メディアグランプリ

身体の中の桃太郎


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記事:大塚啓介(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「むかーしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんがいました」
あまりにも有名なこの一文から始まる国民的物語、「桃太郎」。
猿、キジ、犬を連れて鬼退治に行く桃太郎が、「悪」を倒す様は、英雄をあらわした鑑のような存在と言えるだろう。
小さい時から親しんできたその童話の登場人物は、我々の心の中に根付いているかと思うが、実は我々身体の中にも実際に桃太郎がいるということをご存知だろうか。
この桃太郎は、我々が生きていく上で欠かせない存在であり、現代の医療において最も注目を集めている存在と言っても過言ではない。
 
Tリンパ球。そう、彼こそが人間の体の中にいる桃太郎である。
人間にとって鬼とは。それは細菌であり、昨今賑わせているウィルスであり、そういった「病原体」である。
いつの間にか体内に侵入して、細胞に傷害を与えどんどん身体を蝕んでいくそういった微生物たちは、これまで最も多くの人間を殺してきた生物と言えよう(ウィルスは厳密には生物と言えないが)。
 
そんな人類史でも切っても切れない関係である鬼を退治してくれるのが、Tリンパ球率いる「免疫」なのだ。
 
血管という川にどんぶらこ、どんぶらこっこと流れてきた未熟なTリンパ球は、まず胸腺という臓器へたどり着き、お婆さんお爺さんと運命の出会いを果たす。童話「桃太郎」では、二人に大事に育てられた桃太郎であるが、人間の身体の中はそう甘くはない。
胸腺にたどり着いたTリンパ球を待ち受けているのは「スパルタ教育」である。数々の関門を突破しないと、なんと殺されてしまうのだ。
もちろん主人公が一人、殺されてしまったら鬼退治もクソもない。Tリンパ球というのは山ほどいるのだ。すなわち、我々の身体は「桃太郎製造機」でもあるのだ。
ひたすら厳しい教育を潜り抜けた精鋭たちだけが鬼ヶ島へ向かうことを許可される。
 
桃太郎とともに鬼退治に向かう猿、キジ、犬。人間の身体でいうと、好中球、マクロファージ、そういった細胞たちだ。しかし、実はすでに彼らは鬼ヶ島へ駆り出されて闘っている。しかも残酷なことに彼らは自らの体に鬼を取り込むことで、自らを犠牲にして鬼を道連れにするのだ。童話ではあり得ない話である。
猿、キジ、犬もまた、大量生産されて戦地へ駆り出されるのだ。我々の身体には「桃太郎」がいる、とは言ったものの、実際には童話以上にかなりの戦力が注ぎ込まれているということになる。そう考えると、動物3匹連れて鬼ヶ島を壊滅させた桃太郎は、凄まじい戦闘脳力の持ち主だったのかもしれない。
 
我々の身体の桃太郎たちが力尽きた時、それは「死」を意味するが、その最悪の事態を避けるために人間は「抗生物質」という武器を開発したのだ。言うなれば、今まで素手で戦っていた桃太郎たちに戦車を与えるようなものだ。
これによって一気に形勢は逆転し、鬼に打ち勝てるようになってきたのだ。
 
タチが悪いのは、鬼がウィルスである時だ。ウィルスは健常な細胞に侵入し、好き勝手に増殖していく。その様は、まるで人質をとる極悪犯罪人である。我々の「桃太郎」たちも容赦はせず、何と人質もろとも殺害してしまう。しかし、ウィルスが面倒であるのは、基本的に抗生物質が効かないということである。つまり戦車が投入することができず、素手で戦うことを強いられるのだ。
 
最近の医療の発展によりウィルスの増殖する過程が研究され、一部のウィルスでは「抗ウィルス薬」が開発されたことにより、治療が可能な疾患も出てきた。しかし、ウィルスは依然として厄介な存在であり、現に我々をこれほどまで苦しめているのはコロナという強烈な鬼が現れたことは言うまでもない。
 
桃太郎に直接感染して、鬼退治すらさせないという恐ろしい鬼もいる。それがHIVである。HIVに感染してAIDSを発症してしまえば、桃太郎はもう役立たずとなってしまう。猿もキジも犬も、勝ち目はなくて、桃太郎に今まで簡単にやっつけられていた「雑魚キャラ」も調子に乗って暴れ出して、身体がズタズタになってしまうというトンデモナイ状態になる。
 
身体の中にいる「桃太郎」は、最近では癌の治療にも応用されている。つまり、「鬼」=癌であるからだ。癌は、桃太郎の攻撃を上手に避けて上手くやり過ごすことができる、ずる賢い鬼なのだ。それゆえに鬼退治に向かった桃太郎が道に迷ってしまい、その間にどんどん体が蝕まれていく。つまりこの鬼は透明マントを持っているのだ。何ともいやらしい。
 
しかし、この透明マントをはがす薬が日本人によって開発された。その功績によって何とノーベル賞まで受賞した。桃太郎が世界中から注目を集めている証拠とも言えよう。
 
さて、ここまで我々がもつ「桃太郎」の働きについて述べてきた。童話「桃太郎」では、桃から生まれた強い子が、猿キジ犬を連れて鬼をボコボコにするという何とも清々しい話となっている。しかし、我々の身体にいる「桃太郎」は、ボコされながらも戦車を投入したり、猿キジ犬に自爆させたりと、かなり血みどろな戦いを繰り広げているのだ。
今普通に呼吸をして、不自由なく生活できているのも、この小さな桃太郎のおかげであるのだ。そんな働き者の自分の体をいたわって、日々過ごしていきたいものだ。
 
 
 
 
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2020-11-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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