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人生が変わる宿へようこそ


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:赤羽 叶(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
ザザーン、ザザーン……。
 
寄せては返す波を見ていたら、呼吸がゆったり深くなっていくことに気づく。
目をつぶっても開いてもさえぎることのない海を全身に感じることができる。
 
ここは、瀬戸内海の浮かぶ、とある島。
古く神話をひも解けば、日本で一番最初に生まれた島、なのだとか。
 
ふと思い立って、ドライブに来たのだ。
 
その時に決めてしまった。ここに住む、と。
 
生まれ育った都会を離れて、島暮らしをしたいなんて、そのときまでこれっぽっちも思ったことはなかった。
振り返って今、思えば、導かれたとしか思えない。
 
私は、ここで、より、自分らしさを求めて、生きていくんだ。
この島で、ナウシカのように、生きる。
そう、決めた。
 
***
 
「こんにちはー。お世話になりますー!」
 
ドアが開いて、女性の声が飛び込んできた。
 
今日から、泊まりに来るゲストは5人家族。2部屋使うので貸し切りになる。
 
「いらっしゃいませ。貸し切りですから、家だと思って、ゆっくりしてくださいね。」
 
飲食店の女将として、長らくホールを切り盛りしてきた母が元気な声で出迎えた。
 
「リトリートって言うからには、ひたすら癒されたらいいのかなって、とりあえずノープランで来たっていう感じなんですけど。でも、サイトを見たら、色々とこだわっていそうだったから、それもすごく楽しみなんです」
 
ゲストの奥さんの言葉を聞いたら、もう、母の目がキラキラと輝かせながら矢継ぎ早にまくしたて始めた。もう、どんな人かもまだわからないのに……。
 
「わー嬉しいわ、奥さんはそういうのがお好きなのね。ぜひ、見てほしいんですよ。まず、壁はね、漆喰にマコモっていうイネ科の植物を練り込んであるの。浄化作用があると言われているし、昔から、けがをした渡り鳥がマコモのそばで休養すると言われているくらい力のある草で、出雲大社のしめ縄などにも使われているんですよ。」
 
「へー、そんなことができるんだ!」
 
奥さんも本当にそういうことに興味があるようで身を乗り出してきた。が、後ろを振り返って夫や子供たちが手持無沙汰そうにしていることに気づいてバツが悪そうな顔になった。
 
「とりあえず、荷物を置いてもいいですか? パパ、荷物降ろして釣りに行って来たら?」
 
そこで、一度話は終わりになった。
 
建物は、母が言うように、細部までこだわり抜いて作ってある。素人ゆえに、想いをありったけ詰め込んで、妥協なく作り上げた。新しく始めるんだったら、一切の妥協はしたくない。そうでなければ、20年以上続いた父の店を閉じ、住み慣れた街を離れて、身一つでよりどころもない島に移り住む必要がないからだ。
 
元気者の母だったが、ここ数年は、成人ぜんそくなるものを発症して、疲れると症状がひどくなり、休みの度に起き上がれなくなった。どうにかならないものかと色々調べてたどり着いたのが、酵素風呂だった。タレントがガンの治療に使ったことで有名になったが、酵素風呂の蒸気は母のぜんそくの症状にはあったようだ。
 
だから、居心地のよい宿、デトックスができる酵素風呂の施設、そして、元フレンチシェフの父が腕を振るうオーガニック創作料理の店。この三本柱で行くことに決めたのだ。
 
「すごいですね! ベッド、びっくりしちゃった。あのシーツの肌触りの気持ちよさ。動きたくなくなるわ。」
 
家族を釣りに送り出して、奥さんが話しかけてきた。
 
「でしょう? 京都の、和ざらしっていうガーゼで作られたシーツと布団カバーなんですよ。パジャマもなの。クリーニングは使わずに自分たちで手洗いですからね。いい素材を使っているから、自分たちの手で安心な洗剤で洗いたいから。」
 
