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クラファンにチャレンジする恐怖


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:北林美沙子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「公開する」ボタンをクリックするのにかかった時間、約20分。
 
やるか、それともやっぱりやめるか。
いや、やろう!
でも……
 
えい!押しちゃえ!!!
 
2019年7月8日15時3分。
今まさに、自分の個人的な欲求の為だけに、私はクラウドファンディングを震えながらスタートした。1週間のチャレンジで目標金額は50万円。
手に入れたい物は、足の悪い娘でも漕げる足漕ぎ車いす「コギー」
 
「あきらめない人の車椅子」というキャッチコピーのこの車椅子をご存知だろうか?
初めてコギーを知ったのは2018年夏だった。
娘のリハビリのため、岐阜から電車と新幹線を乗り継いで湘南まで遠征した先で出会ったのが黄色の小さくてかわいいそれだった。
三輪車のような車椅子のようなその乗り物は、娘をあっという間に虜にした。なんでも産学連携で東北大学と民間企業の共同開発だとかで、脊椎損傷患者でも漕げる。電気は使用しておらず、人間の反射の仕組みを利用しているのだとか。
 
素人には全くその仕組みはわからなかったが、分かったのは、生まれてから一度も自分で歩いたことのない娘が、意気揚々と三輪車のような車椅子を足で漕いでいる事、そして今まで見たこともないぐらい、自信に満ち溢れていたことだった。
 
なんだこれ!!
娘を一瞬でこんなに自信に満ち溢れさせるものがいまだかつてあっただろうか。
私と娘はコギーに夢中になった。
 
その年は4回湘南に通い、4回ともコギーを思いっきり楽しんだ。
反射を使うとはいえ物理的に足が動くので、筋力増強にもつながるとのことで、施設側も積極的に乗せてくれた。
最後のリハビリの時に、思い切って施設の人に聞いてみた。
 
「これって個人でも購入できるんですか?」
 
「個人で購入できますよ!40万円です!」
さらっとビッグな金額が返ってきた……
 
一旦は諦めたコギーだったが、
その1年後、私は震えながら「公開ボタン」をクリックしていた。
 
やっぱり娘をコギーに乗せてあげたい。
買うのではなくてクラウドファンディングでみんなから支援してもらおう。
 
40万円は我が家にとって大金だったが、だからと言って一家で路頭に迷う程ではなかった。にもかかわらず、自分で購入せずにわざわざ震えながらクラウドファンディングに挑戦した理由があった。
 
それは、
障害や病気を持つ子供の親はもっと頼っていいんだ、ということを見せたかったから。
 
娘が生まれて9年。障害児の母となった私は、様々な場面で、多くの障害児の親御さんが「頼る」事に罪悪感を持ち、限界まで自分たちだけで何とかしようとしている様子を見てきた。
 
自分たちが健康に産めなかったから。
自分たちが健康に育ててあげられなかったから。
そんなどうしようもない、ある意味不可抗力な出来事に罪悪感を持ち、頑張りすぎたり我慢しすぎたりする親御さんたちに、世界はもっと優しいんだということを見せたかったのだ。
 
なんてかっこいい事を書いているが、世界はもっと優しいんだ、を証明しなくては始まらない!
 
震えながら「公開ボタン」を押した私は、自分の持つSNSツールすべてに情報を公開し、怖さから逃れるために皿洗いに没頭した。
 
車椅子でも十分移動できるのに、贅沢を言って足漕ぎ車いすを欲しがる親子に、恥を知れ!自分で買え!と言葉を投げつけられてもおかしくないと思っていた。
 
公開したけど怖い……
 
一旦忘れよう、もしこれで全然集まらなくてもいいんだ。
チャレンジしたことに意味があるし、恥をかいたって別に死ぬわけじゃない。
恥をかいたっていいんだ。
恥をかいたって誰に迷惑をかけるわけでもないのだから。
 
そう言い聞かせながら皿を洗っていると、次々とスマホに「パトロンが現れました!」と支援の通知が入ってきた。
 
たった8時間で30人もの人が支援し、50%達成した。
そして3日で100%達成。
 
ほっとして脱力した。
買える喜びよりも、力を貸してくれた喜びに涙があふれて止まらなかった。
 
3日で100%を超えたチャレンジは設定の1週間の期日まで、止まることなく増え続けた。
怒涛の様に過ぎた1週間。最後はぴったり100人、70万円の支援が集まり終了した。
 
99人でもなく101人でもなく100人。
すごい一週間だった。
 
この1週間で私が得たものは、70万円だけではない。
 
「娘ちゃんの為に力を貸すことができてうれしいです!」
「娘ちゃんの支援を手伝わせてくれてありがとう!」
 
こんな声をたくさんもらい、私は学んだ。
世界は優しいし、人はみんな助け合いたがっているのだと。
 
あれから2年
娘は週末の度にコギーでお散歩し、どんどん上達している。
自信に満ちた顔で、自在に足を動かして漕いでいる。
 
そして私は、その様子をSNSに挙げては、100人の育ての親たちに近況を報告している。
成長を共に喜ぶ声がコメントに入るのを楽しみながら。
 
1人で頑張って買い与えるよりも100人で買い与える方が何倍も幸せなのをかみしめている。
 
 
 
 
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