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こんな時代ですが、お茶でもいかが


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:清田智代(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「喫茶去(きっさこ)」という言葉をご存じだろうか。
 
お茶の世界に興味のある方なら聞いたことがあるかもしれないが、全く知らないとい方も少なくないだろう。
 
もともとこの言葉は禅語であり、今風に言えば「まぁ、お茶でも一服おあがりなさい」という叱咤の言葉だ。昔、あるところに徳の高い禅僧がいて、高貴な人、貧しい人、おごり高ぶる人、悩める人、どんな人だろうと分け隔てなく、この言葉を投げかけていたという。
 
そして禅と茶の湯というのは深いつながりがあり、お茶会の席にはときどき、この言葉が書かれた掛け軸が飾られている。
 
さて、新しい年を迎えた最初の日曜日、私が通う茶道教室では「初釜(はつがま)」という茶会が開かれる。
 
これは文字どおり、年の初めに茶の道を志す者が集まって「同じ釜の茶を飲む」年中行事だ。私が通う教室だけでなく、いつもだったらこの時期、おそらく日本の、もしくは世界のあらゆるところで初釜が行われていることだろう。
 
寒の入りを過ぎたこの時期に茶室を温めてくれるのは、釜の湯を沸かす炭だけだ。室内はとにかく寒く、茶室は密閉状態。また、茶室は狭いので、客は一堂に密集。さらには本来、茶会では「濃茶(こいちゃ)」という絵の具のようにねっとりとした濃いお茶がふるまわれるが、これは客同士で一碗を飲み回すのが流儀であり、今、最も避けるべき密接行為。
 
今年はこんな状況なので初釜に参加しようか迷ったが、結局参加した。
 
なぜなら初釜を主宰するお茶の先生が「生徒が一人でも来れば、やる。だから来なさい」と言い張ってきかないから……という言い訳も考えられるが、これでは師に失礼か。それ以上に私自身、この状況だからこそお茶を飲んで心を落ち着かせたい気持ちがずっと前からあった。
 
今やあちこちで「3密」を避けることや「不要不急」の外出を控えるよう呼びかけられていて、初釜には3密の要素がしっかり備わっていることは間違いない。その上、不要不急の用ではないかと問い詰められれば、首を縦に振らざるを得ないだろう。
 
しかし茶の道に身を置く者にとって、この初釜は重要かつ新年を迎えるこの時期にしかできない行事だ。
 
朝、太陽が昇る前に起きて、慣れない着物を身にまとう。
 
うまく着れなくて、焦る。
 
白い息を吐きながら茶室のある教室へ赴く。
 
誰のいない茶室には、凛とした空気が流れているのを肌で感じる。
 
やがて色とりどりの着物を召した生徒たちが集まると、茶室は一転、華やかになる。
 
「あけましておめでとうございます」という新年の言葉が飛び交う。
 
客が全員揃ったら、全員が深く礼をし、茶会がはじまる。
 
茶懐石という地の利を生かした懐石料理をいただく。
 
濃茶、薄茶の順でおもてなしを受ける。
 
濃茶を飲むときは、毎回決まって「花びら餅」という、ごぼうと味噌のあんこがはいった餅菓子も一緒にいただく。
 
薄茶を飲むときは、こちらも毎回決まって「干菓子」という、その年の干支や梅、波型といった縁起物が押された砂糖菓子も一緒にいただく。
 
会が終わる頃には、正座していた足がしびれきって動けなくなる。
 
……改めてひとつひとつの行為を書き連ねてみると、茶会で行われていることはだいぶ浮世離れしているように思う。
 
実際、茶の湯というのは、今や「伝統」や「文化」という枕詞とともに、さも骨董品や記念物のように大事に守っていくべきもののように扱われることが多い。
 
言い換えると、茶道は今の社会や日常生活からかけ離れ、難しそうな礼儀や作法ばかりが先走りしてしまっている。
 
このような傾向は私が茶道を始める前から既にあったが、今般の感染症の流行によって、茶の湯というものはますます私たちの生活から遠のいているように思う。
 
しかし本来は、冒頭で紹介した「喫茶去」という言葉があるように、喫茶、つまりお茶を飲んで一息つくことは、喉の渇きだけでなく、心の渇きをも癒してくれるものだ。
 
茶道というものは、慣れないうちは覚えるべきことが多いし、極めようとすると非常に奥が深い。しかし本来の茶道は、お客さまにおいしいお茶をふるまうためにルール化されたもので、礼儀や作法はそのための手段にすぎない。
 
ポストコロナ、もしくはウィズコロナの時代はもうしばらく続くかもしれない。
 
だからといってお茶会はやめておこう、お稽古も密になるから中止、というのはなんだか本末転倒に思えてならない。こんな時代だからこそ、お茶を点てて、一息つく。これこそが茶の湯の本来の役割に思えてならない。
 
緊急事態宣言が騒がれる中でもお茶の先生がしきりに来い、来いと言っていたのは、今こそ私たちに茶道の精神を感じてもらいたい、そんな思いがあったのかもしれない、とお茶を飲みながら思った。
 
※茶会は3密対策をしっかりしながら、少人数で行われました。これ以上あまり深く追及されませんよう……。
 
 
 
 
***

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2021-01-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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