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パートワークで完結迄買い続けたら、想定外の宝物になった


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:山田THX将治(ライティング・ゼミ特講)
 
 
『パートワーク』
と、いう言葉を御存知だろうか。先に申し上げて置くが、パートタイムで働く仕事(ワーク)のことでは無い。ちゃんとした、経済・ビジネス用語だ。
 
『パートワーク』とは、長期にわたり月刊や隔週刊で発売される雑誌を集めると、最後には一つのコンテンツが成立するセールス・モデルのことだ。企業名を出す形になってしまうが、一般的には『ディアゴスティーニ商法』でも通じるらしい。
このD社が次々と出してくる、いつ終わるか解らない雑誌のことを業界では『パートワーク』と呼ぶそうだ。
 
『パートワーク』で発売される雑誌は、読み物としての価値は余り無い。しかし、付属しているDVDや模型のパーツが集まると、立派なコレクションとして価値が出て来る。肝心なのは、完結する迄買い続けることで、途中で買うのを止めてしまうと、そこまでの継続努力が一気に無駄となってしまう。
要するに、『パートワーク』に手を出す際には、自分が最後まで続けることが出来る性分かどうかを、十分に考えた方が良い。実際には、続けられる人は少ない。何故なら、『パートワーク』で発売される雑誌は、その多くが創刊当初の物は書店に多く入荷する。しかし、その数は徐々に減っていき、下手をすると全く入荷しない書店が出てきたりする。
書店が、最後まで置き切ることが出来ないのだから、完結する迄買い切ることは、買う側だって結構大変なのだ。何しろ中には、100号を越えても完結しないシリーズも有ったりするのだから。
 
恥ずかしながら、かくいう私もこういった『パートワーク』で出版される雑誌に弱い。それも極端にだ。それは単に、“限定品”という言葉や雑誌の“付録”みたいなオマケに弱いことから来るのだ。
私はこれまでも、いくつもの『パートワーク』シリーズを完結する迄買い続けてきた。今では、結構なコレクションが完成している。
ただ困った事に、私の趣味で買い続けたものだから、他人から見ると然程(さほど)の価値も、感じて貰えることは無いだろう。何しろ、他人の眼には、同じ様な物ばかりと見えることだろうから。
もう一つ感じるのは、私にとってコレクションを集めることは簡単なのだけれど、徐々に置き場所に困って来ることだ。それと同時に私の死後、これらのコレクションは、どうなってしまうのだろうと考えると恐怖さえも感じてしまう。
 
先日も、私が買い続けた『パートワーク』が、1シリーズ完結した。
朝日新聞出版から出されていた『黒澤明DVDコレクション』というシリーズだ。このシリーズは、日本映画界が世界に誇る巨匠・黒澤明監督の全作品DVDに、解説用の薄い小冊子が付いたものだ。
映画、特に黒澤監督フリークとして自他共に認める私は、黒澤明監督作品のDVDなら既にBOXでコンプリートしている。黒澤監督の関係書籍も、古本屋やAmazonでも探せない位所有している。
それでも今回、このシリーズを買わずにはいられない訳が有った。この『黒澤明DVDコレクション』には、付録の付録として“復刻版パンフレット”が付いていたのだった。そのパンフレットは復刻版であるものの、封切り当時に映画館で売っていたものと同じものだ。品物はオリジナルでは無いものの、掲載されている写真や解説、そして広告等が当時のままの物なので、私が生まれる前の貴重な資料となると考えたからだ。
黒澤明監督が注目され始めたのは、戦後直ぐのことだったので、“復刻版パンフレット”には旧仮名遣いや、現代では当用漢字から外された旧漢字さえも使われているので興味が増すものだ。
私には、それともう一つ理由が有った。黒澤監督は東宝の専属監督だったが、一時期、労働争議の関係から東宝で映画を作ることが出来なくなり、他社で数作品製作していたことがある。その中には、ベネチア国際映画祭でグランプリを受賞した『羅生門』がある。このことにより、黒澤明監督のDVDBOXは、全作品が一つのシリーズに収まることが無かったことだ。
 
私は、この『黒澤明DVDコレクション』に一つの安心感が有った。それは、このコレクションのコピーに‘黒澤明が世に送り出した珠玉の名作が、今、蘇る!’と在ったからだ。黒澤明監督の作品は全部で30作。30冊の『パートワーク』なら、隔週で出版されれば3年と掛からずに完結すると思ったからだ。
それに、発行される小冊子を纏(まと)める専用バインダーも同時に発売されていて、一つのバインダーに15冊の小冊子が挟み込める様になっていたからだ。
「これなら、専用バインダーは2冊でいいな」
私は当然過ぎる程当然な答えを出し、専用バインダーも2冊用意した。
 
私がバインダーに拘るのは、以前購入した『パートワーク』もので、痛い目に合っていたからだ。
また、今回の『黒澤明DVDコレクション』は、全国紙の出版部が発行しているので、無茶な販売はしないだろうと考えていた。
 
