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メディアグランプリ

目の見えない4人組の行き当りばったりクッキング


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:大下歩(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「シュー、シュー、シュー」
「もっともっと」
「ボーッ」
「やばいやばい!」
炉の周りにしゃがみこんで大騒ぎしているのは、私と友人夫婦、そして後輩の男の子。目下手に手に団扇を持って、なんとか火を起こそうと奮闘中だ。火は炉に積み上げた小枝や新聞紙をパチパチと燃やし、下から送り込む空気にあおられて断続的に大きく燃えあがるのだが、少しするとすぐに沈下してしまう。なかなか火種全体に行き渡らないのだ。
私たち、全く目の見えない仲良し4人組で火起こしを始めてから、すでに2時間近くが経過していた。
 
三重県五桂池故郷村。
さわやかに晴れた9月の3連休、たくさんの親子連れでにぎわうキャンプ場に私たちが到着したのは、午後3時前のことだった。すぐにキャビンに向かう…といきたいところだが、私たちにはまず突破しなければならない大きな関門があった。目の見えないメンバーだけで行くことを、キャンプ場には事前に伝えていないのだ。白い杖を持った集団が予告なく押しかけていく訳だから、断られても無理はない。そのときはそのとき、キャンプはいさぎよくあきらめて近くでホテルでも取ればいいよね、なんて話していた。
しかし、予想に反して受付のスタッフさんは、驚いた風もなくにこやかに私たちをキャビンまで案内してくれた。「大丈夫ですか?」の言葉もない。その対応があまりにも自然で暖かいので、かえってこちらが面食らったほどだ。
後から聞いたら、私たちを代表して受付をしに行った友人の旦那三は、「ぼくたち、全国をキャンプしてまわってる仲間なんで」と言ったらしい。全く、とんでもない嘘をつく。このメンバーでキャンプをするのなんて、今回が初めてなのに。迎え入れてくれたスタッフさんには本当に感謝しかない。
この日もう1つの幸運は、キャビンと炊事場が20メートルと離れていないことだった。キャビンの戸を出てすぐ右に折れ、まっすぐ10歩歩けばたどり着く。これは私たちにとってはかなり大事なことだ。料理を始めてから忘れ物に気づいたとしても、すぐに取に帰れるからだ。これが森の中を50メートルも100メートルも歩かなければならないなんてことになると話は別だが、さすがにこの距離なら迷子にはならないだろう。俄然、やる気がわいてきた。
夜ご飯のメニューは、キャンプの定番、カレーライス。来る途中でうまくお店が見つかるかわからなかったので、お米も野菜も肉もすべてリュックに詰めて持ってきていた。それらをわいわい言いながら炊事場に運び、男子2人は必要な調理器具とまきと着火材をもらいに受付へと走った。そうしていざ火起こしとあいなったのであるが…。
これが、予想以上に難しかった。みんなで炉の周りを囲み、火の音に耳をすませる。そろそろと炉の上に手をかざして、炎の強さを確かめる。まきを増やし、新聞紙を増やし、着火材を増やし、一心に空気を送り込むが、火力はなかなか安定しない。途中しびれを切らした私と友人が、先にお米を飯盒にセットし、野菜を全部切ってボウルに入れ、付け合わせのサラダを作り終っても、男子2人の奮戦はまだ続いていた。団扇があるのになぜかフーフーと口で息を吹きかけ続けていた後輩の男の子は軽い酸欠を起こしたようで、飲み物を求めて自動販売機まで走って行った。
そのすべてを、しかし私たちは大いに楽しんでいた。それはちょうど、小さい頃レゴや粘土といった工作に夢中になっていた感覚と似ていた。出来栄えではない。速さでもない。効率でも、材料の豊富さでもない。ああでもないこうでもないと施行錯誤しながら、一つひとつ自分の手で完成系へと近づけていく、その過程そのものに喜びがある。いいかげん煙で目がしょぼしょぼしていたが、もしあの時誰か他の人が来て、代わりに手際良く火を着けてくれたとしたら、私たちはきっと盛大にがっかりしたことだろう。
その瞬間は突然にやってきた。下の方の小枝や新聞紙をちょろちょろとなめていた火が、ようやく大きなまきに燃え移る気配がした。
「行け! 行け!」
私たちは息を詰め、必死で炉の下を団扇で仰いだ。私たちの祈りが通じたのか、ほどなく炉の縁に軽い振動が伝わってくるほどの勢いで、明るく暖かい火がしっかりと燃えあがった。
「できたー!」
私たちは完成をあげた。煙でむせるのも気にならなかった。達成感がお腹の底からふつふつと湧き上り、熱となって全身に広がった。  4人で立っているだけでも窮屈な炊事場でなかったら、火を囲んで踊りだしていたかもしれない。
結局、カレーができあがったときには夜9時を回っていた。火起こしを始めたのが5時頃だったから、合計4時間のクッキング。同じ時に料理を始めた周りの家族はもうほとんど引き上げて、聞えるのは秋野虫の声と木々のざわめきばかり。けれどそれも今の私たちには爽快だった。自分たちの手で一から作り上げた夜ご飯を囲んで、澄んだ森の空気を大きく吸い込んだのだった。
 
 
 
 
***
 
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2020-10-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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