メディアグランプリ

水泳教室で出会った羅針盤


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:井伊 さつき(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「うーん、もうちょっと痩せたほうがいいわねぇ」
あれは小学4年生の夏休みに入る数日前のことだった。
担任の先生から身体計測の結果とともに、1枚の紙を渡された。
 
「ほんの10日間ぐらいだから。ま、ちょっと行ってみて」
困ったように笑う先生。
 
「夏休み水泳教室のお知らせ」
渡された紙にはそう書いてあった。
それはクロールや平泳ぎの上達を目的としたものではなく、太った子どもたちが痩せるために開かれた水泳教室だった。
 
思い返せば、ものごころついた時には既に肥満児だった。
幼稚園の頃、セーラームーンのイラストが描かれたかわいいソックスを買ってもらったことがある。パンパンのふくらはぎを通すと、セーラームーンの顔がびよーんと横に伸び、美少女戦士が無残な姿になってしまった。
体育の成績はもちろん最悪。二重跳びも逆上がりもクラスでひとりできなかった。
 
そんなふとっちょで運動音痴な私にとって、水泳教室の知らせはもちろん喜べるものではなかった。しかし参加は絶対。逃げられない。
夏休みに入り、付き添いの母とともにしぶしぶ市民プールへ通う日々が始まった。
 
運動が苦手な子どもたち揃いの水泳教室の中でも私は落ちこぼれだった。
そのため途中でやめたいと何度も思ったが、2つ楽しみがあったのでなんとか続いた。
 
1つ目は、プールの後に自動販売機で買ってもらえるセブンティーンアイスだ。
甘く冷たいアイスはいつでもおいしいが、泳いだあとのそれはとりわけおいしかった。
ただし減量目的の水泳教室なのに、教室がある日は毎日食べていたのでたいして体重は減らなかったと記憶している。
 
もう1つは、母が泳いでいる私を待つ間の暇つぶしに買う古本だった。通っていた温水プールの近くにチェーンの古本屋があり、母はそこで軽い読み物を買って読んでいたのだった。
家に帰って母が読んだ後の本を読ませてもらうのが、水泳教室のあとの楽しみだった。
 
『もものかんづめ』をはじめとする、さくらももこさんのエッセイに夢中になったのもこの時だった。できないことや失敗が多くても、一見しょうもないような日常でも、文章にできればそれもクスリと笑えるネタになるのだと知った。
 
そしてもう1冊、大きな転機となる本との出会いがあった。中山庸子さんの『夢を実現する3冊の手帖づくり』という本である。
 
この本は、イラストレーターでありエッセイストでもある著者が、引っ込み思案な女の子からなりたい自分になるためにどうやって夢を叶えていったかを、その相棒となる3冊の手帖とともに紹介する本だ。
挿絵も素敵なので実際に本を読んでいただくことをおすすめするが、3冊の手帖についてざっくり説明すると、下記のようなものである。
 
① 夢ノート:100個を目安に、大小問わず自分の夢をリストアップする。
② 夢の視覚化スクラップブック:雑誌などで見つけた、素敵だと思った写真や記事を切り抜いて貼っていく。
③ 夢実現を応援する書き抜き帳:本や周りの人との会話から心に残った言葉をメモする。
 
特に①の「夢ノート」に関しては他の著書でもたくさん書かれていて、知っている人も多いのではないだろうか。
「自分の夢を書き出すことで可視化し、気づけばその多くが叶っている」というものだ。
20代の頃の中山さんのリストには、デザイン学校の同級生だった「A君と結婚」というものがあった。彼女はその夢を叶えたばかりでなく、そのA君が後にイラストレーターとなって、この本の表紙のイラストまで描いているのだからすごい。
 
私はこの本を読んでいてもたってもいられず、すぐに手帖づくりを始めた。
3種類の手帖は、抜き差しできるお気に入りのシステム手帖にまとめることにした。
当時愛読していた少女漫画雑誌『りぼん』の応募者全員サービスで手に入れた、エナメル調でアイボリー色の手帖だ。表紙には大好きな漫画『グッドモーニング・コール』のイラストが描かれている。
 
そこに思いつくまま夢を100個書いていった。
「メロンが食べたい」というような小さなものから、「海外に行きたい」「イラストレーターになりたい」「エッセイが書きたい」「英語がしゃべれるようになりたい」「明るくなりたい」などなど。
書き出してみると、自分の想いに改めて気づくきっかけとなった。
 
走るのが遅かったので、「50m 9秒台で走れるようになりたい」なんて夢もあった。これはこの年には叶わなかったが、6年生の頃には叶っていた。その年ごろの女子としては遅いのだが。
 
夢ノートを作ったら、次は心にとまった写真や言葉を集めていく。すると自分の好きなもの、なりたい自分像がより鮮やかになる。手帖を開くたびワクワクする。
 
こうした手帖づくりを水泳教室に通った10歳から始めて、30歳になった今まで毎年続けている。叶った夢、いまだに追い続けている夢や、卒業した夢、破れた夢もあるが、忘れたころに読み返してみると、大体平均して100個中25個ぐらいは叶っている。
 
水泳教室がきっかけで出会った本は、なりたい自分に近づける羅針盤となったのである。
 
まだまだ発展途上だが、いろいろな国に出かけて、好きなことに関わる仕事をし、大切な人と一緒にいる今が、引っ込み思案な肥満児だったあの頃より、うんと好きだ。
 
今年はさっそく、元旦に書いた「素敵な椅子を見つける」の項目に、桜の木のシールを貼った。
座り心地のいいその椅子に座って、今この文章を書いている。
 
夢を書くのはタダ。誰にも見せなくていい。
お気に入りの手帖に、あなただけの夢を書きだしてみてはいかがだろうか。
 
 
 
 
***

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2021-01-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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