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メディアグランプリ

見知らぬ土地で、歴史に刻まれたいたわりと思いやりに出会う。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:白銀肇(ライティング・ゼミ7月通信限定コース)
 
 
10月24日午後8時。
場所は横浜駅東口付近。
一人での晩ご飯を終え、時間を潰せる場所を探して見知らぬ土地をさまよっている。
 
この日、知人に会うべく日帰りで横浜に訪れていた。
京都に住んでいる私にとっては遠い土地。
新幹線で文字通り「日帰り」はできるが、費用がかさむので往復ともに深夜バスでの移動を選んだ。
 
このとき、京都まで帰るバスの時間待ちをするため、落ち着ける場所を探し求めて歩いていた。
 
本当は、居酒屋でゆっくりと時間を潰すつもりだった。
ゆっくりとお酒を飲みつつ、好きな一品料理でもつまみながらライティング記事でも書こう、という妙案を思ついたからだ。
だけど、その妙案は自ら潰してしていくことになる。
 
落ち着ける店をようやく探し、そこに向かう。
しかし、その途中で手頃な焼肉屋さんの看板を発見。
肉好きの私はその看板に心惹かれてしまい、ついその欲求に耐えられずそのお店に飛び込んでしまった。
ロースターで焼きながら食べるスタイル。
そんな焼き肉を食べつつ飲みながら、パソコン開けてライティング……。
そんなことできるわけがない。
ということで、そこはもう欲求解消の食事に専念することに気持ちを切り替えた。
 
その店を出たのは午後8時あたり。
出発まで、あとまだ2時間半以上もある。
さぁ、どこにしようか……。
人が多いところは苦手だ。
だから、有名どころのカフェとかに行きたいとは思わない。
 
あてもなく歩いていたら、ふと気になる店が目に入った。
とあるビル1Fにあったお店。
店の間口は狭く、奥のほうへ長く店の空間が並んでいる。
なんとも細長いつくりのお店。
お店の看板の名前と、そのたたずまいから酒屋さんのようだ。
 
そんなお店がなぜ気になったか?
普通の酒屋さんでは「そのようなものを店先には飾らないだろう」というものが目に飛び込んできたからだ。
 
それは、その店先にはためいていた「のぼり」だった。
そこには「焼きそば」「たこ焼き」と書かれたのぼりが立っているではないか。
酒屋さんに、そんなののぼりってふつう立っているか??
たちどころに私の吞んべえセンサーがはたらいた。
 
「ここ、立ち飲み屋さんとちゃうか!?」
 
普通の酒屋さんが営む立ち飲み屋さん。
この姿を見ることは、もはや少なくなったのではないだろうか。
今でこそ、スタンディングスタイルのお店は流行っているけど、そもそもの原型はこの立ち飲み屋さんだと思うのだ。
最近のコンビニでのイートインスタイルもとかもこの流れではないか? と個人的には思ったりもする。
 
私がこのような立ち飲み屋さんを初めて体験したのは、20数年前、30歳台前後あたり。
前勤めていた会社近くのちょっとした路地に、酒屋さんが営む立ち飲みのお店があった。
そこに会社の先輩に連れられていったことがきっかけだった。
 
店主は、物事をはっきりと言うきっぷのいいお母ちゃん。
店の常連の大半が前の会社の人たちだったが、「ここはもう会社じゃないから上下関係でもの言わないでね」と相手が役職者であろうがなんだろうがキッパリと釘を刺す。
客が飲み過ぎたらお酒は出さない、それどころが帰してしまう。
飲み過ぎたら他のお客さんに迷惑をかけるから、というのがその理由。
「ここでは、家に帰る前に会社であった少しモヤっとしたものを置いていってもらうところ。スッキリして家帰って寝て次の日頑張ってもうこと。それが信条」と語る店主お母ちゃん。
「だって、そうしてくれたほうが売り上げは続くし、健全でお互いさまやん」と笑っていた。
そこには売り上げよりも、まずお客さんの身体を気遣う気持ちがしっかりと込められていた。
そんな雰囲気に惚れ込んでしまって、その日から私は早速常連さんになっていった。
 
