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メディアグランプリ

パスポート紛失で得られた学びと体験


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:三浦康志(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「あれっ! ない!」
そんな訳はない。さっきまではあったのである。落ち着いて、落ち着いてと自分に言い聞かせて、もう一度探してみる。でもない。
パスポートが。
20歳で初めて行った海外旅行。行き先はグアムであった。
2週間ほど滞在する予定だったが、楽しすぎて私だけ3日間滞在を延長していた。帰国の途に就くために空港に行き、パスポートを入れたポーチを出してチェックインしようとしたところ、そのポーチ自体が無いのである。
途方に暮れた。見知らぬ土地で一人。両親の顔が浮かんだ。
 
日本航空の事務所に案内された。対応していただいた方の名刺に副支店長とあった。
「今日の便には乗れません」
「帰国のための臨時のパスポートを領事館でつくって、航空券を買い直すことになります」
航空券もパスポートと同じポーチに入れていたのである。航空券を買うお金が無いと伝えると、副支店長はこう言った。
「だれか頼れる人はいますか?」
「います!」と私は応えてしまった。その人が滞在するホテルまで副支店長が送ってくれた。
 
その人、Aさんは60歳ほどの日本人女性で、そのホテルをアパートとして暮らしていた。そのホテルにチェックインした翌日に出会い、それ以来とても親切にしてくれた人である。
「観光に来たんだったら、こんなホテルに泊まってはいてはダメよ。私が観光ホテルを紹介してあげるからそちらに移りなさい。安く泊まれるから」とおせっかいを焼いてくれた。
休みだからといって、ドライブにも連れて行ってくれた。行き先は、グァム島で一番美しいと言われるビーチ。アンダーソン空軍基地という極東最大級の空軍基地敷地内にある、軍関係者しか入れないビーチであった。
本当に親切な夫人であった。あの人なら貸してくれるに違いないと思った。
 
ホテルに着いてすぐに部屋に電話した。不在だったので伝言を残しておいた。
深夜コールバックがあった。私のことは忘れたかのような警戒心を持った声だった。ホテルに戻った主旨を話すとこう突き放された。
「あなた、バカね。知り合いがいるなんて言っちゃだめよ。知り合いはいません、と言えば日本航空がお金を貸してくれるに決まっているじゃないの!」
おっしゃる通りである。
「私は、お金が無いの。かわいそうだけれど、あなたに貸せるお金はありません!」
再び途方に暮れた。眠れぬ夜を過ごした。
 
朝になって電話が鳴った。Aさんからだった。昨日の警戒心混じりの声ではなかった。
「日系二世の私の知人のBさんが面倒みてくれる、というので紹介します。9:00にホテルに迎えに来てくれます。お金も貸してくれるそうです。私の甥っ子だと言ってあります。絶対に裏切っちゃダメよ!」
「本当に、ありがとうございます。日本に帰ったらすぐに送金します!」
バカな私を厳しく叱っておいて、その後、段取りを整えてくれたのである。
Bさんは9時ちょうどにホテルに迎えに来てくれた。60代か70代の老紳士だった。日本語はあまり流ちょうではなかった。引退後ハワイからグァムに引っ越したとのことであった。
 
日本航空の副支店長に指示されたことをBさんに伝えた。
まず写真館に行って臨時パスポート用の写真を撮った。その写真は、指名手配写真のようだった。当時の私の心を表している。写真代はBさんが払ってくれた。
次に日本領事館に連れて行ってもらった。臨時のパスポートを申請してその場で発行してもらった。収入印紙はBさんが買ってくれた。
最後が空港である。日本航空のカウンターで成田までのチケットを買った。8万円ほどだった。それもBさんが払ってくれた。
Bさんは、にこにこしながら全行程に付き合ってくれた。借用証書を求めることもなかった。Aさんとの信頼関係の賜物だと思う。帰国後、かかった費用の1.5倍ほどの現金をBさんに送った。Aさんには感謝の手紙をしたためた。
 
私は初めての海外渡航でパスポートを無くして幸運だったのである。たまたま出会ったAさん、Bさんに多大な親切心に触れることができた。日本航空にお金を借りなくてよかったのである。
そして、貴重品の扱い方の重要なノウハウも会得できた。パスポート、航空券(今は電子だが当時は紙であった)、財布などの貴重品は、絶対に服のポケットに保管することにしている。脱ぐ可能性のある上着にも入れない。ズボンかシャツのポケットに保管する。
そのルールは、その時以来40年間変わらぬ指針として実践している。サンパウロの下町でスーツケースを盗まれた時もその教訓は活きた。パスポートと財布だけは身に着けていたので、その後も旅程通り旅ができた。
 
帰国後1カ月ほどして、パスポートと帰りの航空券が入ったポーチが日本航空グァム支店から送られてきた。最初にチェックインしようとした際に時間が早すぎて受け付けてもらえなかった時に、カウンター上に置き忘れたことがその時判明した。
それならアナウンスしてよ、と思ったが、すぐに気持ちを入れ替えた。パスポートを無くしてよかったのである。無くしたからこそ多くのことを学べ、体験できた。失敗は成功の母である。
天国におられるAさん、Bさん、本当にお世話になり、ありがとうございました。受けた恩は、必ず誰かに恩送りします。
 
 
 
 
***

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2021-01-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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