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とんでもなく不親切なレシピ


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:やまだあゆみ(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「これだけは覚えておいてください。数学は料理です。毎日の努力と慣れがものを言います。また、数学の疑問の9割は勘違いです。分からなかったらすぐ質問に来てください」
 
受講生たちはポカンとしている。そうだろう。数学といえば論理的思考だ。計算のプロセスが重要なくせに、センスやひらめきまで求められる。自分の頭で考えるのが大事だとも教えられる。
それなのに料理だ、すぐ質問に来いだなんて言われたら、意味が分からないだろう。
 
「料理ではレシピの言い回しを覚え、その通りに作ります。最初はレシピ通り作るだけでも苦戦しますが、慣れれば手早く、おいしく作れますね。数学も同じで、用語や言い回しを覚え、公式の使い方を練習します。ですから、慣れればできるようになります。頑張りましょう」
 
受講生たちはまだポカンとしている。そうだな。私も意味が分からない。そもそも国語の先生が、数学を教えているのだから。
 
2020年3月。とんでもない業務命令が下った。
 
「次年度は数学も担当してほしい」
「そうですね……。ですが、高校の数学、ずっと1だったんです。小学生の時には0点取って居残りもしてますし。そんな人間が教えて、クレームが来ないか心配です」
 
コロナで大学内の出張講座も、うちの教室講義も開店休業だった。好調なのは通信講座だけ。そもそも公務員試験自体、理科や社会科のいらないタイプが増えている。よって予備校もいらなくなりつつある。そこで、メインの数学に特化して、他社と差別化したいのだろう。
 
実は、教えること自体は誰にでもできる。
 
数学ができない人でも、手順さえ守れば、授業をやるのは難しくない。難しいのは理解させることだ。そして、数学を理解させることができるのは、数学を熟知している人間だけである。だから、教えるのは難しいと言われるのだ。
 
「大丈夫だろう。国語に社会科、理科、英語と、色々担当してもらってるな。夜間授業も半分は先生だ。今のところクレームは来てないし、受講生の評判も悪くない」
「数学以外は、センター試験で9割を超えています」
「だったら、数学も9割を超えられるようになるんじゃないか?」
 
そうか、間違いだった。
小学校から大学まで数学どころか、勉強すら大嫌いなのがうちの受講生だ。なのに、合格報告に来ると必ず「勉強が得意になりました!」と胸を張る。それにつっこみを入れるのが、毎年恒例の行事だろうに。その子らに「勉強に才能は必要ない、努力だ」などと言っているの、誰だっけ?
 
緊急事態宣言にともなって、在宅勤務が始まった。
 
目の前には教科書が3冊。解の公式、平行移動、三角関数……。見るだけで、嫌な思い出がよみがえってくる。高校では数学だけできないせいで、担任から「逃げないで勉強しろ」と言われ続けた。中学生の時は、数学のせいで学年トップを取れず、母親と兄弟から馬鹿にされてきた。とはいえ計算はできるし、関数が分からない訳でもない。
なのに、どうしてもテストの問題が解けないのだ。
 
よみがえる嫌な思い出を振り払い、教科書を読む。問題を解く。できない。答えを見る。わからない。
小さな部屋で閉じこもりながら、毎日毎日、ひたすら答えを写す。写してから解こうとするが、やっぱり解けない。だめだ。学生時代と同じで、どれだけ頑張ってもできない。
たしかに私立受験をしたことがないので、習ったことがない問題もある。
しかし、だとしてもなぜ、文章題だけができないのか。
 
「ん? この言い回しが来たら、この操作? ああそうか、操作と言葉がセットになってるのね。なら、あとは文中の条件を整理して、操作して公式か」
 
それは突然だった。
レシピだ。
なぜそう思ったか分からないが、数学の問題がレシピに見えた。
 
砂糖少々は指2本でつまみ、ひとつまみなら3本でつまむ。AまたはBの起きる確率は足し算、AとBが連続で起きる確率なら掛け算だ。
問題文では、操作が指定されている。言い回しからそれを読み取って、指定通りに操作しなければならないのだ。操作に使う公式は決まっている。あとは、条件を紙に書き出しながら、手順通りに解いていけば答えが出る。
 
なんて不親切なレシピだろう。
 
自分がどうして数学ができないか、よくわかった。このレシピが読み取れなかったのだ。つまり、レシピさえ読めれば、あとは必要な手順で操作をするだけだった。ということは、数学ができる人は、無意識にこれができるのだろう。
 
「そうだね。よくできました」
「数学は料理ですよ。レシピ通りやればできるんです」
 
3回目の授業後、質問に来た子が、途中で理解できたと胸を張った。隣の子がちょっかいをかける。大学生なのに、子どもか。
それにしても不親切なレシピは、受講生にとっても不親切だったようだ。操作と言い回しを対照して教えることで、理解が進んでいるようだ。
 
この教え方は、数学的には不正解だろう。
だが、これが国語、いや、5教科を教えている先生の教え方だ。
 
 
 
 
***
 
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2020-10-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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