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テロに巻き込まれて今を生きる


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記事:能勢 拓人(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「銃声が聞こえた!」
「ママとはぐれた! なんでママはあっちに行っちゃったのよ!」
レストランの倉庫で肩を寄せ合い、「大丈夫。こんなところで絶対に死なない」と励ましあいながら、次の瞬間、殺される覚悟をする。パリ同時多発テロが発生した翌年の夏。僕はフランス・ニースで発生したテロに巻き込まれた。
 
フランスの7月14日は「Fête nationale française(フェット・ナシオナル・フランセーズ)」というフランス共和国の成立を祝う日。フランス人は一般的に日付そのまま「Le 14 Juillet (ル・キャトーズ・ジュイエ)」と呼んでいて、フランス中お祭りムードでにぎわい、夜になると各地で花火が上がる。花火を見に行くため、僕がアルバイトをしていたニースのレストランでも、早めにお店を閉めることになった。
2015年11月にはパリで同時多発テロがあり、世界的にニュースで取り上げられた。その翌年、2016年7月14日。この日「ニースの海が赤に染まる」との噂がささやかれていたこともあり、花火を見ずに帰った従業員もいた。けれど、すでに半年以上経って気が緩んでいたこともあっただろう、僕は花火を見に行くことにした。
 
ニースは海から花火が上がる。海岸は人の絨毯を引いたように、辺り一面、人だらけだった。何とか花火が見られる場所に腰を下ろし、花火を堪能した。
花火も無事終わり、海岸沿いの道路では音楽の演奏をしていたり、大道芸人がいたりと、日本の屋台とは少し雰囲気の違うお祭り気分を味わった。他の日本人仲間が近くにいると聞いて、また海岸に降りたが見つからず、そろそろ帰ろうかという頃、海岸から階段を上ったその時、遠くから大きな叫び声が聞こえた。
(お祭り騒ぎの中で誰かが酒に酔って暴れているのか? いや、違う)
頭の中の警報が大音量で鳴り響いた。
 
目の前には大型トラック。歩行者天国を逃げ惑う人々。叫び声。怒声。
周りの人が一斉にこちらをめがけて押し寄せてくる。ある人は泣き叫びながら。ある人はベビーカーごと赤ちゃんを抱えて守るように、立ち尽くす僕の横を通り過ぎていく。
視界から入って来る情報はなぜかスローモーションで、思考は一時停止していた。何が起こっているのか脳が判断しようとしない。
 
それでも呪いが解けたように頭が回転し始めるとあの言葉を思い出した。
「ニースの海が赤に染まる」
 
海岸には戻りたくなかった。前に進みたいのに皆が階段を降りようと僕のいる方向に進んでくるから、反対に進むことは出来なかった。周りの人に続かざるを得ず、階段を下る。海岸沿いのレストランに入るが、トイレの奥の倉庫で行き止まった。進むことも戻ることもできず、倉庫に閉じ込められる形になってしまった。
「銃声が聞こえたの!」「ママとはぐれた!」と泣き出すフランス人たち。(お願いだから静かにして! テロリストに見つかったらどうするんだ!)と叫びだしたくなる気持ちを抑えて、「大丈夫、大丈夫」と拙いフランス語で話しかける。
 
同時多発テロ
 
頭の中ではその言葉が何度も何度も繰り返される。トラックの中には大勢のテロリストがいて、今まさに、ニースでテロが始まったのだと。
絶対に助かると自分に言い聞かせ、次の瞬間、死を覚悟する。
そんな永遠とも思われる時間を過ごした。
 
どれほど時間が経ったのか。レストラン従業員に「もう終わったよ。皆出て」と声をかけられ、終わりを迎えた。恐る恐る外に出ると、サイレンの光に照らされ、道路に横たわった白いカバーが浮かび上がっている。どこかにテロリストが潜んでいる可能性がぬぐい切れず、走りながら同僚の家に辿り着いた。親にはスグに無事の連絡を入れる。同僚からは一人になるのは危ないと言ってもらい、その夜は同僚の家で過ごした。
 
このテロはトラックを運転していた1人の犯行だった。歩行者天国となった大通りにトラックごと突っ込み、死者84名、負傷者は200名を超えた。
 
翌朝早くに自分のマンションへと戻った。アルバイト先のレストランは翌日のランチをお休みにするということで、一人の時間が流れる。
友人達がメッセージや電話で連絡してくれ、返事をすることで気を紛らわせていた。けれど、ふとした瞬間に自分が泣いていて、まだパニック状態であることに気付く。
何も食べる気はしなかったけれど、午後になるとなぜか行かなければいけない気がして、テロのあった海岸まで歩いた。海岸までの通りは、服屋や雑貨店、百貨店は閉まっていたものの、食料品店やレストランは空いているところも多く、いつもと変わらない午後の様子に、歩きながら、また、涙が止まらない。
海に到着すると、泳いでいる人たちの姿に驚かされた。(後々、「テロリストに屈しない」という意思表示の人もいると聞かされた)
僕が隠れていたレストランに近づくと、交通規制がかけられていた。警察車両やテレビ局の車、花束を抱えた人達でごった返している。
手ぶらで来てしまったけれど、花束が添えられている一画で手を合わせた。
 
そこから一本通りに入ると、レストランが並んでいて、いつもと変わらない風景が目に飛び込んでくる。
なぜだろう。また、涙が止まらない。
犯人への怒り、死への恐怖からパニックに陥っているのかと思っていたが、何かが違う。
日常を目の当たりにし、あっと気が付いた。
 
生きている。
また皆に会えることに涙しているのだと。
 
80名を超える死者を目の前にして、初めて気づくことになるなんて、思わなかった。大勢の人が亡くなった中で、不謹慎かもしれない。けれど、僕はその時、今生きていることに初めて感謝した。
皆に会いたくてたまらなかった。
 
今でも花火の写真を見ながら当時のことを思い出し、自分に問いかける。
今日を生きているということ。今を一生懸命生きるということ。終わりはいつ来るか分からないということ。
そして、生かされた命を背負って生きられるよう、「今を大切に、自分らしく、一生懸命に生きていますか?」と。
 
 
 
 
***

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