メディアグランプリ

ニュースの5人は25人で80人


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:喜多村敬子(ライティングゼミ日曜コース)
 
 
1つの数字を見る時、それはそのままの数字ではないと思う。掛け算をしてみると、事の重大さや可能性などが見えてくる。
 
例えば、事故のニュースで犠牲者が5人と報道されたとする。大災害と比べて、つい小さな被害だと感じるかもしれない。そこで、こんな計算をしてみる。
 
5×3=15人 犠牲者5人にそれぞれ少なくとも両親と兄弟1人の計3人がいるとして、
15人の人が泣く、生活も変わるかもしれない。
5×2=10人 配偶者と子供1人の計2人がいたとして、
この10人は悲しむだけでなく確実に実生活も変わる。
ここまでで、遺族は25人。
5×10=50人 日常生活は変わらないが、悲しむ友人5人と仕事に影響のある関係者5人で10人、犠牲者5人で50人。
関係者の合計75人
 
75人が5人の犠牲者のために悲しんだり、影響を受ける。犠牲者5人の事故は、本人も含めて80人の物語だ。それぞれの実際の状況は違うのは承知の上で、ざっと少なく見積もっても、こんな数が出てきた。
 
この数字のとらえ方は、面積の公式の「縦×横」に似ている。平面的な感じがする。犠牲のもたらす深刻さを思うと、イメージが広がる。
 
亡くなった人の生き方によって、関係者の人数は変わる。ここまでは、見つけやすい数えられる数だ。関係者にとって最も切実な数は、亡くなった人との親愛の深さの度数だろう。その深度が喪失感や怒り、悲しみの強さや続く長さ、担う重さを決める。深度は関係者によって変わる、つまり変数と言える。その変数は他人からは計り知れない。
 
犠牲者と悲しむ人の数の掛け合わせは平面で、海岸に立って見る海の様に目の前に広がっているように思える。そこに、親愛の深さ=悲しみの深度を海の深さとして掛け合わす。すると、「縦×横×高さ」が体積を表すように、立体的に事態の大きさが実感される。惨事が冬の荒れた海だとする。海上の様子が犠牲者と悲しむ人の掛け合わせた平面、目に見えない海の深さが苦悩や悲しみの深さとして想像される。だが、海岸に立つ自分は、その海に投げ出された人たちの感じている水の冷たさまでは感じることはできない。
 
いろいろな所で見かけとは違う数が見つかる。
 
夜の帰路に団地の窓の明かりを見る。単に1棟の大きな建物、コンクリートの塊ではなく、明かりの灯る一室ずつに人が暮らしている。生活、家族、人生が詰まっている。子供にとっては、人生の土台を作っている場所だ。1棟50戸なら50、5棟あれば250の生活がある。それに人数をかけると、団地の明かりが人生の数に重なってくる。こんなにもたくさんの人がそこで生きていると思うと、切なくなってくる。
 
平日の昼間にスポーツジムに行く。利用者は定年リタイア世代がほとんど。働き盛りは勤め帰りの夜や休日に集まる。日中のジムを見渡せば、若いインストラクターの元、おじいさんおばあさん世代が筋トレやエアロビをしている。贅沢でいい御身分だと思う人もあるかもしれない。エアロビで少々遅れることがあっても、皆、実年齢よりも若々しい。運動が明らかに健康寿命を延ばしている。10年前から年を取っていないようにしか見えない常連も多い。
 
もし、このフロア一杯のおじいさん世代30人が、運動せずに要介護になっていたら、どれほどの家族の介護負担になるのか。子供世代2人が介護したら、60人の働き盛りの人たちに影響が出る。孫世代も無縁ではない。自分の両親が要介護者なので、ジムは見た目よりも、ずっと大きな社会貢献をしているなあと特に思う。
 
さらに数を広げてみる。天気の良い日に、自宅前の保育園児たちを保育士たちが外遊びに連れていく。1歳くらいの子たちが、まとめて手押しカゴでドナドナと運ばれて行くのが可愛い。保活がうまくいった幸運な家の子なんだと思う。保育士さんが園に1人増えれば、何人の母親が働きに出られるようになるのだろう。配置基準を見ると、0才児の母親3人が働ける、1〜2歳児では6人、3歳児では20人、4歳児では何と30人。家庭の収入が増えれば、子供たちの教育の選択肢も広がるだろう。居住自治体の税収が増えるかもしれない。
 
保育士不足が深刻なのに、保育士自身が我が子を預けられず、働けないことが多いと聞く。そこで、ある地方の保育園が保育士自身の子供を預かる条件で保育士を募集した。いつもは応募者が1,2人あれば良い方なのに、あっという間に求人数の3倍の応募があったという。1人の保育士を雇い、その子供の0歳児を1人預かり、1歳児クラス担当になるとする。全体の受け入れ枠は足し引き5人分増える。4歳児クラスなら、29人分増える。希望の持てる数だ。
 
この様に、時々、頭の中でそっと世の中を計算してみる。物事を見る方法の一つだ。出て来た厳しい数に圧倒され、前向きな数に明るい気持ちになる。展開次第でどちらの数も見つかるだろう。あなたなら、どんな数で世界を見つけるだろう。
 
 
 
 
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2021-01-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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