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都湯という遊園地に行きませんか?


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:山﨑陽子(ライティング・ゼミ特講)
 
 
「まだ雨止まないなー」
ねずみ色の空を見上げて一人呟くと傘を開いて足早に向かう。
早く行きたい気持ちが歩幅を広くする。
私にとって今日は自分を労わるご褒美の日。「ご褒日」と手帳に書くぐらい特別な日。
「ご褒日」の時の私は子どもが遠足に行く時みたいにテンションが上がる。
 
JR膳所(ぜぜ)駅から徒歩3分で目的地に到着。
「こんにちは」と言いながら引き戸を開けて中に入ると、「はーい、いらっしゃいませー」と元気な声で大きな体のお兄さんが素敵な笑顔で番台から声をかけてくれる。
「サウナなしで」
「はい、じゃあ450円です」
番台に座る若いお兄さんがお釣りを差し出す。それを受け取って私は左側の女湯に向かう。ここは「都湯」という昔ながらの銭湯だ。
 
私が行くのは日曜日の午後。お会いする人もだいたい同じルーティーンなのか顔見知りになってくる。中でもお尻に蝶のタトゥーが入っている人とはよくご一緒する。一度、背中に素敵な人魚のタトゥーの入った方とお会いしたが、あまりにも立派な人魚だったので、まじまじと見てしまい怪訝そうな目で睨まれたこともある。
「この人たちはどんな生活をしてるんだろう……」と湯船に浸かりながら勝手な妄想をするのも楽しい。
 
都湯にはジェットバスが付いていて、私はこれがたまらなく好きだ。ジェットバスから勢いよく噴射されたお湯を背中、腰、お尻にゆっくりと上下に自分で動いて当てると疲れが吹っ飛ぶ。しかしこの動きは間寛平ちゃんの「かいーのー」の動きと全く同じなため、他の人が頭を洗っている間やサウナに入っているときにこっそりとやらないと恥ずかしすぎる。ここだけの話、「この場に男性がいなくて良かった」と思いながらお湯の中で「かいーのー」をやっている。実は私が髪を洗っているときに他の人たちもやっていると思っているが、実際には見たことがない。
 
そしてここには天然地下水100%そのままをくみ上げた水風呂もある。
私は水風呂の良さがここに来るまでわからなかった。なぜせっかく温めた体を水に入って冷やす必要があるのだ?と思っていたほど。しかし、湯船に浸かっていると目の前で代わる代わる水風呂に入る人が多いことに驚いた。
「そんなにいいのかな?」という興味本位で私は水風呂に右足だけ恐る恐る入れてみた。目が飛び出るほどに冷たい。壁に貼られている文字を見たら水温18度。「ムリ、ムリ、ムリー」とそそくさと温かい湯船に戻る私。しかし、目の前を水風呂のプロが躊躇なくどんどん入っていく。負けず嫌いの私は再度チャレンジ。右足だけが、徐々に両足、腰まで、おなかまで、胸まで、ついに肩までと、温かい湯と交互に入れるようになった。そこまでくると冷たい服と温かい服を何重にも着ているような変な感覚になった。その瞬間、私は水風呂の向こう側に到達した気がしたのだ。
今では水風呂こそ銭湯の醍醐味だとさえ思っている。
 
ちなみに都湯には電気風呂とサウナもあるが、私はまだ足を踏み入れていない。
ちょっと怖い感じがして避けてしまう。私より年上のマダムが優雅に入っている姿を見ると、「私にはまだ早いな」とさえ思っている。何回も通ってあのマダムたちと肩を並べて入るのがこれからの目標だ
 
この都湯のお湯は薪でお風呂を沸かしている。経費削減のために薪で沸かしているようだが、私にとってそれが実家のお風呂を彷彿とさせるのだ。
私の実家は未だに木を燃やしてお風呂を沸かしている。窯から熱されたお風呂はとっても熱いがなかなか冷めない。お湯が体にまとわりつく感じがするのだ。
そのまとわりつく感じがここ都湯でも感じられる。
「あー、今薪を入れてくれたんだなー」と思いながら湯船に浸かる。そして目を閉じながら実家のお風呂に入っている感覚になっていき、どこかノスタルジックな気分になってしまうのだ。このご時世、実家に帰れない私のような県外出身者にとってはありがたい気持ちでいっぱいになる。
 
なぜ私はここまで都湯にハマったのだろう?と考えてみた。
「ご褒日」と特別な日にしてまで都湯にいくのか?
考えた末、一つの結論に達した。
私にとって都湯は遊園地なのだ。ジェットバスも、水風呂も、あの人魚のタトゥーの人さえも全て遊園地のアトラクションなのだ。子どものころ、遊園地のゲートをくぐって入るワクワク感と都湯の暖簾をくぐって入るワクワク感が似ている気がする。
メリーゴーランドやジェットコースターのような乗り物が私にとって水風呂であり、電気風呂なのだ。
そして遊園地の帰り際にふっと寂しくなる気持ちがあの湯船に浸かったノスタルジックな気分と重なるのではないかと思う。
だから「ご褒日」であり、遠足の日のようにテンションが上がるのだろう。
 
皆さんも毎日、自宅のお風呂に入るだろう。一人でゆっくりと、家族と一緒に楽しく、音楽を聴きながら、本を持ち込んで熟読。もちろんそんな「おうちのお風呂」も心地よくリラックスできる。
でも、一度都湯の湯船に浸かってみてほしい。日頃のモヤモヤも、悲しい出来事も、悔しかったあのことも。全て大きな湯船の中で溶けてなくなる。
ぜひ、毎日のお風呂の一回を都湯で過ごしてみてほしい。
 
きっと暖簾をくぐって帰る頃には子供みたいな顔になっているから……。
 
 
 
 
***

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2021-01-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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