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屋久島で米作り。「てんてこ舞い」de「てんてこ米」


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:石川まみ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
今年も米作りが始まった。
 
九州南部の屋久島とてまだ寒さの残る3月初めに種籾をまく。そして田植えまでの約1か月間で苗を育てる。
 
「苗づくり7割」苗の出来の良し悪しで、米作りの70%が決まると言われている。
小さな命を育てる最初の工程はとても大切で、自然と気持ちが引き締まる。
 
屋久島での米作りは今年で5年目になる。
 
夫と隣人との何気ない雑談がきっかけで、米作りの話がとんとん拍子に進んだ。
 
移住して来て2年目の秋に夫が集落の、のんかた(飲み会)に参加した時、隣り合わせたFさんに話しかけた。
 
「お米を作ってみたいと思ってるんだ。この先いつどんな災害が起こるかも分からないし主食を作るというのは田舎に住んでいる強みだと思うんだよね」
 
「いいですね、僕もぜひやりたいな。誰か田んぼを貸してくれる人とかいるのかな」
 
Fさんは私たちより半年後に移住して来た隣人だ。
 
それから3日も経たない内に集落の方が訪ねてきた。顔は分かるが名前は分からない。
 
「石川さんが米作りしたいって聞いたもんでね。やるんなら田んぼ貸すよ」
 
「えっ誰から聞いたんですか?」
 
光回線がまだ来て無かったその頃、島の口伝え情報網はインターネットより遥かに早いと言われていたが、その意味が分かったような気がした。
 
集落の農家のYさんに案内されて行った田んぼは、山を背に海を見渡せる景色の美しい場所だった。
 
一反(991.74平方メートル、300坪)より少し広い田んぼを2面も貸してくれるという。
 
「広い! 機械を使わないとできませんね?」と聞くと
 
「そりゃあそうさ、田植え機、稲刈り機の他に耕すためのトラクターもいるけど全部貸すし、手伝いますよ」とYさんは言ってくれた。
 
「田んぼは、おいくらぐらいで貸していただけるんですか?」
 
「代金はいらないよ。ここはね〇〇さんの休耕田なんだけどね、ここでお米を作ってくれるなら田んぼのためにもその方がいいって言ってくれてるから」
 
なんとタダで田んぼを貸してもらった。
 
米作りをしたいと言う移住者を、すんなりと受け入れて手を差し伸べてくれる島の方達の懐の深さに感謝した。
 
この広さではFさんと2家族ではやりきれないし、できるお米の量も多すぎる。近くに住む移住者達にも声をかけ米作りの素人ばかりの4家族で始めることになった。
 
お米は主食だ。生半可な気持ちでは臨めない。
 
私たちは分からないながらにも話し合い、目標と方針を立てた。
 
「できるかぎり無農薬で栽培するが“自分たちが一年間、食べられるだけの量を作ること”を目標にして、状況に応じて話合い、臨機応変に対応していく」
 
最初の年は、もう、本当にてんてこ舞いで大変だった。
 
注文した農業資材が届いてみたらサイズを間違えていた! 田んぼから大量の水漏れだ!
 
大雨で水路が詰まった! 病気が出た! 虫が大量発生した! 台風で稲が倒れそうだ!
 
出来るだけ無農薬でと思うと田んぼの雑草取りや畔の草刈りも頻繁で体力もかなり必要だ。
 
それでもなんとか集落の方に手取り足取り教えてもらいながら収穫の時を迎えることができた。
 
ビギナーズラック! 夏の晴天率が高かったこともあり、蓋を開けてみればまずまずの豊作で一年分食べても余るほどのお米が出来た。自分たちで作った新米は思ってたよりずっと美味しかった。
 
打上げの反省会で新米をほおばりながら「てんてこ舞いで作ったお米だから、ブランド名は“てんてこ米(てんてこまい)”にしない?」仲間の一人が言った。
 
「そうしよう!」
 
「かわいい名前でいいね!」
 
こうして私たちの作ったお米は自家用米で売りものでは無いが「てんてこ米」と命名した。
 
お米作りをしてみて得たものは、お米だけでは無かった。
 
それは「結(ゆい)」の精神の大切さを体感出来たことだ。
 
「結」とは、農村社会に古くからみられる慣行で、農家相互間で助け合いながら行う共同労働だ。
 
たとえば田植えや稲刈りのように短期間で集中的にやらなければならない作業は相互に力を出し合って、それぞれの田んぼの作業を順番にやっていく。
 
最初は、集落の農家の方に手伝ってもらったら「手間賃をいくら支払おうか」とか、「お礼の品は何にしよう」とか、トラクターをだしてもらったら「いくらかかるんだろう」とか
 
金銭や品物で返すことしか考えに無かった。
 
私たちは農家ではないから田んぼや畑の仕事にかかりきりにはなれないが、それでも翌年からは少しずつ他の田んぼの作業にも力を貸そうと出向くことができるようになってきた。
 
「結の精神だね~、ありがとう」非力で要領を得ない私の労働力も、そう言って歓迎してくれる。
 
人々の助け合いで支えられた農村の昔からのこの暖かい結でつながるコミュニティは、現代の少子高齢化の地域社会でも活かしていくことが大切なのではないだろうか。
 
それから毎年、お米の出来は違った。
 
天候によって大きく左右されるが、それもまた自然とともに暮らす試練であり、楽しみでもあった。
 
長雨で病気がまん延してしまい収量が半減したり、沢山とれても味がよくなかったり。
 
早くに成長しすぎて背が高くなりすぎて稲が倒れてしまったり。
 
いつもの種籾が売り切れていて、産地を変えたら意外と美味しかったり。
 
「お正月には自分たちの作ったもち米でお雑煮が食べられたらいいね」
 
今年は、もち米も作ってみようということになった。
 
苗が出来たら田植えの前に、田んぼの横を流れる川沿いに祭られている水神様にお参りする。
 
「事故もなく一年無事に米作りができますように」
 
田植えが無事終わったら集落内に祭られている田んぼの神様にお参りに行く。
 
「どうか美味しいお米ができますように。豊作ですように」
 
自然に感謝しつつ祈ろうと思う。
 
 
 
 
***
 
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2021-03-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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