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私の決泳表明


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:大村沙織(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「お久しぶり、3月も休会することにしたよ~」
「やっぱり? 早く時短営業解除してほしいですよねー!」
 
スマホを見ると、LINEから通知が来ていた。
以前東京で通っていたジムで、特に仲良くしていたメンバーで作ったグループLINE。
そこに久しぶりに投稿されたのは、そんな嘆きの声だった。
東京のジムは時短営業が続いていることに驚きながら、挨拶がてら質問する。
 
「お久しぶりです、時短営業って何時までなんですか?」
「それが20時閉店なんだよね。仕事が終わって会社から直行してももう閉まってるの。他だと23時までやっているところもあるのに!!」
 
確かに20時までだとほぼ何もできないに等しい。
何でもコロナ禍前は週3回入っていたレッスンも、今は週1回で、人数を制限しての開催となっているらしい。
 
「いつになったら自由に泳げる日が来るんだろう……?」
 
途方に暮れる仲間達に思いを馳せつつ、私は心の底から今の状況に感謝した。
今私が通っている茨城県のジムでは時短営業もなく、プールも開放されており、レッスンも毎日のように開催されているのだから。
 
私が水泳を始めたのは20代後半になってからだから、今から6~7年前になる。
当時仲良くしていた同僚に誘われ、最初は嫌々ながら始めた。
水着になるのが恥ずかしい、お風呂に入ったり着替えたりするのが面倒、荷物が多くなるなど、やりたくない理由を挙げればきりがなかった。
しかしその同僚のあまりの熱意に最終的には根負けしてしまい、2週間のジム体験会員になってレッスンに参加してみることにした。
そして受けた初めてのレッスン。
内容は初心者向けのもので、そこで教えていたのは手だけを使って水の中を進んでいく「スカーリング」という方法だった。
足が浮くように浮きを足の間に挟み、手だけで水面を滑るように進んでいく。
最初は体は浮かないし、浮いてもその場にとどまるだけでスムーズに進まず、心が折れそうになった。
しかしコーチのアドバイスを聞く内に徐々にコツをつかみ、体も自然と浮き、ゆっくりではあるが前に進むようになった。
 
「ちょっと教えただけで、凄く良くなりましたね!」
 
コーチの満面の笑顔と共に味わったあの感動が、今でも忘れられない。
大人になってから「できた!!」という感覚を味わうのは本当に久しぶりのことで、それがひどく心地良かった。
会社に入ってからめまぐるしく過ぎる日々の中で、仕事で身につけたスキルなども確かにあったはずだ。
ただそのときの自分にとって大事だったのは、「自分の体ひとつで、大人になってからでもできるようになることがある」という新鮮な事実だった。
嬉しい驚きと発見、新しいことができるようになった達成感と興奮でアドレナリンが出すぎたのか、私はコーチにひたすらお礼を言ってその日のレッスンを終えた。
結局2週間の会員体験を終えた後、私は正式にそのジムの会員になることにした。
体験期間中にレッスンに出まくった私は、すっかり水泳の虜になっていた。
水泳を始めて1年後には4泳法のクラスにも全て出席し、自信を持って「4泳法泳げます」といえるレベルにまでなった。
更に泳ぐための基礎体力をつけ、タイムを上げたいと欲を出した結果、マスターズ水泳にも参加するようになった。
定期的に大会にも出場し、自分のタイムを毎年更新して、優勝してメダルをいただくというありがたい経験もさせていただいた。
そして現在も引っ越し先では必ずマスターズ水泳のクラスがあるジムを探すなど、泳げる環境のためなら苦労は惜しまないほど、水泳が好きだ。
始めてから5年以上経つが、まさか自分がこんなにも水泳にはまるとは思っていなかった。
最初に誘ってくれた同僚には感謝しかない。
 
今や日常生活の一部になったプール。
仕事帰りも含めて週に3回は泳ぎに行っている。
泳ぐことで無心になり気分転換できるし、この時期は花粉症でぐずぐずする鼻ががすっきりするというおまけもついてくる。
ありがたいことに今のジムのプールはとても充実しており、20レーン近くは確実にある。
1人で1レーン使うことも十分可能だし、長時間練習していても文句は言われない。
レッスンも日中や夜に毎日のように行われている。
マスターズ水泳のクラスはないがマスターズ同好会が存在し、練習メニューを作って週に3回程自主練習を行っている。
そんな状況を東京の水泳仲間が聞いたら、どう思うだろう?
あまりの練習環境の違いに驚くのではないだろうか?
プールのレーンの数は地方と都内の土地の広さの関係で差があっても仕方ないとはいえ、営業するかどうかはジムの方針にもよるし、慎重なところであれば完全に閉める可能性だってある。
最悪プールが確保できず、昨年の緊急事態宣言のときのようにずっと泳ぐことができないケースもありうるのだ。
あのような経験は、できればもうしたくない。
 
いつの間にか、グループLINEは試合の話で盛り上がっていた。
やはりコロナウィルスの影響もあって、試合の案内は出るものの中止になるケースが多い。
最近では試合は開催するものの、移動を避けるために他県からの参加者は受け入れない方針のものが多く、皆が話していたのは4月から全国で行われる予定の最新のレースについてだった。
 
「皆さん出られるんですか?」
「出ようにも練習できてないからね……開催されるかどうかも正直分からないし」
 
そう、試合の案内は出ても、実際開催されるかどうかはまた別の話なのだ。
実際私の場合も、2月に出場するつもりでエントリーしていた試合が中止になったばかりだった。
試合の2週間前に中止が発表されたときは仕方のないこととはいえショックで、その日の練習には集中できなかった。
せっかく練習してきたことを発揮できないのは、本当にきつい。
おこがましいのは承知の上だが、東京オリンピックが延期になったアスリート達の気持ちが少し分かるような気がした。
 
「でも沙織ちゃんには試合に出てほしいな。今私達の中で一番速く泳げるだろうし。出られる大会があると良いね!」
 
この言葉に、はっとさせられた。
そうだ、私は恵まれているんだ。
ちゃんと定期的に練習できている。
泳ぎにアドバイスをくれる人もいる。
しかも、応援してくれる人までいる。
こんなに幸せなことがあるだろうか?
私は皆にお礼を言って、グループチャットから抜けた。
そのままジムに電話をかけて、馴染みのコーチにプライベートレッスンの予約をお願いする。
 
「試合が1個潰れたからって腐ってる場合じゃない、練習頑張ろう!!」
 
「皆の思いを背負って」というと大げさかもしれないが、そのくらいのプレッシャーがあった方が練習にも身が入るだろうし、好都合だ。
今自分にできることを、ただひたすらやっていこう。
泳ぐことができる今このとき、支えてくれる人達への感謝を胸に―。
 
 
 
 
***
 
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2021-03-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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