いつも、大量の洗濯を一手に引き受けている母が、嬉しそうに胸を張った。
 
「館内は光冷暖という音や風がしない空調設備を設置してありますし、電磁波対策もきちんと取っています。水道管にゼロ磁場発生装置をつけて、さらに飲用のためにはこだわりの浄水器を通すようにしています」
 
「うわっ、うちね、ボチボチ家を建てたいって思っているんで、参考にさせてもらいます!」
 
ここに来る人は、きっとこんな人達ばかりなんだろう。
経営的には、大手の旅行サイトに載せた方が効率的。でも、このこだわりを感じて、喜んでくれるゲストじゃなきゃ、意味がない。ゲストを選ぶ余裕などないのだけど、でも、商売を成功させること以上に、自然と共生していく仲間を増やす感覚の方が強い。だから、全力で最上級の心地よさを追求するのだ。
 
「そういえば、どうして、こちらを知ったんですか?」
 
「知り合いの方が、こちらの紹介をされていて。フェイスブックページの海の写真で一目惚れしたの。子供達の学校の日程を見て、秋休みに長期滞在しようって、すぐに予約しちゃいました」
 
コロナの影響で秋休みが減っちゃったんだけど、なんだか日にち減らしたら絶対に後悔するような気がして、もういいやって何日か休ませちゃった……とゲストの奥さんが笑いながら続けた。
 
晴れた日に、彼らが毎日元気よく遊びに行く姿がほほえましかった。宿自慢の正面から上がる日の出も本当にすごかった! と興奮気味に報告してくれた。
 
「ゆうちゃん、私の周りですごくナウシカが流行っててね。まさに今の時代を予言しているようだって、私も読みたくなって借りようかと思ったんだけど、ここにあって。ああ、ここで読むようになっていたんだねえ」
 
いつのまにかゲストの奥さんも子供たちも私のことを名前で呼ぶようになってくれていた。
 
「この場所で読むナウシカは格別だなあ。自然との在り方、人も人じゃない生き物もすべての存在との生き方と自分の生き方を考えさせられるよね。どんな存在も無視しちゃいけないって。ここで読むから余計に沁みるよ。」
 
チェックアウトの日は嵐だった。けれど、ゲストの奥さんは来たときよりも晴れ晴れとしていた。
 
「ここねえ、宿だけれど、私の生き方の羅針盤みたいな場所になったよ。人生、新しいスタートがきれそう。想いは実現するんだなあって感動しっぱなしだった。それに、うちって家族それぞれのこだわりとか、趣向が全く違うから、泊まるところや食事するところで誰かが妥協することが多かったんだけど、ここはホントにそれがなかった。教えたいけど、教えすぎるともう、次予約が取れなくなりそうで、怖い……」
 
「ゆうちゃん、また、来るけえね、絶対に私の名前覚えていてよ!」
 
子供たちが僕も私もと抱きついてくる。
 
宿をやっていて、報われるのは、こんな瞬間だ。奥さんの心配は、まだ、杞憂だ。そんなに予約は、ない。でも、こんな風に言ってくれる家族が一組、一組増えていく先に、私の、想いが近い人たちと創る理想の未来がある。
 
車が駐車場から出ていくのを、手を振り、これからの彼らの毎日が美しくて、幸せでありますように、とつぶやいた。
 
瀬戸内海に浮かぶ、日本で最初に生まれた島。
ほぼ標準時子午線上のこの場所を、私は、今日も調える。
 
この場所に関わる全ての人の心と身体が健やかになりますように、人と自然が手を取り合って気持ちよく過ごせますように、と。
 
そして、きっと、ここに来るゲストもまた、何かに導かれてやってくる。
そう、私が、この島に導かれたように。
 
この文章を読んで、気になった方は是非探してほしい。
あなたの人生が変わる宿へ、ようこそ。
 
 
 
 
***
 
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2020-10-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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