fbpx
メディアグランプリ

記念碑は、25回目のマスク


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:一柳亮太(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
誰だって、つらいことは避けたいし、忘れたい。新型コロナウイルスの流行だってそうだ。4月の緊急事態宣言、外出自粛、トイレットペーパーや食料品の買いだめ、どこに行っても無いマスク。半年も経てば、もう過去の出来事だ。
 
先週、某S社が製造するマスクが当選した。マスク不足の頃、急いで製造ラインを設置して製造が始まったマスク。ドラッグストア店頭の混乱そのままに、ネット注文も大騒ぎになったあのマスクだ。念のため申し込んだ抽選は、第25回に至ってようやく当選となった。
 
送料も含めれば、1箱3,670円というお値段。マスク不足が深刻化していた当時はありがたかったが、最近の状況からすればやはり高い。当選を伝えるメールを見た時、思わず「今さら当たっても」とつぶやいていた。
 
高いなら、買わなければいい。だけど「第25回」という数字を見ると、なんだか「購入権」を手放すのがもったいない気がしてくる。悩みつつ見送っている2日後、「購入申し込みがされていません」というメールが届いた。期限はあと4日。さらに迷い始めた。お金か権利か、どちらかに犠牲にすると決めればよいだけのことなのに。
 
周囲の人に、このマスクを買うかどうかを聞いてみた。中にはドライに「高い。今さら要らない」という人も居た。逆に「この冬また必ずマスク不足になる。買う」という反応も出てきた。確かに、その可能性はまだあり得そうだ。
 
中には至極冷静に、「近所のドラッグストアへ行けば、その金額分で2倍の枚数が手に入る。50日間高品質なマスクを使って残り50日が無いよりも、多少質が劣っても100日間マスクをした方が効果的ではないか」という意見が出てきた。なるほど確かに、と頷いてしまう。
 
「そういえば、コロナの前はマスクってどう売っていたかな」という話題も出た。当たり前に売っていたけれど、何枚入りで、いくらで、どんなメーカーが作っているのかなんて、ほとんど気にしていなかった。
 
考えているうちに、「なんでこんなマスクに頭を悩まされているんだ」という気がしてきた。外出の時には、家のカギや鞄のサイフと並んで気にするものが一つ増えた。道端や電車でマスクをしない人を見かけて、咳をすると気になる。かれこれ半年以上、日常のあちこちがマスクに左右されている。もうマスクのことなんて考えたくない、忘れたい。
 
コロナが日常になる前のギリギリ最後の頃を思い出した。いろいろ見に行きたいものがあって、三陸地方を旅していた。その中の一つが、岩手県宮古市の重茂半島、海沿いの姉吉集落にある「大津波記念碑」だった。
 
この記念碑ができたのは、1933(昭和8)年の津波の後という。4人を残して全滅した姉吉集落で、津波が到達した場所に建てられた、怖さを伝えるための記念碑だ。少し難しいのだけれど、碑に刻まれた文章を引用する。「高き住居は児孫の和楽 想へ惨禍の大津浪 此処より下に家を建てるな」
 
「高い場所に建てられた家は、子や孫を和やかにする。津波を思い出せ。ここから下に家を建てるな」この教えを守った姉吉の人たちは、2011年の東日本大震災でもほとんどの人が無事に津波から身を守れたという。
 
そうだ。ハッとした。最近の「ニューノーマル」な日々で、なんとなくコロナの恐ろしさを忘れてかけていた。あまりにも日常になっていて、最初の頃に持っていた怖さの感覚を、分かっているつもりで忘れかけていた気がする。痛さも慣れれば日常になるように、怖さ恐ろしさも同じなのだろうか。すぐにパソコンを起動して、埋もれていたメールを再び開いて、販売サイトへ飛んだ。マスクの購入ボタンをクリックした。
 
数日後、専用の箱に入れられて、マスクためだけに宅配便が届いた。箱から取り出すと、ごくありふれた50枚入りの箱入りマスク。少し眺めてから、机の脇に置いた。ありふれたものでも、この箱入りマスクは記念碑だ。忘れたいこと、怖かったことを思い出して注意するための過去の自分からの言葉だ。
 
25回目の抽選結果を伝えるメールは、忘れかけていた緊急事態宣言解除の前に引き戻してくれた。もちろん、状況は日々変わっている。治療法や感染を防ぐ新しい生活の中で、以前のような警戒をする必要はないかもしれない。だからこそ、このマスクの箱を机の上へ置いておく。いつか必ず「いい加減にこのマスクは捨てよう」と思う日が来ると信じながら。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325


■天狼院書店「シアターカフェ天狼院」

〒170-0013 東京都豊島区東池袋1丁目8-1 WACCA池袋 4F
営業時間:
平日 11:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
電話:03−6812−1984


2020-10-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事