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タイムカプセルを開けました。かいてくれて、ありがとう。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:岡部真恵(チーム天狼院)
 
 
「うわ、懐かしー」
 
棚の奥から、使い古された筆箱が出てきた。中学生のころ愛用していた物だ。
私は昔から文房具が好きで、お小遣いをもらうたびに新しい文具を買っていた。
 
この頃は何を使ってたんだっけ。
タイムカプセルを開けるような感覚で中身を取り出したら、思いがけないものが出てきた。
 
Gペン。
漫画を描くためのペンだ。
 
ペンを握ると、隅っこに追いやられていた記憶が蘇る。
 
そういえば、学生の頃、イラスト描いてたなあ……。
 
小さいころ、漫画は魔法使いが作ってるんだと思っていた。杖を振ったらキラキラと錬成される、「漫画家」という特別な魔法使いにしかできないすごいこと。
魔法じゃないとわかった時、すごく興奮した。そして、絶対に自分も描いてみたいと思ったのだ。
文房具屋の店員さんに「何があれば漫画が描けますか」と尋ね、どう使うのかもわからない原稿用紙とGペンを買って、右手の側面を真っ黒にしながら無我夢中に原稿を埋めた。
 
ああ、楽しかったなあ。
 
最近はイラストすら描いていないなあ。
最後に描いたのは確か……あれ?
 
最後に描いたの、いつだっけ。
 
どれだけ考えても思い出せなかった。
私はいつから絵を描かなくなったんだろう。あんなに夢中だったのに。
 
描き始めた頃のことは鮮明に覚えている。
小学生のころ、私は「ちゃお」を愛読していて、八神千歳先生という漫画家さんが好きだった。漫画の上に薄い紙をのせて、絵をなぞった。字の書き方すら真似たほどだった。
初めて自分だけで描いたイラストはとても見れた物ではなかったが、友だちと二人でコピー用紙を並べ、夢中で筆を走らせていた。
そうしていると、ひとり、ふたりと仲間が増え、みんなで集まって好きな漫画を模写したり、オリジナルキャラクターを作ったりしているうちに、クラス内で漫画部というものが発足した。
小学生のままごとだったけれど、毎月一冊の部誌を発行した。発行といっても、コピーなんかできないので一冊だけ。
完成した不恰好な一冊を、みんなで大切に回して読んでいた。
 
中学生になって、お年玉でペンタブを買った。
ペンタブというのは、パソコンに接続するとデジタルイラストを描ける機械のことだ。
操作は難しいし、目も疲れるし、気が遠くなるような細かい作業の連続だ。それでも5時間、6時間と夢中になって描いていた。
 
ただただ楽しかった。他人の目なんてどうでも良い。自分の気が済むまで線を引いて、自由に色を塗った。
 
高校一年生。
部活動への入部が必須だったので、なるべく絵を描くことに時間を費やしたくて美術部に入部した。
やっぱり同志がいると楽しい。お喋りしたり、お菓子を食べたりしながらみんなで絵を描いた。
与えられた課題を、思い描いた通りに表現したいと思った。毎日デッサンをしていた時期もある。そのおかげか、端くれみたいな私でも、少しは上達した。
 
でも、私は絵が描けなくなった。
 
今だからわかる。多分、居心地が悪かったのだ。
プロのバレーボール選手の中に、ママさんバレーのメンバーである私が紛れ込んでしまったような、場違い感。
ただただ絵を描くことが楽しくて、向上心も人並みな自分が、プロを志す友達と肩を並べて絵を描いていてはいけない気がしたのだ。
 
そう、進学問題だった。
絵を描く人がたくさんいたら、美術系大学に進学する子だって珍しくない。私が仲良くしていた友達も4人ほど美術大学に進学した。
 
受験期の彼女らは壮絶だった。
 
デッサンが、パースが、構図が。
光源や質感を意識して、グリサイユ画法を使って、下塗りして……。
 
専門用語が飛び交っていた。
独学とはいえ、絵を趣味にしていたのでわからない訳ではなかった。
でも、みんなと違って「画塾」に通っていなかった。一日何時間も「基礎練習」に励んでいなかった。
美術の大学に進みたいとは、思わなかった。
 
イラストって、仕事になるんだ。
受験勉強に一生懸命な友人を見て、ふと理解した。その途端、自分の絵が「商品にはできない、稚拙で恥ずかしいもの」に変わってしまった。
それからの私は、みんなが絵を描く横で、不貞腐れたみたいにサボり倒した。
ある日は漫画を読み、スマホをいじり、お菓子を食べた。
そして、いよいよ受験勉強に本腰を入れなきゃいけなくなって、いつの間にか絵を描かなくなった。
 
大学に入ってから、何度か「描きたいな」と思ったことはある。
 
だけど、とてもじゃないが、描けなかった。
正確に言うと、描いたといえば描いたけれど、完成させることができなかったのだ。
画塾の先生からこてんぱんに言われても、次の日には疲れた顔で絵を描く友人の真剣な横顔が、呪縛のようにこびりついていた。
 
友達のせいなんかじゃない。画塾の先生のせいでもない。ただ、友人が画塾の先生にされていたように、大好きな友人が私のイラストを厳しく評価するのではないか、と、怖かった。
 
……あ、そうか。私、ずっと悩んでたんだ。
今まで目を背けていた感情が急に色付いて、嘘みたいに理解できた。
 
筆箱から出てきたGペンを見つめ直す。
持ちやすいように滑り止めグリップがつけられていて、インクでどこもかしこも汚れていて、ペン先はほとんど潰れている。
このペンだけ見たら立派な漫画家だ。
 
ふーん。なんか、いいじゃん。
私って、自分が思ってたより頑張ってたのかも。
 
急に、過去の自分が途端に羨ましくなった。
こんなに夢中で漫画を描いていたんだなあ。
 
ずるい。
 
自然とペンを取っていた。
スッ、スッと、線を引いてみる。
あ、案外それっぽい線、描けるもんだなー。
丸、三角、四角……昔よく描いていたポケモン、愛犬の似顔絵、キャラクター。
気の向くまま筆を走らせる。次第に、口の中が乾くくらい没頭していった。
 
ハッとして時計を見る。
1時間くらい、そうしていたらしい。
 
とても上手いとは言えないけれど、プリントの裏面が楽しそうなイラストでいっぱいになっていた。
 
それがなぜだか嬉しくて、クリスマスの朝みたいに心臓がぎゅっとした。
もう何年もこわばっていた心がじんわりあたたかくなる。
 
あー、絵を描くのって楽しい!
 
5年以上ぶりに、心からそう思った。
ごちゃごちゃしていた気持ちが一気に晴れて、呪縛が解ける。
誰かに何かを言われても、かっこ悪くても、プロじゃなくても、自分が楽しいなら描けばいいじゃん。なにを怖がってたんだろう。馬鹿だなあ。
 
汚れたGペンを握り締めながら、ちょっとだけ泣いた。
 
また少しずつ絵の練習をしてもいいかな。
手の中のペンGに、「いいよ」と言われた気がする。
 
 
 
 
***

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2021-02-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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