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幸せの育て方

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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:森 典子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
桜の花びらが地面に舞う4月初め、長女が結婚式を挙げた。入籍して2年が経とうとしていた。結婚式は昨年の6月オーストラリアで挙げる予定だった。しかし、新型コロナにより延期。結局、渡航のめどが立つことなく国内での挙式に変更することにした。場所は二人が知り合った京都にある無形文化財指定の神社だった。
10年前、長女が京都の大学に合格し旅立っていったと同時に、私の20年近い結婚生活は、彼のからの申し出で、ピリオドを打った。その時は、十分その事実を受け止められなかったが、10年という月日によって、「これでよかったんだ」と思うようになった。
 
娘から結婚式のことを聞いた時、式に父親は出るのか尋ねた。父親は出席したくないということだった。しかし、娘の晴れ姿を無たくない父親はいないと思った。きっと私に会うことが嫌なのだろうと思えた。「絶対話しかけないから、出席してもらって」と伝えた。娘が説得して何とか出席することになった。
結婚式当日会場で、彼は次女と一緒に現れた。10年ぶりに見た姿は、想像以上に老けたように見えた。きっと毎日見ていたらそうは思わなかったのかもしれない。そういう自分も、きっと相手からみたらそう思われているのだろう。時間の経過の重みを感じた。
「お久しぶりです」と声をかけたが、私の顔をまともに見ることはなかった。すぐに次女が飛んできて「話しかけないで」と言った。「挨拶しただけ」と言って離れた。次女がSPのようにくっついている姿を見て、彼が式に出たくない理由が分かった。
そして、そんな彼に出てもらうように伝えたことを後悔した。長女はそのことが分かっていて、私だけに式に出て欲しかったのだろう。父親のことをよくわかっている娘の判断は正しかった。それを無理やり私がこの場に連れ出してしまった。私がいなかったら、娘の幸せを心から喜んでいたに違いない。自分の勝手な思い込みで、娘たちにも元夫にも嫌な思いをさせてしまったと後悔した。きっと結婚していた時も、家族の気持ちを理解できず、自分の思いを家族に押し付けてきたのかもしれない。
 
その後は彼に近づかず、できるだけ自然に振る舞えるよう、娘の写真を撮ることに集中した。写真を撮りながら、実家で娘たちと古いアルバムを見ていた時のことを思い出していた。私の結婚式の写真を見て、「なに、この夢見る少女みたいな写真は」と姉妹2人でお腹を抱えて笑ったのだ。「でもアルバムっていいね。こうやってすぐに見られて」と長女が言った。確かに今はわざわざプリントアウトなどすることは少なくなった。思い出は小さなスマートフォンの中に詰まっている。しかし、プリントされた写真は、その時の瞬間の気持ちを閉じ込め、気持ちをあらわにする。
娘の言葉を聞いて、結婚式にはカメラを持って行って、アルバムにしようと思ったのだ。
「本当に、可愛いですね。何を着ても可愛い」そう言って、花婿の母が目を細める。息子2人の母親である人にとって、長女の姿はそんな風に映るのだと思った。
「いや、でも紋付袴とても似合っていますね」と言うと、嬉しそうに「そうですね、意外ですけど。似合っていますね」と言った。長身で切れ長の目元の新郎紋付き袴姿は、歌舞伎役者の襲名披露のように凛々しく格好よかった。
 
神社での結婚の儀式は、粛々をとり行われた。最後に「これより、両家の盃を交わします」と神主さんが言った。不謹慎にも、まるでやくざの盃を交わすみたいだと思えた。やくざの盃は神に誓うぐらい重いものだということだろうか。土器(かわらけ)にお神酒が注がれた。お酒好きだった隣にいる元夫は、「このお酒を味わっているのだろう」と彼の気持ちを思う。全く飲めない私だが、この日ばかりはと、グイっと飲み干した。前なら、アルコールが体に入っただけで、喉の奥がカーっと熱くなったのに、何のひっかかりもなく流れていった。それは、まるで10年の空白を洗い流していくように、胸の引っ掛かりをも流していった。そして、娘の幸せな姿を見られたのも彼のおかげだったかもしれないと思えた。結婚も出産も2人が望んだ結果だ。
 
次女が元夫から離れた瞬間。「この子を産ませてもらってありがとう」と一言だけ言った。「いや、こちらこそ」と消え入りそうに小さな声で返事をした。
2人がタクシーの乗り込み、境内にひとり取り残された。境内に二葉葵のポットを売っていた。「御祈祷もしてあります」と言って白い割烹着姿の女性が声を掛けてくれた。
「フタバアオイは自然だけでは繁殖しにくく、人間の手助けが必要です」という言葉にひかれた。子育てを終え、子どもに手をかけることがなくなった自分にはぴったりの言葉だ。「まだまだ自分のできることはあるはず」そう思えた。「ひとつ下さい」と言った。
「どれにしますか?」と言われ、「これもご縁ですから、選んでいただいていいですか?」と言って選んでもらった。
「自分にもまだ、何かの役に立てる」その決意を持って、神社の鳥居を後にした。
鳥居を出た瞬間、涙がこぼれた。それがなんの涙だったのか自分でもわからない。
でも、涙を流したら、なぜか急にお腹が減ってきた。
 
 
 
 
***
 
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