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メディアグランプリ

「撮られること」はフィルターを通すチャンスだ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:北 花音(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
渋谷のスクランブル交差点。ラッシュ時の駅のホーム。番組撮影中の通行人……。
毎日かなりの人達が「風景」や「雑踏」として、カメラ越しにその姿を撮られている。
そしてテレビというメディアではマイクを向けられることもあり、インタビュアーは強引であることも多い。
 
私にとって、あの時が「撮られてうれしかった経験」だったなら、今回は「撮られたくなかった経験」だった。
 
平日の昼下がりに観光とは贅沢極まりない気がしたが、求職中の「今」しかできないことをしよう! と、思いきって地元の小さな観光地に出かけた。
 
同行者も県外出身者。住んでいても行ったことのなかった観光スポットを巡り、甘味処でゆっくりとお茶をした。
川沿いを散策中、近くの神社に小さな人だかりがあるのを見つけた。
 
とある祭事があり、集まった人達は、ご利益があるという「あぶり餅」なるものを手に入れようとしている様だ。
私達はふらりとその神社に足を踏み入れた。そして気がついた。
狭い境内のあちらとこちらに地元テレビ局の2台のテレビカメラ。マイクを持った人もいる。
「撮影してるよ、きっと夕方のニュース用に撮ってるんだね」
どうやらコロナの影響でこの祭事も長らく中止を余儀なくされ、久しぶりに行われる今日は地元にとっては「ニュース」なのだった。
 
私は、その「ニュース」に出るのはごめんだった。
地元ニュース番組は結構の割合で知り合いの「誰か」が見ているものだ。
観光客に交じって平日の昼間っからのんびりと楽しんでいる様子が、例え短い間でも放送されてしまったら恥ずかしいではないか。決して悪いことをしているわけではないのだが……。
同行者も一緒の気持ちだったらしく、私達はとっさに逃げた。
 
立派なご神木の陰から「早く撮影終わらないかね」と怪しい動きで様子をうかがう。
カメラは鳥居から参道に向けて全体を撮っている。そして餅を買う人のアップをねらっている。
マイクを向けられている人もちらほら。中々撮影は終わらない。
「もう帰らなきゃ、1年生早く帰ってくる日だよね」
……息子らの帰宅時間が迫り、焦ってきた。
しかし同行者はお土産用にと、意地でも餅を買いたくなってきたようだった。
 
時間に背中を押され、カメラがあちらの観光客に向いているすきに同行者はさっと売り場へ向い、私は先に境内から出ようと鳥居へ向かった。
 
すると、休んでいたはずのもう1台の方のカメラが急いで構えられた。
ADのコードを扱う手さばきも見事だった。
私が進むほどにカメラマン達は後ずさりをし、しまいには鳥居を出て道路から撮影。
逃げるように鳥居を出ようとした私なのに、カメラに向かって歩いていくことになった……。
 
カメラマンの思い描く「絵」はこうに違いない。
「気持ちの良い秋晴の日、友達同士で観光を楽しみ、久しぶりに行われた祭りを楽しむ中年女性」
 
帰りの車中。
「どうしてあんなに偉そうに撮るの? 中には撮られたくない人もいるじゃない!」
「まぁ、進んでインタビューを受ける人もいるけどさ」
「仮病で会社休んでる人とか、不倫旅行の人とか、いないとは言えないじゃんね!!」
と鼻息荒くしたところでふと思い出していた。
 
5~6年前。梅雨が明けきらない「大暑の日」のことだ。
まだ1歳、3歳、6歳だった子どもを地域の屋外幼児用プールで遊ばせていた様子を撮影されたのち、私にマイクが向けられていた。
「じめじめとしますね。もう少しカラっとしてほしいですね。」
などと、にやけ顔で答え、えへへと笑ったところを夕方のニュースに短く放送されたのだった。
 
あの時は確か、カメラが向けられても嫌ではなかった。かわいい盛りの子ども達が水とたわむれる様子を撮ってもらい、むしろ「よい思い出になる」とありがたがっていた。
インタビューに躊躇する気持ちはあっても、楽しむ気持ちの方が大きく、自然とマイクに向かってしゃべっていたのだ。
 
実は今でもテレビのハードディスクに残されていて、たまに子ども達に再生されている。
「『カラッっと』の言い方がおもしろい」とバカにされているが、そこに映った私は変な帽子・くたびれたTシャツ・首にタオルのいでたちでも映れてしまっている。
つまり今よりもだいぶ若く、子育ての充実感で嬉しそうにしているのだ。
「撮られてうれしかった経験」だった。
 
「撮られたくなかった経験」である今回を振り返る。
私は散々文句を言いながらも、実際にはテレビカメラというものにひれ伏していた。
嫌なら手の平なりカバンなりで顔を隠せばよかったのかもしれないのに、カメラが向けられた時には姿勢を正し、微笑みさえ浮かべて歩いていたような気がするのだ……。
拒否の気持ちを言葉にできないのであれば、分かりやすい態度でいる方が撮る側もやりやすく、編集もスムーズなのではないだろうか。意思表示できなかっただけでなく、流されて演じていた自分が悔やまれる。
 
あれこれ考える中で、「撮られてうれしかった経験」「撮られたくなかった経験」どちらからも得られたことがあったと気付く。
「撮られること」とはそれが放送されるされないにかかわらず、
もしかしたらちょっとしたチャンスかもしれない、ということだ。
 
「撮られること」はある意味、究極に自分を客観視できることだ。
一般人として生活する中で、なかなか自分を別の誰かの視線で見ることはない。
 
今の自分ってどんな状況で、どう見られることが多いのか、と気付く。
今の自分はどう見せたいと思っているのか、またどうして見せたくないと思っているのか、ということにも考えを巡らせられる。
 
そこには自分や身近な人からだけではない、新しい視線が確実に存在するだろう。
直視したくない場合もあるが、自分を客観視する視線を持てる人は、とても強い。
 
「撮られること」は視点を変えて自分を見つめなおす。フィルターを通すチャンスだった。
もしそのコツの様なものを得られたなら……。
テレビカメラが無くたってフィルターを通すことはできるはずだ。
 
もっと冷静に人生の歩みを進めるために、時には誰かの視線になって自分を見てみよう。
撮られるというフィルターを時々思い出したい。
 
 
 
 
***
 
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2020-10-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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