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「退職代行」というサービスを考える


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記事:山田真美(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「退職代行」というサービスをご存じだろうか?
 
文字通りのサービスで、務めている会社へ退職の意志を伝えられない方の代わりに、退職の意志を伝え、退職手続きを請け負うサービスだ。
ニュースで度々取り上げられ、認知度は高まっていると思う。
 
このサービスが誕生した頃から今まで、老若男女から賛否の声があった。
私も学生の頃にこのサービスを初めて知り、正直「こんなことを依頼する人がいるのか?」と思っていた。
しかし、その数年後、自身の退職交渉が難航し、その必要性を感じることになった。
 
私の退職交渉は4か月間に及び、「退職交渉 難航」「退職交渉 進まない」などのキーワードでひたすらネット検索し、「大変だった」という方のエピソードを読んでは対策を練り、心を落ち着かせる毎日だった。書店で労働基準法等の説明がされている本や、退職代行の方法が示されている本を購入し、熟読した。
 
ただ、私は退職代行を利用しなかった。「利用できなかった」というべきかもしれない。
 
これらの退職エピソードには、最終的には「退職届を郵送したら出社しなくてもいい」「法律で守られているから逃げて大丈夫」というようなことが書かれていた。
たしかに、そもそも交渉どころか、話をする機会すら与えないような会社もある。何度言っても堂々巡りで、何も話が進まず、退職者が疲弊してしまうことも多い。
そんな時は、逃げてしまえと思うのも無理はないし、私も友人が疲れきっている様子であれば、逃げるようアドバイスするかもしれない。
 
でも当事者ではそうはいかないと思ってしまう。
退職してから読んだ新聞のコラムにもあったが、転職や退職によって「逃げた」ことは、転職先でも同じように悩むことになるということが書いてあった。
退職交渉をしている当時、私も同じようなことを考えていた。
「逃げた」ものは、必ず後から追ってくる。嫌がらせが続いたり、後悔の念に襲われたり、どのように追われるかは分からないが、必ずまた同じ原因で悩むことになる。そんなことなら、今どうにかして解決しておきたいと考えていた。
 
でも、ギリギリだったと思う。
仕事の日は、家を出る前に必ず吐き気に襲われた。駅に向かう道中もずっと気持ち悪かった。満員電車に乗るのが怖くなり、有料で座席指定ができる車両に乗っていた。
薬局で購入した吐き気止めを何種類か試したが、原因のストレスは増大していくばかりで効かなくなっていった。
せめてごまかしてでも体調不良を何とかする方法はないかと思い、精神科に診てもらうことにした。すぐにうつ病と診断された。
 
うつ病と診断されて初めて気が付いた。こういう時に逃げなくてはいけないのではないかと。
うつ病は怖い。「冷静な判断」なんていうものは本当にできない。誰かを悲しませてしまう前に、私は逃げなくてはいけないのではないか。そう思った。
 
それでも逃げられなかった。
ある意味、私も「冷静な判断」がすでにできていなかったのかもしれない。
後に、その当時心配して気にかけてくれていた家族や友人からは、「本当にあの時はどうかなってしまうのではないかと心配だった」と言われる。今では笑い話で済んでいるが、少し間違えば、笑えない事態になっていたかもしれない。
あの時支えてくれる人が周りにいたから、奇跡的に助かったのだ。感謝の気持ちしかない。
 
「逃げるは恥だが役に立つ」ということわざがタイトルになっているドラマが流行り、「逃げる」ことは場合によっては必要という考えは広がってきている。
本当にその通りだ。
前述のコラムの内容も理解はできる。逃げてばかりで立ち向かわなければ成長はない。
ただ、逃げないで我慢しすぎたり、苦悩を見て見ぬふりを続けていたりすると、だんだん心はすり減っていくものなのだ。
 
「退職代行」を利用することは、たしかに逃げているように感じる。褒められるような利用の仕方でない方もいるかもしれない。
でも、利用者にとっては大事な「守り」かもしれない。もう十分戦った末の手段なのかもしれない。
もちろん利用しなくてはいけなくなるまで我慢する必要はない。それでも、他者がかかわることに関しては自分の想定をはるかに超えて、戦いが長引いて疲弊してしまうことが往々にしてある。
そんなときは、逃げてもいい。十分戦ったのだから恥ずかしく思う必要もない。
 
当たり前だが、「頑張れる度合い」は人それぞれだ。
仲のいい友人でも違う。家族でも違う。その時の環境等によって、自分自身も変わってくるかもしれない。
戦える状態なのか、もう撤退したほうがいいのか、その判断は難しい。
 
だからこそ、「逃げた」と思う人を責めるのではなく、想像して寄り添うことが大事なのではないか。
「退職代行」のサービス内容だけを聞けば、批判したくなる気持ちも理解できる。もし退職代行会社から同僚の退職連絡を受ける側になったら相当ショックだろう。
でも、頭ごなしに代行会社や利用者を責めるのではなく、何でそうなってしまったかを想像できたら、どうしたらよかったのか利用者に寄り添えたら、もしかしたらちょっといい未来になるのかもしれない。
 
 
 
 
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2021-01-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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