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「秘めフォトはイブの記憶」


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:青木文子(ライティング・ゼミⅡ)
 
 
まわりから、息をのむ音が聞こえた。
 
壁一面のスクリーンに映し出されたのは、肌もあらわな女性が横たわるショット。まなざしは、憂いを含んで、そして美しい。腹ばいになった背中のラインも、横からわずかにみえる胸の曲線もまるで絵画のようだ。
 
「あ、これモデルさんとかじゃないですからね」
 
ここは名古屋天狼院。店主の三浦さんがパソコンを操作しながら、こともなげに言葉を続ける。
 
「今お見せしているのは、まだまだ、ソフトバージョンですから」
 
これで、ソフトバージョン?!
 
「じゃあ、ハードバージョン見てみます?」
 
ハードバージョンはいや、もう、なんというか、一言で言えば圧巻。どれも美しくかっこいい。一般の人のショットとは思えない。まるでモデルのようだ。
 
「これは、セクシーなんです。エロじゃないんですよ」
 
スクリーンに視線が釘付けになって、三浦さんの言葉もあまり耳に入らない。
 
「あ、ブラは今のうちにはずしておいてもらった方がいいですよ。ブラ線(ブラの後が身体につくこと)だけはどうしようもないですから」
 
その言葉に、慌てて我に返る。
 
昨年9月にオープンした名古屋天狼院。
天狼院には様々なサービスがあるが、「自分史上最高にSEXYな1枚を撮る」と銘打たれたフォトサービスが秘めフォトだ。秘めフォトでは天狼院の店主三浦さんが専属フォトグラファーとして女性を撮る。
 
以前から、秘めフォトには興味があった。興味はあったけれども、正直、尻込みする気持ちの方が大きかった。自分が申し込んで撮ってもらおうとは思わなかった。秘めフォトの紹介ページを見たことがあるだろうか。載っている写真は「自分史上最高にSEXYな1枚」の名そのものの女性たちの美しい写真が並んでいる。これを、自分が撮ってもらう? いやいや、それはないでしょう。自分の心の中で首を横にふる。
 
今日は名古屋天狼院での3回目の秘めフォト開催。
尻込みする気持ちなのに、なぜこの秘めフォトに参加したのだろう。服を着替えながら自分の心に問いかけてみる。勢い? それともノリ? それとも……
 
「自分の知らない自分を見たかったから」
 
ふと心に浮かび上がってきた言葉に自分がたじろぐ。
 
昨年の夏からしばらく苦しかった。
 
きっかけは夏のある撮影での写真。自分の写真をみてショックを受けた。具体的に何がどう、という訳ではない。いい写真だった。でも自分の姿をみて分かった。自分が何かのスピードから遅れている。それは誰かと比べてではなく、外の物差しと比較してではなく、誤解を恐れずに言えば「劣化」していると感じたのだった。
 
悩みの秋を過ごした。劣化していることが分かっても、そこからの抜け出し方も何をどうすればいいかもわからない。3月のコロナからこちら、仕事もプライベートも無我夢中で走ってきて気が抜けたのかも知れなかった。
 
悩んだ末に、ロングヘアをバッサリと30cm切った。10年間伸ばしたロングヘアだった。すこしだけすっきりとした。でも、でも。まだ何かが足りない。何が足りないのだろうか。
 
「それでは始めましょうか」
 
三浦さんの声で撮影が始まっていく。
それぞれの天狼院で、撮影の設定は違うらしい。名古屋天狼院では、クッションに寝そべったショットと、モノクロの立ち姿でのショットの2種類だ。
 
今回名古屋天狼院、秘めフォトの参加者は女性が10名。20代から50代後半の方が参加されていた。今回名古屋天狼院、秘めフォトの参加者は女性が10名。20代から50代後半の方が参加されていた。
 
それぞれが自分の選んだランジェリーに着替えていく。
 
「あ、最初は抵抗あるけれど、そのうちに服着ている方が不自然に感じてくるから平気だよ」
 
天狼院で友達になった人に「今度、秘めフォトに行くんですよ」と話した時に言われた言葉だ。
 
むむむ。
これ、めちゃめちゃ抵抗あるけれど、平気になるのか?
 
「じゃあ、だれから撮ります? もうこちら側から順番に行きましょう」
 
参加者が順番に三浦さんに撮られていく。
 
はじめの3人は友達同士できたという20代後半の女性。
 
「これ、やばいよね」
 
撮れたショットを、カメラのモニター越しに三浦さんが見せてくれる。
 
「セクシー!」「これ、ちょーヤバい!」
友達のショットにキャアキャア盛り上がる友達たち。のぞき込むほかの参加者。思わず口から出る、「素敵!」「綺麗!」という言葉。 知らない間柄の参加者も、お互いのショットにそう言い合うようになる。
 
「ちょっとその目線良いー」
 
「大人の女性っていう感じ!」
 
そのうちに撮られている女性に、参加者が口々に声をかけ始める。
 
「あ、皆さん、親父が湧き出てくるんでやめて下さいね」
 
苦笑いしながら三浦さんが言う。
 
「いつもそうなんですよ。女性なのに、みんな目線が親父になってくるんで。親父やめて下さいね。親父目線、周りに感染するんで」
 
そういうなら、私がいの一番に親父に感染した。もう、どの女性も素敵なのだ。声をかけずにいられない。
 
最初、三浦さんがみせてくれた、スクリーンに映し出された写真の女性たちは、どの女性も自信にあふれているように見えた。まとっている自分を誇らしく感じているオーラ。なんだろう、この自信は。なんだろう、この自己肯定は。これをモデルでない、一般参加の女性が持てるってなんで?
 
