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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:佐々木 はるか(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「まぁ楽しんできて、帰ったらいろいろ話したいことあるから」
 
20XX年3月、長い長い受験勉強のあとの国家試験後、卒業旅行でイギリスに旅立つ私に、母親からラインが来た。受験期のピリピリしている私に気を使ってくれたのか、久しぶりのラインだった。
「え、なんだろう、この思わせぶりな言い方、気になるなぁ」
今聞きたいと返した私に母からの返事はなく、私はそのまま成田空港を旅立った。
 
……数週間後、1年ぶりに実家に帰ってきた私に、少しやせた母は笑顔で言った。
「お母さんね、乳がんなの」
「え、うそ」
あまりの衝撃に思わず甲高い声を出してしまった私。詳しく聞くとどうやら、年末に受けた健康診断で乳がんの指摘を受けたらしい。もちろんそのあと早速病院へ行き、入院や手術の予定などを決めた。
手術は4月に決まっていた。
心臓がヒヤッとなった。まさかまさかまさか。がんなんて、遠い話だと思っていた。確かに、今の日本では2人に1人は何らかのがんに罹患すると言われている。医療関係の仕事についている私にとって、誰かががんになるとか、誰かの家族ががんになる、というのは珍しい話ではなかった。しかし、家族が、肉親ががんになるとは思わなかった。今の今まで正直他人事だと思っていた。
がんの告知を受けてから半年弱、もちろん父親も知っていた。しかし、私には気を使ってかずっと言わないでいたらしい。いくら受験で気が立っていたとはいえ、告知の衝撃やその後のストレス、不安、悲しみをその瞬間に家族と共有できなかった自分が悲しかった。母も父もどんな思いでいただろう。初期のがんで、転移の可能性は低いと言われてはいたものの毎日辛かったに違いない。あの笑顔の告白までに、母はどれほどの涙を流しただろうか。
その日の夜、整体師をしている母は、いいと言っているのに私の施術をしたがった。体中凝っていた私は溢れる涙を体の痛みのせいにした。
こんなこと本当にあるんだな~。他人事じゃないんだ。乳がんの予後はがんの中でも比較的いい。それはわかっていたものの、心配で今すぐにでも手術してほしかった。病院に電話して「本当に今すぐ手術しなくていいんですか、母は絶対大丈夫ですか」と聞きたかった。心配と焦りと悲しみで感情だけが先走り、冷静に考えられない。1週間毎晩こっそり泣いた。インターネットは見られなかった。ウソの情報もあふれているとはいえ、それらの情報を冷静に見ることができないとわかっていたから。
 
それからの1か月、私は乳児のように母親のそばにつきまとっていた。母親から煙たがれるくらいに。縁起でもないことを考えながら、少しでも母と一緒の時間を作りたかった。
3月下旬、この時ほど実家から出たくないと思った日はなかった。ずっとこのまま家にいたいのに、そう思った。家にいながらのホームシック。私は、後ろ髪を引かれる思いで独り暮らしの家へ戻った。
4月初旬、病院で母のがんと手術に関する説明を受けるために、私はもう一度実家へ戻った。その時の気持ちを忘れることはないだろう。何でもいいから、何でもするから、お願いですから、母を絶対助けてください、そんな気持ちでいっぱいだった。その場で先生に土下座する勢いだった。土下座くらいいくらでもできた。
少しでも風邪を引いたり、インフルエンザにかかったりしたら手術は延期だと言われた。私は早速イソジンやマスクや消毒液を買い込み、母に毎日必ず使うように言い聞かせた。
そして手術日。私は仕事を休めず立ち会えなかった。しかし、手術は無事成功し、転移などもないという。これからは放射線とホルモン療法で経過を見ることになった。
手術の成功の連絡を麻酔から覚めた母から直接聞いた私は、何十回目かの涙があふれた。ありがとうございます、と誰かにつぶやいた。
自分や家族ががんになる、というのは今の時代決して珍しいことではない。交通事故のように誰にでも起こる可能性がある。私の母は、健康にはかなり気を使っており、血圧も高くなく、毎日野菜を食べたり、運動したりしていた。しかし、それでもなるときはなるのだ。そして娘である私も。
家族として私が1番辛かったことは、母や父が一番大変なとき何も知らなかったことだ。みんなで悲しさを共有して分かち合い、そして乗り越えていけたらよかった。そして、母もきっと不安で誰かに話しを聞いてほしかっただろうと思う。その役目ができなかった自分がとても情けなかった。何のための家族なんだろう。
医療者として、今まではがんは珍しくはないけれど、身近に捉えることができなかった。しかし、がんと聞いた時の本人や家族の衝撃を実際に経験してみると、そんな悠長なことは言っていられないことが本当によくわかった。人生の一大事なのだ。その時のあふれる感情を誰かと共有したいと思っている人も多いと思う。そんな人たちに私は寄り添えていたのだろうか……いや、きっと心ここにあらずの状態だっただろう。これからは、医療者として少し進んでその人の気持ちを具体的に想像しながら、ありのままを受け入れ寄り添っていきたい。寄り添っていかねばならない。
 
 
 
 
***
 
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2020-10-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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