矯正箸でも直らなかった持ち方を変えた箸職人の言葉
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記事:村人F(ライティング・ゼミ超通信コース)
僕は箸の持ち方がとにかく汚かった。
X字にクロスしたような形で持って、ハサミの要領で食べ物を掴む。
こんな感じの持ち方を社会人になっても続けていた。
その異様さは結構ひどかったらしく、両親には食事の度に「箸をちゃんと持ちなさい」と注意されていた。それどころか大学時代にはフィリピンから来た留学生にすら、「君の箸の持ち方は独特だね~」とツッコまれるレベルだった。
でも僕も努力していなかったわけではない。
箸の持ち方を直すため、いろいろなことをしたのである。
例えば、某通販サイトで1000円くらいする、持ち方矯正箸を使っていた。
その矯正箸は正しい持ち方になるよう持ち手にくぼみがついていて、そこに指を合わせれば自然に綺麗になるという触れ込みだった。
それでも全然直る気配がなかった。
ただ使いにくい箸を2年間くらい使って終わっていた。
こんな状況だったから僕は箸の持ち方について半ばあきらめていた。
現代は多様性の時代である。
だから箸の持ち方だって人それぞれでいいじゃない!
そんな開き直りすらあったかもしれない。
しかし、その箸の持ち方を変える運命の出会いが発生した。
それは、とある百貨店の箸特集コーナーであった。
なんでも福井の職人が作った箸らしく、どんなものでも掴んで離さないグリップ力に定評のあるとのことだった。
その中で、実際に箸を作っている職人さんが販売員を勤めていたのである。
そして、彼は言った。
「子どもの箸の持ち方が汚いのは、箸が悪いんですよ」
箸が悪い。
これまで考えたことのなかった視点だった。
箸の持ち方はマナーの問題であり、箸のせいにするのは何事かと、そんなイメージを持っていたからである。
その言葉を耳にした僕は、お試し用の箸を使って、やってみなさいと言わんばかりに置かれた水の中のコンニャクを掴んでみたのである。
掴めた。普通の箸だったらヌルッとすり抜けたのが、しっかりとグリップしている。
これは想定通りだったから、さほど感動するところではなかった。
もっと驚いたのは、その持ち方だった。
いわゆる教科書にある持ち方になっちゃったのである。
矯正箸でも全然直らなかったクセの強い持ち方が、そのコンニャクを掴むときにはマナー講師も絶賛するような感じになっていたのである。
正直ひっくり返ってしまった。
そして予感した。
「この箸ならば、僕の運命を変えるかもしれない」と。
ということで僕は早速4000円くらいするその箸を購入したのである。
ついでに母の日が近かったので、箸の持ち方をずっと気にしてくれた両親に夫婦箸も買ってあげた。
自宅で使ってみる。
余裕だ。
どうやったらこの方法で掴めんねんって思っていたトンカツがスルッと持てる。
それどころか、割り箸専門だと思っていたカップラーメンも余裕である。
テレビなんかでミニゲーム化している大豆掴みも楽ちんだ。
楽しい、楽しいぞ。
僕は無双状態でその箸と共にいろいろ食べまくった。
そんなことをしているうちに、割り箸でも正しい持ち方でラーメンを食えるようになっていた。
あの箸職人が言ったとおり、矯正箸でも直らなかった持ち方が、箸を変えることで見事に改善したのである。
そして、この経験から気付いたことがあった。
正しい持ち方が、なぜ正しいとされているのかということである。
最近は就活やら何やらで、やたらとマナーを正しくしようという言葉を聞く時代である。
箸もそうだが、服の着方、テーブルマナーだの様々な正しいやり方に溢れている。
しかし、なんのために守るのかということについては、意外と考えていなかったように思う。
だが、今回の箸の持ち方で私は悟った。
正しい持ち方は、最も効率的に作業のできるフォームであると。
実際に箸を正しく持ってみると、こっちの方がすんなり掴めるのである。
そして、試しに昔のクレイジーな持ち方でやってみると、ものすごく疲れるのである。
このように、マナーが正しいと呼ばれるようになった理由には、やりやすい方法を突き詰めたから、という場合もあるのだ。
こう考えると箸の持ち方の汚い理由が、箸にあるのは妥当なことと言える。
最も持ちやすい方法ができないということは、その箸が正しい持ち方に対応していない可能性もあるのだ。
そして、正しい持ち方を試してみても全然掴めない。
このような失敗体験を積み重ねることで、独特な箸の持ち方が生まれていくのである。
そのため、箸の持ち方にコンプレックスのある人は、グリップ力に定評のある高級箸を買うことをおすすめする。
マナーには人柄が出ると言われる。
それゆえ守れていない人は蔑まれ、コンプレックスの原因になることが多い。
子どもに対するときも、悪いのはその子がちゃんと意識していないからだと思いがちになるであろう。
しかし箸の持ち方のように、努力を重ねても直らないことが結構あるのだ。
一生懸命やっているのに上手くできない。こういうパターンも存在するのだ。
この場合は、ぜひ使っている道具に疑いの目を向けて欲しい。
正しい持ち方ができない理由には、正しくない道具を使っていることも十分に考えられるのである。
そして、正しい道具も庶民に手の届かない高級品というわけではない。
今回の箸ならば、1500円程度で購入できる。
決して手の届かない額ではない。
そして人生全体を考えると、この投資で箸を正しく持てるというのは、大変コスパのよい買い物と言えるのではないか。
「箸の持ち方が悪いのは、箸のせい」
こう言い切った箸職人の方にはもはや足を向けて眠ることはできない。
彼のおかげで上司にも褒められる箸の持ち方が身につき、マナーの本質についても考えることができた。
皆さまも箸特集を見かけたら、ぜひそこでコンニャク掴んで欲しい。
道具の素晴らしさと、正しい持ち方の快適さにきっと驚くはずである。
ぜひお試しあれ。
***
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