先日これらの問題にぶち当たった。大阪から遠出をして、瀬戸内のしまなみ海道を折りたたみ自転車で走る計画を立てていたときだった。
折りたたみ自転車の運搬は、車に入れて自分で運ぶ、持ち運び専用の輪行袋に自転車を入れて公共交通機関に持ち込む、あらかじめ目的地へ輸送する、などの手段がある。車では8時間かかるのであきらめ、飛行機で松山空港へと飛び、松山から今治を経てしまなみ海道、というルートをまずは考えた。
 
そこでフライトのスケジュールを確認してみたら、ひいきにしているJALの場合、大阪伊丹⇔松山空港の直行便は1日1便、昼の時間しかなかった。休みは土日に有給1日を加えた3日間しか取れない。荷物も持ったまま、折りたたみの自転車で出せる速度を考えると、しまなみ海道の途中の生口島で一泊して、来た道を戻り、3日目のフライトに間に合わせるしかないか……。
 
6月末に買って、本格的に乗るのが初めての折りたたみ自転車を飛行機にまで持ち込んで、しかもサイクリングの聖地と呼ばれるしまなみ海道にせっかく行くのになあ……。
ワクワクしていた気分が萎えてきてしまった。9月の4連休は見送ったがやはり行くべきだったんじゃないかと、後悔まで湧き上がってきた。
 
ん? でも待てよ?
戻る必要なくない?
 
僕はひらめいた。
他の手があるじゃないか!
 
つまり、1日目は飛行機で松山に着き、松山宿泊。2日目は松山から今治、そしてしまなみ海道を半分ほど行った生口島で一泊。そして生口島からさらに北上して、尾道に行けばいいんだ! 尾道からは在来線と新幹線があるので、輪行袋に入れて乗ればよい。
 
ちゃんと3日間で、しまなみ海道の全工程を戻ることなく制覇することができる!
 
これは車ではできない。大阪⇔今治の8時間ドライブを差し引いても、車を置いて自転車で走ったら、また車を回収しに来なければならず、ロスが大きい。
先に述べた理由で飛行機だけでもできないし、四国には新幹線がないから、新幹線だけでもできない。
飛行機と、折りたたみ自転車と、新幹線(在来線も)を組み合わせることで、はじめて成し遂げられる。
 
折りたたみ自転車は、プレミアチケットだ。
それ自体が走るための道具であるだけでなく、新たなルートの選択肢、可能性を特典として与えてくれる。
しかも期限内にきっちり収めてくれるのだ。
 
そんなわけで、僕は2020年10月3日(土)~5日(月)、無事にしまなみ海道を満喫してくることができた。
しまなみ海道は、愛媛県今治と広島県尾道の間の海道で、間に浮かぶ6つの島とそれらをつなぐ橋でできている。全国だけでなく、国外のサイクリストもこのしまなみ海道に訪れ、快適なサイクリングを楽しんでいるそうだ。
 
幸い天気が良く、風も穏やかな中、立派な橋の上、またはそれぞれの島から青い海を眺めながら走った。瀬戸内海は美しい。しまなみ海道に含まれるのは6つの島だが、それ以外にも緑で覆われた大小さまざまな島が見える。海は凪いでいる。白い船が白波を立てて海を突っ切っていく。
海沿いのルートばかりではなく、島の真ん中を通るコースもあるのだが、全体的にアップダウンは少なく、軽快にこぎ続けることができる。
 
少ないとはいえ、上り坂はある。長い場合は要注意だ。
残暑の中、長い上り坂で、荷物を抱えながらペダルを漕ぐと、顔からは汗が噴き出て止まらなくなった。
でもその途中に自販機があり予想外にユンケルが売っていて笑ってしまった。買って飲んだら、少しだけ元気になった気がして、また漕ぎすすめた。上り坂があれば下り坂もあるわけで、それまでの苦労を吹き飛ばすかのようにスピードを上げて下った。生口島ではまだ緑色だがミカンが生っており、そんな風景も楽しみながら走った。
 
全体を通してそこまで日差しは強いと思わなかったが、生口島の宿について服を脱ぐと、手首から先は焦げ茶色になっており、胴体側は肌の色が数段薄かった。日焼け止めをしておくべきだったのだろう。
けれど、がんばった勲章代わりだ。
宿のごはんは刺身の船盛と、タイの煮つけなど、なぜかとても豪勢だった。美味しいごはんを楽しみながらビールを飲んで、宿のご夫婦と他のお客さんと自転車旅について話し合い、とても楽しい夜だった。
 
さて、僕が買った折りたたみ自転車を紹介しておこう。ブロンプトンというイギリスの老舗折りたたみ自転車だ。
素晴らしいことに、工具いらずで10秒程度で組み立てと折りたたみができる。しかも、折りたたんだサイズはW59cm x H58cm x D27cmで、コインロッカーにも入る優れものだ。
 
今回は飛行機と電車だったが、次は時間の余裕をとりながら、車に載せて旅行先で散策してみたい。
 
余談だが、実は今回の自転車旅が楽しみすぎて、電車で行けばいいのに、松山から今治への移動にもブロンプトンで行くことにした。普段は運動しない人間が、そこまで軽くもない荷物を荷台と背中に乗せ、16インチの小さな車輪で54 kmも余計に走ったのだ。しまなみ海道のスタート地点に立った時には8割の体力を消耗していた。
でもこれで、今治から生口島の宿までの36 kmは、初心者でも無理なく走れることがお分かりいただけると思う。
ブロンプトンのデビュー戦として、意欲が強すぎてしまったけれど、初のしまなみ海道の全工程達成もでき、とても良いリフレッシュができた。
 
自転車旅が未経験な方は、まずは手ぶらで今治または尾道に向かい、レンタサイクルを借りて、しまなみ海道を楽しんでみればよいだろう。もしそれを機に自転車旅の魅力にはまったら、きっと自分の自転車が欲しくなる。
そのとき、小さな折りたたみ自転車はプレミアチケットで、とても大きな楽しみ方があることを、思い出していただければ幸いである。
 
 
 
 
***
 
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2020-10-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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