その疑問が少しずつとけてきた。
 
今、目の前で撮られている女性が、シャッターを1枚切られるたびに変わっていく。目線も顔つきも、あのスクリーンに映された女性たちと重なって見えてくる。
 
これは三浦さんがかける「その目線完璧!」「もう、できてますね!」という言葉のせいだろうか、それとも一緒に参加しているギャラリーからの賞賛の声のシャワーのせいだろうか。
 
ふと思った。
 
そうか解き放たれているんだ。
 
自分の身体のラインや肉付き、そして例えば体重とか胸の大きさとか。そういった自分の体型に100%満足している、と言える日本人女性はどのくらいいるだろう。
 
女性は自分の身体を外側の物差しで測ることになれている。外からの目線を、外からの評価を自分の中に取り込んでしまっている。そしてその取り込んでしまっていることに麻痺しているとも言えるかもしれない。
 
海外のインスタのとあるアカウント。とても痩せている女性と、とても太っている女性の友達二人組が、サイズ違いで同じ服を着て素敵に写っている。このアカウントは何万フォローを集めているらしい。それぞれの体型をそれぞれに誇りに思う写真はどれもみていて心地よい。
 
細いのがいい、いや、ぽっちゃりがいい。
この議論はどちらも外側からの評価の議論だ。
 
欧米ではボディポジティブといって、画一的に美しいとされているプロポーションやサイズから解放されて、それぞれの体型や外見の多様性を受け入れようという流れがある。またスーパーモデルといっても痩せすぎは健康的でないということで、フランスでは法律によって、医師の診断書で健康であると証明されたスーパーモデルしかランウェイを歩けないという。
 
撮影されている女性たちのそれぞれの肌をあらわにしている姿をみているうちに、私の中で湧き上がってきたのは、その人の身体のラインへみとれる気持ち。掛け値なく、どの人の身体も美しいという賞賛。
 
スクリーンでモノクロの写真を見ているときに三浦さんが言った。
 
「理解してもらえないかもしれないですけれど、この筋肉の陰影とか、その人の身体の傷とかが美しいんですよね」
 
そうなのだ。ライトに照らされた二の腕、薄く陰影を描き出している腹筋のライン。それもが生き物として美しい。
 
そして私の番になった。
 
なにかもう抵抗する気持ちも、照れる気持ちもなくなっていた。言われるままにポーズをとって目線を送る。参加者の人たちが送ってくれる賞賛の声が遠くに聞こえる。参加者同士というよりも、もうなんだか仲間たちのような暖かい声。
 
ふと、イブの話を思い出した。
 
アダムとイブは、聖書に出てくる人類最初の男と女である。神が最初につくりたもうた人類。エデンの園という楽園に、暮らしていて、そこにある果実は自由に食べていい。その中で「善悪の知恵の木」だけは食べることを禁じられていた。神からその実を食べると死んでしまうと言い聞かされる。
 
イブはヘビから「その実を食べても決して死ぬことはないし、それを食べれば賢くなれる」とそそのかされてこの実を食べることになる。知恵の果実を口にして、アダムとイブは今までは思わなかった裸を恥ずかしいと感じるようになった。そして慌てて、いちじくの葉で腰をおおうようにした。
 
これが人の原罪の始まりという。人は自分の裸を恥ずかしいと思う。それは太古の昔からそうなのであろう。でもひるがえって考えてみれば、人はかつて楽園で自分の裸を恥ずかしいと思っていなかったということだ。
 
モノクロの写真撮影。ライトに顔の半分が照らされていた。革ジャンを滑らせながらもろ肌を脱ぐ。背中越しに聞こえるシャッターの音。私も秘めフォト参加者の人たちも、シャッターを切られる度に、かつて楽園にいたイブに戻っていったのかもしれないと、頭のどこか遠くでぼんやり考えていた。
 
そう、取り戻すのは楽園のイブの記憶。
そしてまとうのは他者の目線でない、自分の生き物としての美しさの自信。
 
撮影が終わって、服を着ると不思議だ。あっという間に日常の感覚に戻るのだった。一緒に参加した人たちと分かれるのが、なにか名残惜しかった。この時間の密度と不思議さを共有したという連帯感。誰から言い出すということもなく、フェイスブックの友達申請を交換し合った。
 
翌日の仕事があるのでひとり挨拶をして早めに退席した。
名古屋天狼院のガラス扉に映った顔は、今までと驚くほど違ってみえた。自分のその顔に向かって微笑んでみた。私は、自分の知らない自分に出会えたらしかった。
 
扉の外は、冬の夜空だった。見上げると星が光っていた。それぞれの星の光はそれぞれに美しかった。凜と冷えた空気の中にテレビ塔は、薄青に光っていた。そういえばテレビ塔も服を着ていない。ライトアップに照らされたテレビ塔は、鉄骨の陰影が美しかった。
 
 

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