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映画「スキャンダル」はあまりに根深い性差意識のリトマス試験紙


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記事:大野了(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
凄い映画だ。
 
でも、私はこの映画を語るのが怖い。
 
なぜなら、私は男だから。
 
シャーリーズ・セロン、ニコール・キッドマン、マーゴット・ロビーという3大女優競演の豪華キャストで、全米最大のTV局を揺るがした衝撃のセクハラ騒動を描き、アカデミー作品賞にもノミネートされた本作。
 
でも日本では劇場公開時も、期間限定配信時にも、DVDリリース時もほとんど話題が広がらなかった。なぜだろうか。
 
この記事を書く前に、私は幾つかの映画レビューサイトで数百件の感想を読んだのだが男女でここまで語る言葉が違うのかと驚かされた。
 
男性が書いたレビューから感じたワードは‘無関心’と‘他人事’
 
女性が書いたレビューから感じたワードは‘怒り’と‘痛み’。
 
そのあまりの落差に愕然とした。
 
大抵の男性は、この映画に関して完全にお茶を濁しています。
 
一方で女性が書いたレビューの多くには、激しい怒り、深い痛み、哀しみ、諦め、個人的な経験や拭い去れないトラウマまで吐露して、涙ながらに語られるものもあり、私はその無数の悲痛な叫びに対して、何の言葉も持ち合わせていないことを思い知った。
 
正直、どんなに想像力を駆使しても、この映画で描かれた女性たちや、この映画を観て語った女性が共有する深い痛みと怒りを、男の私が同じ深さで感じることはできない。
 
もちろん彼女たちの表明に同調したり、セクハラで告訴されたFOX元会長を非難することも、訴えた主人公女性の勇気を称えることもできるだろう。でも、あまりに薄い、他人事めいた一般論にしかならないのだ。
 
数は少ないものの、男性が書いたレビューでは気軽にこの映画が語られ、その無意識に吐き出された言葉が、絶望的な無理解を露呈していることに気づかない。
 
こう語る私も、おそらく自分の無理解を晒すことになるだろう。同調してフェミニズムぶったところですぐ底の浅さを露呈するだろう。
 
本当の意味で彼女たちの痛みを感じて、涙を流し、血を流すことは、私を含む世の中の男性陣に取ってあまりに大きな隔たりがある。
 
映画の中盤、新人キャスターのマーゴット・ロビーが意を決して告発の電話をかける場面で、涙がいきなり零れた。
 
でも、直後に気がついた。こんなにも彼女が深く傷ついていることにその時、初めて気づいたことに。感情がやっと繋がったことに。
 
思えば、私は幼い頃から母と年の離れた姉を心底リスペクトする女性崇拝的な観念で生きてきた気がする。
 
感性が中性的だと言われることも多く、大学時代の親友は主に女性だった。自分はどこかで他のマッチョな男友達よりフェミニストだと思っていたが、そんな生易しい幻想がこの映画で打ち崩された。
 
シャーリズ・セロン演じた人気アンカーのメーガンが告発するかどうか決断する直前、それまで彼女を「応援するよ」と言っていた同じチームの男性社員が放った言葉は、自分の立場が悪くなることを避けようとする、すべて自分と家族を守る保身の言葉だけだった。
 
確かに彼女と共に行動をすることで仕事も無くなり、家族も路頭に迷うかもしれない。至極常識的な判断だ。たとえそうだとしても、彼の表面だけ同調した軽薄さと、即座に身を翻す臆病さは、自分の内面を見たようで忌々しかった。
 
エセフェミニズムが空虚に消し飛んだ。
 
無理解と理解にも差があり、理解と共感にも差があり、共感と協力にも差があり、協力と自己犠牲はあまりにも差がある。
 
本当に深い感情の共鳴と勇気が無ければその溝は超えられない。
 
一度、映画レビューに戻そう。
 
ジェイ・ローチ監督のニュース映像やトランプ大統領の実際のツイート、実名描写を畳みかけるスピード感溢れるスリリングな展開と、相当の覚悟を持って出演したシャーリズ・セロン、ニコール・キッドマン、マーゴット・ロビーのヒリヒリするような演技に加え、主人公メーガンの決断を見守る緊迫感が凄まじく、社会派エンタテイメント作品でここまでスリリングな作品はなかなかない。
 
ただ、やはり圧倒されたのは、メーガンを演じると共にプロデューサーとしてもこの作品を背負うシャーリズ・セロンの凄み。
 
眼差し一つでこちらがギュッと心臓を掴まれるような、まさに戦場の第一線で闘っている女性の凄まじい緊張感がビリビリ迫ってくる。その表情一つで自分の決断が及ぼす事の深さ、重大さを物語る。
 
それにしても、シャーリズ・セロンが演じたメーガン。あなたはあまりに強かった。1万人に1人もいるか知れない程の強い女性だった。強靭なタフネスと共に権力とお金もある。でも残念ながら他の9999人は彼女にはなれない。
 
勇気を出して手を挙げて仕事を失う人も、余計生き辛くなることも、痛みを更に深くすることも、他に数えきれない程のリスクと障壁があるだろう。
 
で、男は再度、問われる。
 
あなたは、まだ傍観者なのですか?
 
それとも、加担者ではありませんか?
 
誰か、立ち上がる人はいないのですか?
 
いえ、あなたが立ち上がる勇気はありますか?
 
一緒に、社会構造を変える闘いをしてくれる人はいるのですか?
 
そんな無数の問いが空中を舞ったまま、男はスイッチを切って日常に戻る。
 
私も、その一人だと言わざるを得ない。
 
ただ、遅ればせながら私は、このあまりに深い男女間の痛みの共有の無さ。共通意識の断絶こそが男女に横たわる、目に見えないけれども、あまりにも大きい溝なのだと気づいた。
 
実際はそれ以前に、日本でもまだまだ多くのセクハラ男が横行しているため、この議論に至ることさえ、ほとんど無いような気がするのだが……。
 
そして私自身、この映画を観ても「理解」「共感」の先にある「協力」「自己犠牲」までは遥かに遠く、自分を変えられないと思った。
 
きっと妻の身に及ぶことならば、命をかけるだろう。でもそれは、自分以上に大切な存在でないと動けないということだ。この国の女性のために、同僚の女性のために共に闘えるとは正直、口が裂けても言えない。
 
あの情けないチームメーガンの同僚の彼。それが、今の自分のまんまの姿だ。
 
#MeTooの熱にも日米で相当開きがある中、基本的に無頓着で人任せな日本社会で、無数に存在する深い痛みを抱えた女性たちに気持ちを寄せ、社会に蔓延るセクハラ、パワハラを減じる為に是正すべき点は何かを理解し、勇気を持って行動できる人がこの国の経済、政治、組織の中枢に増えてほしい。
 
感情が動かなければ、人は動けない。
 
多くの男性がこの映画を観たらいいなと思う。
 
気づかぬうちに、リトマス試験紙であなた自身の意識を判定されてしまうから。
 
この映画を観た時に主観的に何を感じるのか。
 
いや、自分が本当に本音で何を感じたのか。
 
その心の奥底にあるものを自ら発見して欲しい映画だ。
 
 
 
 
***
 
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2020-11-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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