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添乗員の小池さん~20年の旅路~


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:小池香苗(ライティング・ゼミ集中コース)
 
 
2011年のある暑い日の大阪。営業マンだった私は、会社で朝から資料作りをしていた。
「東京ディズニーリゾートエリアにある自分が所属するホテルに、西日本からお客様をたくさん連れてくる」、ざっくり言うとこれが営業ミッションだった。
 
エリアには10以上のホテルがひしめき合い、ホテルは客層や規模、特長もさまざま。
各ホテルが個性を活かし、「うちに泊まりに来てください」と凌ぎを削っていた。私は当時、本社が舞浜にあるホテルの大阪駐在で、団体旅行、企業の全社会議、イベントなどの需要を探して、西日本各所をセールスに飛び回っていた。
 
大阪の夏は暑い。連日、終日の外回りが続いていたので、朝から久しぶりのオフィス業務に、ちょっとウキウキしながら取りかかっていた。
 
10時をまわった頃、電話が鳴った。
「お電話ありがとうございます! ○○ホテル、大阪セールスオフィス 小池です」
 
「……あぁ、■■トラベルの、小池です。私も、小池」
ゆっくりした口調の男性の声から、ちょっと笑みが漏れたように感じた。
気合を入れて挑んだ朝の内勤。一瞬で、なんだかふわっと力が抜けてしまった。
 
関西らしい掴みから始まった電話は、20数名の職場研修で予約可能かについての問合せだった。営業担当は、ホテルの空き状況を調べ、その日の宿泊料金を算出し、食事、会議室などの仮押さえをして、見積書を作成する。お客様からのご依頼は、秋の行楽シーズンの旅行だったので、社内交渉して連絡すると一旦答えた。
 
「ありがとう。ほなよろしゅうお願いします~、小池さん」
「こちらこそ、ありがとうございます。小池さん」
 
オフィスには私しかいない。
くすっと、笑ってしまった。
 
早速、予約端末を操作していたら、ふと昔を思い出した。
「そういえば、■■トラベルの小池さんって、昔もいたなあ」
私が通っていた小学校は、修学旅行にとても力を入れていた。
6年生で3泊4日、新幹線で岡山駅を出発し長野まで遠征する。
小学生にしては長旅だ。
親元離れてちょっとたくましくなった姿を見せられる、学校の名物行事だった。とても濃い経験だった。
岡山駅で、教頭先生が担当の添乗員さんを紹介した。
整列していた生徒の何人かが、私のほうをくるっと見てニヤッと笑った。
「小池さん」の苗字は、6年生に私一人だけだった。
旅の道中、友達から「添乗員さん、お父さんじゃないの~」「お父さんと写真撮ってあげるよ」などと、ずっとネタにされていたことも、ありありとよみがえってきた。
4日間、初めて見るいろんな世界に連れて行ってくれた添乗員のおじさんは、私の記憶の片隅にしっかりと残っていた。
 
またくすっと笑って、仕事に戻った。
 
大人になって電話で話したほうの小池さんは、FAXでの回答を希望した。2021年の今はどうなっているかわからないが、当時、旅行会社では団体旅行の問合せも回答も、まだFAXが主流だった。
 
「小池さん」は定年後、勤務を継続し今は週3日、出社していると聞いた。
営業マンは、回答を返信後、フォローかたがた相手を訪問することが多い。
今回はもうひとつ、そわそわした目的を伴って、■■トラベル大阪支店を訪ねてみることにした。
 
いつまでたっても、初めての訪問は緊張する。
受付で「小池さん」をお願いした。
 
案内された応接に現れたのは、
ムーミンを思わせる、物腰柔らかな関西弁のやさしい「おっちゃん」だった。
「小池」と名乗り合い、関西で慣れてきた世間話をひと通り終えて、業務連絡を交わした。
 
さて。
深呼吸して切り出した。
「あのー、小池さん。ちょっとお伺いがありまして。昔、岡山支店にいらしたことはないですか?」
「え? あぁ、あるよ。40代の頃いてたわ。なんで?」
 
鼓動が速くなる。
私は身を乗り出す。
「え、それってもしかして……」
 
それからの話は、怒涛のようだった。
小池さんと私は、20年前のあの時へと、時空旅行をしていた。
 
初めて電話を受けたときは、少しも思わなかった。
日本が大きく揺れた2011年のあの日以来、西日本でも旅行需要が減っていた。
久しぶりの団体旅行の依頼がただただ、ありがたかった。
 
小さかった私の片隅にあった20年来の記憶が、大人になった私には、さらに深く、大きな想い出になった。
 
生きていると時々、見えないなにかの問いかけを、ふと感じることがある。
霊感とか、そういう感じではない。
もっとふつうの、「あれ、そういえば」と、ふと脳裏に浮かぶようなこと。
神様は時々、なにかの種みたいなものを、ひょいっと投げてくれるように私には思える。
 
その種は、その人の中の、どこかに留まる。
それをどうするかは、きっとその人次第。
 
心の中で。頭の中で。
片隅に眠らせていたり。
あたためたり、何かのきっかけで取りだしたり。
行動を起こして、育てたり。
 
種は、急な刺激で、急に芽吹くこともある。
 
小池さんとの間に起きた、20年分のタイムトラベルは、私の中に眠っていた他の種も起こしてくれた。
ふと気になったこと、それはいつか、大きな花を咲かせるかもしれない。
 
 
 
 
***
 
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2021-05-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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