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桂川の向こう側から洛中を眺める


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:竹下愛子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「竹下さん! 聞いてください、ここ、男子トイレの窓から本能寺が見えるんですよ」
 
わくわくした顔で上司が報告してくれたので、ですよねえ、ここってすごい立地ですよねえ。と私は納得の顔を作って相槌を打った。本当はこのビルの隣が本能寺ってことくらい、みんな知っているから、そんな驚きの事実でもないはずだ。
 
でも東海地方出身で中学の修学旅行は京都・奈良、しかも宿泊先は本能寺ホテルだった私にとっては、すごい事実としか言いようがない。ウン十年後に本能寺の隣で働いていると知ったら、団体様で京都市内を右往左往していた自分はどんな顔をするだろう。
 
9月に開設されたばかりのこの営業所は、河原町通りに面したビルに入居している。すぐ側に市役所があり、京都市内では一等地と言っていいだろう。最上階はオープンスペースになっていて、入居している会社や事務所の従業員が打ち合わせ場所兼カフェのような形で使うことができた。私と先輩は、上司とコーヒーを飲みながら休憩がてら雑談をしているところだった。
 
「ここからほら、あそこに見えるのは比叡山。この辺、ランチを外で食べる公園とかはないんよねえ」
 
生粋の洛中育ちの先輩が、心なしか誇らしげな顔をして最上階テラス部分からの景色を見ながら教えてくれる。へええ、とただただ感心しながら話を聞きつつ、私は街の向こうなのに、すぐ目の前に広がる山々を見つめた。
 
時にトンビがピーヒョロロと鳴きながら空を舞う、このテラスから眺める風景が好きだった。
ここを去るまでの、歴史ある街のど真ん中での日々は、極上のエンタテイメントに溢れていた。
 
転勤族の両親の元で東海・近畿各地を転々としていながら、大阪下町育ちの母の影響を多大に受けていた私にとって、そもそも京都という街は畏怖と恐怖の対象だった。
 
やっぱり都と商人というのはそりが合わないものなのだろうか。テレビで、よく面白おかしく「大阪人」や「京都人」のテンプレートが流れているけど、うちの母に関してはあながち間違いではない。そういえば、同じく大阪下町育ちの友人もそうだ。
 
「京都の人は何を考えているのかわからない」
「自分たちが一番だと思っている」
「春夏秋冬いついっても混んでいる」
 
散々こんな言葉を聞いてきたから、桜だろうが紅葉だろうが、京都を訪れることは稀だった。
 
ところが、実際にこの地で働いてみると随分と勝手が違った。
 
この営業所がいちおう外資系企業だった為に比較的オープンな人が多かったのかもしれないが、みんな基本的にわかりやすい性格だった。大阪のことも大好きとまではいかないが、少なくとも嫌ってはいなかった。
もしかしたら私が本心を見抜けず、素直にお宅へ上がってお茶漬けを頂いてしまっただけだったのかもしれないけれど。
 
ここで働くにあたり、京都市の西の端っこに部屋を借りていた。市内の真ん中、いわゆる洛中と言われるエリアはインバウンド需要もあって随分と家賃が高かったので、普通の住宅地で暮らすことになった。だからこそ会社周辺のザ・京都感が半端なく際立っていた。
 
土日・平日を問わず常に混んでいる場所で働く中での特権。
それは10月のある平日、仕事中のこと。お囃子のような音が聞こえると思った大阪出身の同僚が、窓の外を覗いてみたら。
 
「行列が歩いてる! 何のお祭りやろ?」
 
武士の衣装に身を包んだ人たちが、ゆらゆらと馬に揺られて河原町通りを闊歩している。
それは京都三大祭のひとつ、時代祭の行列だった。
沿道にはたくさんの人が詰めかけていたけれど、私たちは事務所の窓や屋上のテラスから、きゃーきゃー言いながらそれを見ることができたのだった。ビジネスアワーの平日に、市役所前の大通りを通行止めにして行列している京都の観光への本気度に圧倒された。
 
イベントだけじゃない。阪急電車の河原町駅から営業所まで歩く道すがら、坂本竜馬が暗殺された旧近江屋の碑を毎日ちら見して通り過ぎた。当然のことながら、昼休みに本能寺の境内を散策して織田信長の最後に思いを馳せたこともある。
 
仕事終わりに錦市場に寄って、先輩おすすめのお豆腐屋さんの豆腐ドーナツを買い食いしながら帰った日もあった。他はいかにも観光客目当てという感じのお店が並ぶ中、ここのドーナツは本当にあっさりして美味しい。帰り道の三条寺町で食べた梅園のぜんざいも捨てがたい。
 
(この、毎日が観光旅行をしている気分。京都ってなんなの、楽しい!)
 
東京では京都へ旅行したがる女性が多かった記憶があって、長期休暇明けに良くお土産をもらったものだけど、今ならその気持ちも良くわかる。歴史的建造物、お洒落な雑貨、甘いもの、自然、狭い範囲で全てが揃うのだから。
 
ウキウキワクワクの京都ワーキングライフは、実際のところ土曜出勤や残業が多く、福利厚生が充実した大阪にある会社への転職で終わりを迎えることになる。
それでも歴史アミューズメントと呼びたくなる非日常感がすっかり手放せなくなった私は、今もまだこの街に住み、つかの間のエンタテイメントを味わっている。
 
 
 
 
***
 
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2020-10-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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