メディアグランプリ

こんな憂鬱な日には


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:長谷川 大祐(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
「長谷川君は、もう少し視野を広げるといいよ」
 
「あの時は、一言言っとくべきだったね」
 
缶ビールを片手にほろ酔いの先輩達が自分に向けて、言葉を並べる。「いやいや、そんなこと痛いほどわかってるんで」と喉まで出かけた言葉を抑え込み、「そうですね」と何とか相槌を打つ。悪気の欠片もない正当なアドバイスだと思いたいが、否定したいような突き放したい衝動に駆られる。「もう分かったから放っておいてください」と言えたら楽になれるのだろうか。
 
明日の仕事が憂鬱だ。おまけに来週一週間は天気が悪いらしい。
こんな日には、あの場所へ行くしかない。
 
お気に入りの本または、まだ読んでいない本を数冊持ってバスに乗る。電車でも行けるが、個人的にはバスが好きだ。iphoneから流れ出る曲を聞きつつ、俯きながら窓の外に目を向ける。広々とした土地に飛行機が行き交う。
 
特に旅行に行くわけでも無いのに、空港に行く習性が身についたのは、社会人になってからだ。HSP傾向のある僕は、ある種の刺激が強い言葉を自分に向けて放たれると、言葉の整理をせずにいられない。相手の表情だとか会話の経緯だとか言葉の意味とかを反芻して飲み込む必要がある。それが一定期間のうちに何回か起こると、整理が追いつかず、暫く1人でいたくなる。自宅だと、気分が塞ぎがちになる。近所のカフェでは長居できない。そんなこんなで辿り着いた場所が空港だったのだ。広々とした空間であり、カフェやごはん屋さんがあり、Wi-Fiもある。読書や作業に疲れたら散歩もできるので気分転換に最高の施設だと思っている。
 
バスを降りて、まず最初に向かうのは出発ロビー付近のカフェだ。「飛行機が飛ぶまで、まだ時間があるな。そうだ、コーヒーでも飲もう」みたいな顔をして注文すると、まるで自分じゃない誰かになった気持ちになる。注文したコーヒーを受け取り、席に着き、本を取り出す。最近本を読めてなかった日々の憂いを思い出す。ひとしきり楽しみ、文字を追うのに疲れてきたら、あたりを散歩する。スーツケースを引きずる家族連れを見ると「この土日はどこに行ったのだろうか」とか思い、スーツを着たビシッとした体躯の良い男性を見ると「仕事は何をしているのだろうか」と思う。そして、いつも「世の中色んな人いるんだなぁ」と当たり前のことを思う。程よく歩いたら、手頃なベンチに座り、鞄からノートを取り出す。
明日の憂鬱な仕事を緩和させる為の準備だ。
 
昨日の会話を思い出す。先輩達のあの言葉は、まず真摯に受け取らねばならない。昨日の先輩家で行われた飲み会より遡って数日。自分が任されていた案件で、良かれと思って対応した内容がお客さんから指摘を受けてしまったのだ。損失には至らず、ミスとしては軽度であったので部署の皆からは「まぁまぁ、次から気を付けよう」で済んだが、個人的には許せない。そつなくこなしたと思っていた自分が恥ずかしい。最近、任される業務も増えてきていい気になっていたが、全然甘ちゃんだ。比較的興味が無い業務ではあったが、そんなのは言い訳だ。当時、先輩達含め色んな人から貰ったが聞き捨ていた言葉をノートに殴り書いていく。そのようにして、最近散らかっていた気持ちを整理する。先輩達は、敵では無く味方だ。何なら部署の皆も味方だ。やらかしたことで居心地悪いと思っていた場所が、自分の味方がいる恵まれた場所へと変わっていく。
よし、これなら、またやっていけそうだ。
 
展望デッキから、これから飛び立つであろう飛行機を眺める。
僕は、飛行機に乗るのが好きだ。特に、離陸前に一気に加速していくあの高揚感。実際に機体と地面が離れた時の感動。周りの友人にこの魅力を伝えても「当たり前じゃん」と一蹴されてしまうが、僕はこの先もずっと、子供のように楽しんでいるのだろうなと思う。近頃は飛行機に乗れていないが、ゆくゆくは今日のように何となく空港に来て、何となくその場でチケットを買い、思いつきで旅行ができたら最高だ。そういえば、長崎に転勤になったあいつは元気にしているのだろうか。最近連絡を取っていなかったし、後で連絡してみよう。
5月といえど、まだ夜の風は冷たい。自分の理想と長崎の友人に思いを馳せつつ館内へ戻る。「さっき飛行機から降りて、これから帰りますよ」みたいな、旅行をした気分でエスカレーターを下る。
 
バス停がある到着ロビーを目指しながら、ふと思う。これは、金魚の水槽掃除だと。コケやらバクテリアで汚れきった水を綺麗な水に変えてくれる。自分にとっての空港はそんな施設だと思った。デッキから見える景色が汚れたフィルターを交換してくれる。いや待て、誰が水槽だ。自分を水槽だと思う人がいるのだろうか。だが、空港に来る時はこんなくだらないこと考える余裕は無かったし、まぁいいか。
 
バス停に着いたと同時に来たバスに乗り込み、イヤホンを耳につける。行きのバスでは、失恋したばっかりのような暗い曲を聞いていたことを思い出し、一番好きなアーティストのアップテンポな曲に切り替える。
 
 
 
 
***

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2021-05-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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