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松明が飛び交う滋賀の奇祭 火ふり祭


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:森 団平(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「松明あげよ~~!」
野太い声が上がる、すると周囲からは呼応するように、
「「松明あげよ~~!!」」
一斉に松明が振りあげられ火の粉が舞う。
これは、暴動ではない、ましてや百姓一揆でもない。
現代も行われている「お祭り」の風景なのだ。
 
ある日、滋賀に住む父から「昔の写真を見つけたので送る」と古ぼけた写真が送られてきた。
不鮮明なプリントを見ると松明を持つ人達が歩いている。
中学生くらいの僕も写っていた。あぁ、これはあの時の写真か。
 
僕の祖父の住む滋賀県日野町では毎年8月の14日と15日にお祭りが行われる。
それが「火ふり祭り」だ。
 
その日、家の一家は、祖父の家に昼から訪れていた。親父、母、僕を含めた兄弟たち。
昼ごはんを食べた後は裏庭に向かい、祖父の指導で松明を作る。
よく乾いた竹を鉈で割る、長さは2.5mくらいだ。
竹を束ね中には藁を詰めて、藁を撚り合わせた紐で竹を結んでいく、バラバラにならないようにしっかりと。
親父が「この縛り方がなかなか覚えられんのだよなぁ」とボヤく。
祖父から「根本の部分は念入りに結びや」と指導の声が飛ぶ。
一時間位で松明が出来上がった、飛び出した藁も合わせると3m近く、持つとずっしりと重い。
 
日も暮れた頃、祖父に連れられ「五社神社」に向かう。長ズボンに、頭にタオル、そして軍手の完全装備だ。
五社神社には既にたくさんの人達が集まっていた。
太くて短い松明、細長い松明。それぞれ家によっても作り方が違うのであろう松明を持っている。
神社の境内の真ん中には、藁の山が鎮座していた。
 
明かりが灯る社の中では「お稚児さん」と呼ばれる小学一年生くらいの男の子を前に神主さんが神事を行っていた。
 
夜7時、お祭りの始まりだ。
神主さんが藁の山に火をかかげると、一気に藁は燃え上がった。
待ち構えていた人達が、各々松明に火を灯し行列をなし歩き出す。
神主さんとお稚児さん、そしてお付きの紋付袴の一団も歩き始める。
目的地は、約一キロ先にある、「ひばり野公園」
 
僕と家族も燃え盛る松明を手に行列に沿って歩き出した。
たった一キロの道のり。しかしこの道は楽な道のりではない。それは、彼らが居るからだ。
道路に沿って歩き始めると彼らが現れる。揃いの浴衣に手には1mくらいの竹棒を構えた地元の小学生や中学生だ。
1人の男の子が竹棒を手に、こちらに走ってきたと思ったら、勢いよく僕の松明を叩いた。バッと火の粉が上がり燃えていた竹の部分が落ちる。一撃で僕の松明は消えてしまった。男の子は「もう興味はない」とばかりに機敏に次の松明に襲いかかっていた。
やられた~~。悔しい気持ちを旨に、親父に火を分けてもらって再度松明に点火する。
そこからは、襲いくる少年達をフェイントで避けたり、消されたり耐え切ったりしながら道を進む。
 
この少年達は、なぜこんな事をしているかというと、本来は道に落ちた松明の残り火などを消火するための消防隊の役割だったのだそうだ。それがいつしか、松明を消す事が楽しくなってしまって定着したらしい。
 
ひばり野公園が近づいてくると、声が上がる。
「松明あげよ~~!」
前後の行列からも「「松明あげよ~~!!」」と声が上がり松明を振り上げる。
 
ここまで歩き、少年達と戦いを繰り広げた松明は1mちょっとくらいまで短くなっていた。まだ、中学生の僕にとっては重いくらいだったが。
 
全員がひばり野公園に到着し、お稚児さんと神主さんが特別席に座る。
ひばり野公園は、中央に小高い丘が有り、その上に巨大な松の木がそびえ立っている。高さは30mくらいだろうか。
松明持った参加者はその松の木を取り囲むようにその時を待っていた。
 