これはよくあることだが、D社を例にとると、その『パートワーク』には明確な完結先・着地点が見えないものだ。しかも、創刊号は価格が半値程に為っていて、手に取りやすい設定になっている。その上、創刊号には専用バインダーが付録として付いている事が儘有るのだ。
これでは、このシリーズがいつ終わるか見当が付かない。最悪なのは、号が進んでいき創刊号に付いていた専用バインダーの1冊目が一杯になる頃には、そのシリーズを購入し続けるのに大型書店を回らなければならなくなることが多かったからだ。
それと同時に、新たに専用バインダーを購入しようにも、どこにも見当たらず、そればかりか、バインダーの単価が創刊号の10倍近くするものまで現れるのだった。
そんなことに懲りた私は、映画『スターウォーズ』の『パートワーク』が発売された際、創刊号だけ10冊購入した。専用バインダーを先に、しかも廉価で確保する為だ。周りからは呆れた視線を頂戴したが、完結する迄そのシリーズを購入したので、私には十分価値あるものだった。
しかし、敵(D社)もさるもので、『スターウォーズ』シリーズの専用バインダーは、10冊では間に合わなかった。
 
創刊号から買い続け、専用バインダーも2冊用意した『黒澤明DVDコレクション』だったが、完結が視野に入る25号辺りになると不思議な広告が同封されて来た。それは、新たに専用バインダーが出来上がりましたという告知だった。
既に2冊用意してある私は、余裕で構えていた。
ところがだ、完結する筈だった30号に、何と“次号のお知らせ”の頁があったのだ。私は動揺しつつ、お知らせを確認してみた。そこには、黒澤明監督が執筆し他の監督で映画化された脚本を、次号から特集するとあったのだ。
私は困惑しつつも、納得出来た。そして、
「それでも精々、後15号位で完結するだろう」
と、タカを括(くく)っていた。ただ私は、黒澤明監督が演出した映画は熟知していたが、執筆した脚本迄は感知していなかったからだ。
 
結局のところ、『黒澤明DVDコレクション』は、45号では完結しなかった。60号を過ぎても続いていた。私は次々と、専用バインダーを買い足していた。
「こんなに迄、黒澤明監督は脚本の執筆依頼を受けていたのだろうか」
と、私は少し、訝(いぶか)しく思った。
60号に在った‘61号予告’には、『エノケンの千万長者』と出ていた。
‘エノケン’とは、浅草出身で戦前の黎明期に映画界に進出した名コメディアン、榎本健一のことだ。黒澤明監督自身の作品でも戦中に作られた『虎の尾を踏む男たち』に出演していた。
しかし、黒澤監督が東宝に入社する以前から、エノケンは活躍していた。そうなると、’エノケン‘の冠が付く作品で、黒澤明監督が脚本を執筆していたとは時代が合わず考え難い。
 
二週間後、私の手元に『黒澤明DVDコレクション61号』が届いた。私は早速、中身を確認した。『エノケンの千万長者』のスタッフ欄には、脚本のところには“黒澤明”の名前が無かった。
その代わり、演出助手の欄にその名が在った。演出助手とは、今風な表記では助監督のことだ。監督・脚本の欄には“山本嘉次郎(かじろう)”の名が在った。
山本嘉次郎監督は、黒澤さんが東宝に入社当初に師事していた恩師ともいうべき人物だ。
私は、
「こうなると、黒澤さんがスタッフとして加わった作品まで出て来るので、このシリーズもいつになったら完結するのか解らないぞ」
と、覚悟した。ただ、念には念を入れて、専用バインダー購入は5冊目で踏みとどまっていた。
 
当初、3年程で完結すると思われた『黒澤明DVDコレクション』。
優に5年が経った先月のこと、届いた『黒澤明DVDコレクション』の71号の表紙には、突然【遂に完結 !】の表記が為されていた。
専用バインダーが、15冊纏めだったことから、私は勝手に75号で完結すると思い込んでいた。突然の完結に、私は少々虚を突かれた。少し脱力しながら、
「折角、5年も続けたのだから、キリよく終わらないものかねぇ」
と、独り言が出た。
 
私を5年間にわたって楽しませ、少々悩ませた『パートワーク』。
私の元には、貴重な復刻版パンフレットと小冊子、そして、これで3セット目となる黒澤明監督作品のDVDコレクションが残った。
 
3セット目とは、多少、無駄をしている感じもした。しかし、71号まで続けてもらった結果、多分入手困難だった黒澤監督の師匠・山本嘉次郎監督のDVDを入手することが出来た。それも相当な数を。
山本嘉次郎監督の作品だけではない。
何処を探せば出会えるのだろうと、不思議に思える様な貴重な作品のDVDも数多く手にすることが出来た。
 
これ等は総て、私にとっては宝物だ。
 
黒澤明監督が研鑽された、若き日の苦労に、改めて頭が下がる思いがした。
 
黒澤明監督、沢山の映画を残して下さって有難う御座います。
紛れもなく貴方は、私の英雄(ヒーロー)です。
 
 
 
 
***
 
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2020-11-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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