メディアグランプリ

勝手に練習する子供を育てる


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記事:前田玲菜(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
ピアノのレッスンは砂遊びである。
私はピアノ講師をしている。自分が受けてきた教育の癖がなかなか抜けず、気を抜くとすぐに子供に指示を出したくなる。
「手首の力を抜いて!」
「指番号を正しく!」
「音を正確に。楽譜をよく見て!」
「もっと優しく! もっと元気に!」
すべて正論だ。しかし、子供は不満そうな顔をする。または、思考停止に陥っている。こういう時、いつも私は「砂遊び、砂遊び」と自分に言い聞かせている。
 
ある人からこんな話を聞いた。
彼が海水浴に行った時、ある親子が砂遊びを始めたそうだ。母親は子供が砂遊びをやり始めたのを見て、
「ここで作ったら波が来るから、もっと波がないところで作りなさい」
「お城を作るなら最初に砂をたくさん集めないと!」
と、逐一子供に指示を与えていたそうだ。
つまらなそうな子供。母親が手伝って完成したお城は立派だった。
 
一方、別の親子を見ると、同じように子供が砂遊びをしている。
子供は何か作ろうとするが、何度作っても波に流される。親は何も声をかけない。
ある時、子供は波に流されない場所で作ることに自分で気づき、場所を変えて何かを作り始める。何を作っているかはわからない。
「できたよ! ママ!」
そういって、完成したものを見せる。やはりそれが何かはわからない。しかしその母親は
「よくできたね! 素晴らしい!」と褒めていた、という話だった。
 
ピアノのレッスンと砂遊びは違う、と思うだろうか。
ピアノは教育で、砂遊びはただの遊びだと。しかし子供は「遊び」の中で成長する。
何かを作れば褒められる、という経験をした子供は、大人になってもっと立派な城をつくるようになるかもしれない。
「楽しい!」
「自分でやりたい!」
「自分の力で出来るようになりたい!」
こういう気持ちが、その子の学習を後押しする。
「こうしなさい」「ああしなさい」
と言われて、それに従ってばかりいて、何が楽しいのだろうか?
命令されてやることに楽しみなどないことを、私たち大人はよく知っているはずだ。
 
この話を聞いてから、私はこの「砂遊び理論」をレッスンに取り入れるようにした。
私は自分自身を教師ではなく、「一緒に遊ぶ仲間」だと思うことにした。
「これやろう!」と提案はするが、「これをしなさい」と指示はしない。
多少うまくできなくても、褒める。
チャレンジしたこと、やろうとしたことを褒める。
子供に聞かれていないのに、すぐに答えを教えない。
 
最初は自分の「教えたい衝動」を我慢するのに必死だった。
「リズムが違う! 音が間違っている! 表現はそうじゃない!」
アラを探そうと思えばいくらでも出てくる。しかし、遊んでいるのにその友達のアラばかり探すようなやつはいるだろうか? いるとしたら相当嫌なやつだ。
そんなやつは、かなり優しい子だったらある程度は付き合って遊んでくれるかもしれないが、ほとんどの子供は遊ぶのを嫌がって逃げていくだろう。
 
そもそもひらがなもろくに読めない幼児に、音符もリズムも指番号も完璧に! と求めるのは、設定しているハードルが高すぎる。
ピカソの絵を模写した子供に、ピカソと同じレベルを求めるようなものだ。
絵ならば「子供らしく模写できている」と冷静に判断できるのに、音楽になると無意識に大人と同等のレベルを子供に求めてしまうのだ。
 
「褒めてばかりいていいのだろうか?」
「これで教えていると言えるのだろうか?」
と考えたこともあった。
しかし、細かいことに目をつぶりまくり、褒めてばかりいると、子供たちに変化が表れた。
自分の演奏に納得できず、何度も自分でやり直したり、うまく演奏するコツを聞いてきたり、わからないところを自分で確認してきたりするようになってきたのだ。
以前はアドバイスをしようとしても、聴く耳を持たなかった子らが、である。
 
合格をもらっている曲を何度も練習しなおす。
宿題にしている以上の曲を自分で勝手にさらって練習してくる。
「たくさん弾けるようになった!」
「たくさん練習してきた!」
「完璧だよ!」と自慢してくる(間違いだらけの時もあるが)。
そんな子供が増えてきた。
 
講師はゲームの攻略本だ。
子供がゲームに夢中になっているのに、横から勝手に攻略法を教える人間ほど無粋なものはない。子供が自分で必要を感じた時に、必要な情報を教えれば良いのだ。
 
そんな自信満々の子供たちの中で、一際ピアノが大好きな女の子がいる。
彼女は4歳児にしてすでに、毎週、家で猛練習をする習慣がついている。親や先生に怒られるから、ではなく、うまくできない自分が悔しいからだそうだ。そしてレッスンでは、その苦労を私には一切見せずに堂々とピアノを披露してくれるのだ。
ある時、その子が「ストリートピアノデビュー」をしたことを聞いた。
旅行先でピアノを弾いて、お客さんから拍手をもらったそうだ。
彼女にとっては、それも大きな喜びになったに違いない。
 
砂遊びは進化を遂げている。子供たちの成長と共に、私の遊びもグレードアップしていかなければならない。
私はゲームマスターだ。
年が明けて、新しく考案した遊びを子供たちは攻略できるのか? 今から楽しみで仕方がない。
 
 
 
 
***
 
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2021-01-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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