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メディアグランプリ

感情のうねりに飲み込まれそうだったあの頃


*この記事は、「リーディング・ライティング講座」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:中川文香(リーディング・ライティング講座)
 
 
主人公の乃里子のように、私も高校時代、自転車通学をしていた。
教科書や部活の道具で膨れたかばんをかごに入れ、夏は真っ黒に日焼けして。
今は少しペダルをこいだだけで息が切れてしまうけれど、あの頃は坂道もじゃんじゃん進めた。
 
乃里子は5回、東京に行ったことがあったけれど、その頃の私は2回しか行ったことが無かった。
一回は、親戚の結婚式に参列するため、ほんの幼い頃に。
二回目は、家族旅行だった。
回数こそ違えど、二人に共通していたのは “東京は遠い街だ” と思っていたことだろう。
 
葡萄農家の娘として生まれ、都会めいたことに憧れを抱きつつ、どこか「自分には関係の無いことだ」と一歩引いてじっとその気持ちを見つめている。
そんな乃里子の心の動きと、九州の田舎町で生まれ育った私の心が重なった。
乃里子が感じたことは、いつかの私も感じたことだった。
 
この小説には、青春時代に心の中を漂うであろうたくさんの感情が溢れている。
同性への嫉妬。
新しい季節への期待。
淡い初恋。
容姿へのコンプレックス。
まだ見ぬ性への興味。
高校生活の三年間で乃里子は自分のこの様々な感情に振り回され、何度も落胆し、その都度また新しい期待を胸に毎日を過ごしていく。
友達から “自意識過剰” と言われながらも、自分の見え方が気になって仕方がないのだ。
今振り返ってみれば、私も高校生の頃は家庭と学校という限られた小さい世界の中だけで生きていた。
けれど、そこで起こる出来事は一つ一つがその時の私にとっては大きくて、とても意味のあることで、その狭さとは反対に深くぐるぐると渦を巻いていたように思う。
時にはひとりでに膨れ上がって扱いに手を焼いたあの時の感情が、ページをめくるたびに蘇る。
そうそう、こんな風に恋をしたり、そのことを仲の良い友達と話したり、上手くいかないことに落ち込んだり嫉妬したり、毎日一喜一憂して過ごしていた。
まさしく “自意識過剰” だ。
 
そんな乃里子と私で唯一違うと思うのは、同級生の “岩永” の存在だろう。
岩永健男という男は、まだ中学生だった乃里子の前に見知らぬ男の子として突然現れ、そのほんの一時の間に鮮烈な印象を残していった。
恋に落ちたというわけでも、どこか惹かれたというわけでもなく、「これまで知らないものをもっと知りたい」という乃里子の好奇心の扉をこじ開けた、というのが正しいだろう。
実際、初恋の相手は岩永では無かった。
けれど、友達のうわさ話として、学校で見かけて、乃里子の日常の中にはいたるところに岩永の存在があった。
学校のスターである岩永と、特段美人でもなく目立たない乃里子の接点は無いように思えるけれど、それが高校生活最後の一年で変わることになる。
 
私のこれまでの人生で、岩永健男のような男の子と出会うことは無かった。
将来有望なスポーツマンで、自信家で横柄で、女の子にもてる。
どこにいてもその場にいるみんなの視線を自然と集めてしまうような、そんな圧倒的存在感を放つ存在を私は知らない。
でも、もしもそんな男の子が私の学生時代にもいたのなら、きっと気になってしまっていただろう。
好きというわけでも、嫌いというわけでも、惹かれているわけでもなく、ただ同じその場にいるときにはいつの間にか視線を持っていかれている、乃里子と同じような感覚になるはずだ。
羨望なのか嫉妬なのか、未知のものを知りたいという欲望なのか、はっきり「これ」と名前の付けられないごちゃまぜの不思議な感情を抱かせるような相手が、乃里子にとっての岩永だったのだろうと思う。
 
心を揺さぶるたくさんの出来事が起こりながらも、青春時代は瞬く間に過ぎていく。
一年一年、高校時代から遠ざかっていくと共に、その記憶も頭の片隅に小さくなっていく。
 
憧れの東京の大学に進学して、卒業してからも東京で働き、順調にキャリアをのばしていっていた。
はたから見ると順風満帆とも思えるような乃里子に、思いがけない再会が待っていたのは30歳を過ぎた時だった。
ラストに乃里子の頬を伝った涙は、その先の彼女の人生にどんな意味をもたらすのか。
曖昧で、名前が付けられなくて、自分でも両手で持て余してしまうような少女の頃の感情が、30代の乃里子の胸に再び湧き上がってきた涙だ、と思えた。
 
些細なことに悩んで、どきどきして、それでもあの頃は「なんて単調な毎日なんだろう」と思っていた。
振り返ってみると、あれは10代のみずみずしさがぎゅっと濃縮されたような時間だった。
なんでもないような日々に確かにあった青春を、乃里子を通して追体験する。
林真理子、『葡萄が目にしみる』。
読み進めるうちにきっと自分の青春時代を思い返して、ニヤリとしてしまうに違いない。
 
 
 
 
***
 
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2021-02-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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