そして、その時は来た。
「松明あげよ~~~~~!!!」
一際大きな声が上がる。その声を合図に松明を持った男たちが走り出す。
そして一斉に、松明が空を舞った。
松明が松に向かって投げられたのだ。
何十もの松明が空を飛ぶ様は、火山の噴火のような迫力がある。
実際火の粉が舞い散っているのでだいぶ熱い。
 
そうして飛んだ松明の大半は、丘に落ちるものの、数本の松明が枝に乗って火を灯した。周りから歓声が上がる。
そうだ。これがこのお祭りの目的。
「松の木に松明を投げ上げ、枝に留まった上で火がついていればその年は豊作が約束されるという」神事なのだ。より高い位置でより強く燃える方が良いとされる。
 
僕も松明を投げたが、ヒュルヒュルと飛んだ松明は、松の木の幹に当たって丘の上に落ちた。
松明は1人一本、投げたら手元に松明はない。
しかしそれで終わりではない。丘の上には落ちた松明が何本もある。僕の松明もある。取ってきて再度投げればいいのだ。
僕は走った。こう見えても中学校では陸上部、走るのには自信がある。
そうして自分の松明までたどり着いたと思った時、僕の松明を「ドンっ」と踏みつけた足があった。見上げると右手に松明を持った男がニヤリと笑って、僕に松明を突きつけた。「アチっ」と飛び退って、家族のいる場所まで逃げ帰る。
落ちた松明は、早いもの勝ちだ。踏みつけるか、手に持った方が勝ち。
そう、これは戦いなのだ。一戦目は完敗だった。
しかし、負けてばかりもいられない、僕は走った。誰かが松明を投げるタイミングと同時に走り出し、誰よりも早く松明まで辿り着く。枝に留まる松明もあるが大抵は落ちてくる。松明を持ち帰り、火を灯しては投げる。弟たちにも取ってきた松明を渡す。
松明を取りに走る間も、周りからは松明が投げ込まれている。油断していると頭の上から松明が降ってくる。「晴れ時々松明が降るでしょう。」ここは戦場か?
 
親父が投げた! それはきれいな風物線を描き松の木に向かっていく。
さすがは親父だ。歴戦の投げ方、高さがある。松明は狙っていたように高い場所の大きな枝に留まった。僕も親父と一緒に歓声を上げた。
 
少しして「松明やめよ~~」と声が上がった。
もう終わりの時間だ。火の粉で煤けた頬を拭いながら僕は自分の手を見る。
拾ってきた松明。長さは50cmくらい、だいぶ軽くなった。
 
ラストチャンス。
走り出す。
 
周りでも男たちが松明を手に走っていた。
後ろから親父が「思い切りいけ!」と声をかけてくれる。
走りながら松明を持つ左手を斜め下に引き絞って体をひねる。十分に、松まで近づいてからすくい上げるように上に思いっきり振り上げた!
僕が投げた松明は、まだまだ親父のようには高くは飛ばない。中程の幹に当たって落ちてきた。ダメか?
しかし僕の松明は、その下の小さな枝に留まった。炎も小さいもののしっかりと燃えている。
「やった!」
最後の最後で一本乗せることが出来た。親父も「よくやった」と頭をなでてくれた。
 
祭りも終わり。松の木はあちこちに松明を灯している。今年も豊作だろう。
この後は消防隊がやってきて、ちゃんと消火してくれる。防火対策は万全だ。
 
屋台でたこ焼きを買ってもらって家路につく。汗と火の粉で煤だらけの顔を拭いながら。
 
古い写真。思い出した記憶。
これがうちの地元の古いお祭りだ。不思議な祭り。
火を振り、火が降る「火ふり祭り」
基本的には地元の人達が参加するお祭りだが、屋台も出るので見ているだけでも面白いかもしれない。
僕も、今年の夏は久々に参加してみようか、今ならもっと高い枝まで投げられるかもしれない。
 
 
 
 
***

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2021-01-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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