さて、かのお店の前。
やはり、見た目は普通の酒屋さん。
でも、確かに「焼きそば」「たこ焼き」と書かれたのぼりがある。
立ち飲み屋さんだろう、という疑惑を強めるが確証はない。
 
店のドアを開ける。
その瞬間、疑惑は確証に変わった。
 
その証拠は、店にたちこめていた「タバコの匂い」だった。
普通にお酒だけ売っている酒屋さんで、タバコの匂いなんてするはずがない。
飲みながらタバコ吸えるお店だ、もう間違いない。
だから質問もそのままズバリ。
「ここ、ひょっとして立ち飲みできますか?」
店番の女性がすかさず答えてくれた。
「はい、ここで飲めますよ」
 
我が呑んべえセンサーの直感は正しかった!
 
店には私以外の客は見当たらなかった。
初めてなのでここのシステムと聞く。
冷蔵庫から好きなお酒を持ち出しレジで払う。
そして、店の奥のカウンターで飲む。
おつまみは、目の前のカウンターにあるスナック菓子から当てのものも一緒にレジで支払う。
おつまみとして缶詰もありますよ、とも教えてくれた。
 
一緒だ、私が通っていたお店とシステムは全く一緒だ。
 
酒とつまみをレジカウンターで買って店の奥へ持ち込む。
そこにあるカウンターテーブルは、お酒のビンが入っていたプラスチックケースを数個積み重ね、その上に板を置いたもの。
バッチリの雰囲気。
 
そして、秀逸だったのは、そこの壁に貼ってあったいっぱいの貼り紙。
毛筆で力強くもやわらかい文字で書かれていたそれらのことばに目を奪われた。
 
「一杯目 人、酒を飲む
二杯目 酒、酒を飲む
三杯目 酒、人を飲む
良い酒、うまい酒ほどほどほどに」
 
「おしゃべり長居は喫茶店でやってくれ」
 
「酒店の長居、みんなの迷惑、世間と気遣い第一」
 
「酒店ではぐっと飲み干しグッドバイ、お互いに気持ちよく」
 
「他からの持ち込みは許さぬ、罰金三倍、以後立ち入り禁止」
 
明らかに、お店の迷惑をかける客は許さないよ、と言っていることばたち。
でもそこには、売り手側のもうひとつ大事な気持ちが感じられる。
 
それは、「変な気持ちでお酒を飲んで欲しくない。楽しく飲んであとくされなくスッキリ気持ちよくなっていって欲しい」というお客さんへのいたわり。
 
思わず、私が常連だった立ち飲み屋の店主お母ちゃんの思いとオーバーラップする。
 
お店の売り上げがどうのこうのじゃないのよ。
お酒というのは、時としては危ういもの。
だからこそ、お酒に飲まれてほしくない。
ここでは、お酒はしっかりと味わって楽しんで飲んで欲しい。
 
お酒を百薬の長として、身体と心を癒して欲しい、という願い。
 
話を聞くと、これらの貼り紙は、お店番をされている女性のお父さんが書いたそうだ。
さらに聞けば、このお店を開いたのはひいおばあちゃんで大正時代から続いているという。
老舗中の老舗ではないか。
冬場には、酒造メーカーから直接樽酒を運び入れて販売もするらしい。
 
お酒を飲むお客さんの体調や気持ちをいたわり、お酒好きな人に少しでも楽しんでもらいたい。
話を聞くほどにそんな酒屋さんの「意気込み」がひしひしと伝わってくる。
 
そんな意気込みだからこそ、惚れ込んでしまった常連さんも数多く、長く続いてきたのだろうな、とそんな歴史を感じられずにはいられない。
貼り紙を貼った店主と、常連さんとのやりとりですらなんか聞こえてきそうだ。
 
横浜で立ち飲み屋さん。
まったく思いもよらなかった出会い。
そのことについ夢中になってしまった。
飲みながらパソコン開いてライティング記事を書く……、その妙案がさらに忘却の彼方となったことは言うまでもない。
 
 
 
 
***
 
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2020-10-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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