メディアグランプリ

かけらを探す丸、私を探す私

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*この記事は、「リーディング・ライティング講座」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:柴沼由美子(リーディング・ライティング講座)
 
それは有名な、かけらを探す丸の話。
主人公は、丸。完璧な円ではなくて、一部が欠けているので丸と呼ぶことにする。丸は自分の欠けている部分にぴったりおさまる「かけら」がどこかにあると信じている。丸はかけらを探しに旅に出る。
丸は転がりながら旅をする。欠けているのであんまり早くは転がれない。ゆっくり転がりながら花の香りを嗅ぎ、蝶を止まらせ、歌いながら山を越え海を渡る。
やがて丸は自分にぴったりのかけらを見つける。
「ぼくを探しに」はシルヴァスタインの今もって愛される名著だ。
 
この話を自分探しの旅ととらえる人達は多い。私もそうだった。思春期の頃、自分の欠けている部分にぴったりする何かが入れば完璧で幸福になれると信じていた。クラスで一番得意なことがあれば、将来のはっきりした目標があれば、私の欠けたところが埋まるはず。シンデレラの足にぴったり合ったガラスの靴のように、かけらさえ見つかれば完璧なはずだ。
 
また、この話を結婚に例える解釈も多くみられた。結婚相手をかけら呼ばわりするなんて、今考えるとずいぶん失礼な話ではあるが、ぴったりのかけらなど見つからないまま、結婚適齢期と呼ばれる年齢になった私もそれを夢見た。同じ感性、同じ価値観を持って生きる人と出会えたなら幸福なはずだ。
 
私はどうしても、この話のラストシーンが納得いかなかった。せっかくぴったりのかけらを見つけたのに、丸はまた一人になって転がりだす。
「それじゃ、いままでの旅はなんの意味もないじゃない」
そして本はいつしか本棚の隅に追いやられ開くこともなくなったが、結婚しても引っ越しても引っ越し荷物の中に入っていた。
 
何年ぶりかで引っ張り出して再び読んでみたのは、人間として成長した私がラストシーンに共感するようになったとかそういう話ではない。
もしも、丸が雪だるまだったらどうなるか。そんな唐突な疑問が湧いたのだ。
「雪だるまって、転がして大きくするよね」
「欠けた雪だるまって転がせるのかな」
転がれない丸は大きくなれず、成長もできないのでは。いや、待てよ。
雪だるまは雪玉を作って転がしていく。その雪玉にあんなに大きな欠けた部分があったら、転がす前に崩れてしまうんじゃないの?
調べてみたけれどよくわからない。高校の物理の授業をもう一度受けなおしたらわかるだろうか。
丸をじっと見てみる。子供のとき描いた雪だるまの絵に似ている。
「でも、成長しても雪だるまはすぐに溶けちゃうんだよね」
そう呟きながら私は今までなら絶対しなかったことをしてみたくなった。
ペンを取り出し丸の上にもう一つ、少し小さい丸を書き足した。目と鼻と口をつけてみる。ほーら、雪だるまになった。
雪だるまになった丸はもう転がれない。
「なんか悪いことしちゃったな」
そう思いながら、もっと悪いことをしてみたくなった。
 
丸が風船だったらどうなるか。風船が欠けていたら割れてしまう。でも小学生の頃、
「風船にセロハンテープを張って針を刺すと割れない」
と聞いてやってみたことがあった。針を突き刺すときのあのドキドキ感を思い出し、別のページの丸に絆創膏を張ってみる。そこに
「痛くないよ」
と注射針を刺す。なんだかどんどん楽しくなってきた。
 
風船は割れるし転がそうとすると弾んでしまう。それでは丸は旅ができない。雪だるまにしてしまって動けなくしてしまったのに、こっちの丸も旅ができないのでは申し訳なさすぎる。
しかし風船は転がれないけれど飛べるのだ。絆創膏と注射針の丸に風船の糸をつける。風船は軽やかに丸を連れて空へと舞い上がる。
「いってらっしゃい。気をつけて」
空高く昇れるように風船を追加する。空ではみみずとは話せないけど、大空を舞う鳥達と話しておいで。
 
色鉛筆も出してきて風船をカラフルに彩る。丸の頭に止まる蝶の上には蝶の群れ。その上に風船に連れられた丸の姿。
 
ラストシーンで置き去りにされたかけらの姿に胸が痛くなる。かけらは転がれないから一人ではどこへも行けないのだ。
さあ、かけら救済。かけらにも風船をつけようか。どんなのがいいだろう。
 
かけらにつけた風船は丸と同じ形、欠けた部分もそのままにぐんぐん空へ。
 
「ああ、楽しかった」
本はすっかり姿を変え、まるで別のお話になった。
私の心もすっきりした。
16歳の私が一生懸命自分を探した本。
26歳の私が一生懸命幸せを探した本。
56歳の私が無邪気に完結させた本。
これが本当のラストシーン。こんな本の使い方があってもいいでしょう。
ああ、でももう一冊買い足した方がいいだろうか。
 
 
 
 
***
 
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2021-03-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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