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 逆上がりは一生できないとあきらめていた


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記事:蔵本貴文(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
「はぁ、僕は一生、逆上がりができないんだなぁ」
「級」という欄に斜線がひかれたスポーツテストの結果用紙を見ながらため息をついた。
 
小学校6年生、つまり小学校最後のスポーツテストも逆上がりができず、結局5級も取ることができずに終わってしまった。
 
当時、小学生のスポーツテストには「連続逆上がり」という種目があった。
確か10回を超えれば満点の5点、1回もできないと0点である。
そして、スポーツテストは級ごとに最低点があった。最低の5級でも最低点は1点、つまり0点が1種目でもあると級はとれない。つまり逆上がりができないと「級外」という極めて不名誉な判定となるわけだ。
 
なんとか級を取るために、逆上がりができるようになろうと少しは頑張ったのだが……。やっぱりダメだった。
 
4年生くらいまでは、体育の鉄棒の時間、逆上がりができない友達は結構いた。しかし、高学年になるとほんの少数派になってしまう。しかも、昼休みに逆上がりの練習をしていると、1年生とか2年生でもやすやすと逆上がりができる子がいる。
そんな中で、明らかに体格の良い僕が、逆上がりを失敗しているのは恥ずかしい。小学生ながらも、激しくプライドが傷つけられる。
 
実際、5年生の時に、3学年下の友達の妹に「あれっ、逆上がりできないの?」と言われて以来、足は鉄棒から遠ざかってしまっていた。
 
しかし、6年になって、何とか逆上がりができるようになりたいと、放課後とかに少し頑張ってみたのだけど、やっぱりダメだった。
 
でも、良いのだ。中学に進めば体育で鉄棒の授業はない。僕はもう一生、鉄棒で逆上がりをすることなんてないだろう。最後までできなかったのは残念だが、もう過去のこと。これからは逆上がりができなくても一生困る事なんてないんだ。
 
ということで、中学に入ると全く鉄棒を触ることも無くなった。あんな忌々しい記憶捨ててやれ。というか、意識的に捨てなくても、消えていってくれた。
 
しかし、良いのか悪いのか、私は逆上がりから逃げることはできなかったのだ。
 
運動神経はからっきしダメだが、勉強は多少できたので、地域で一番の進学校に入ることができた。「進学校の体育なんて、受験勉強の気分転換みたいなものだろう」そう思っていた自分の耳を疑うような言葉を聞く。
 
「次回の授業は『鉄棒』。鉄棒の前に集合しておくように」
軍隊の隊長のような、野球部の監督もしている体育教師がそう言った。
「何だって、高校の体育で鉄棒をやるというのか?」
 
次の体育の授業は本当に鉄棒だった。
鉄棒の前に列を作って、教師が「前回り」と叫ぶ。
みんな何でもなかったかのように回る。これは僕でもできる。
 
そして、次の無情な言葉「逆上がり」。
みんなは前回りと同じように簡単に回っていく。しかし、ある人のところでそれが止まる。5回くらいチャレンジするが、結局できない。教師がやめるように指示する。
 
「おお、仲間がいるのか」
少しほっとした私にも順番が回ってきた。あの6年生のスポーツテストから、鉄棒なんて触っていない。できるわけがない。5回くらいチャレンジして終わる。
 
結局、50人ほどの男子生徒の内、僕を含めて逆上がりができない者は3人だった。
まあ、1人じゃなくて良かった。本当に。
 
しかし、授業が終わった後に教師はその3人を集めた。そしてこう言うのだ。
「逆上がりができないと、体育の単位をやるわけにはいかん。留年になるぞ。放課後に残って練習するように」
 
次の日から、逆上がりの補習が始まった。まさか高校になって、逆上がりに苦しめられるとは。1週間ほど続いたが、3人ともできる気配はない。
「そりゃ、小学校の時、あれだけやってもダメだったんだから、ダメなんだよ。3人とも同じなんだろ」
 
しかし、奇跡がおきる。そのうち1人が逆上がりに成功したのだ。
はっきりいって不格好ではある。なんとか鉄棒に足が絡みついて、なんとか回ってくるといった感じだ。しかし、成功したことには変わりない。
僕は喜ばしいやら、妬ましいやらの気持ちで……。いや、正直に言おう。妬ましいが100%で、喜んでやるような気持ちは全く無かった。
 
僕はそれからも毎日補習だったが、結局逆上がりはできなかった。しばらくして、テスト期間に入り、鉄棒の補習は終わってしまった。
「単位をやらない」というのは、ただの脅しだろう。体育で留年した人の話なんて聞いたことがない。また、逆上がりから逃げ切ることができたのか?
 
しかし、その時は自分の中で、少し炎のようなものが芽生えた。一緒に練習してた奴ができるようになったのだ。もしかしたら僕も。
 
それから、深夜の公園に、勉強の気分転換といって逆上がりの練習をしにいくことにした。
そこで、考えていたのは、逆上がりに成功した奴の姿だ。確かに不格好だが回れていた。僕と彼では何が違うのだろうか?
 
色々、試しながら考えてみると、答えが見えてきた。自分は太ももが鉄棒の位置まで、上がっていなかったのだ。
「何が悪いのだろうか? ああ腕だ。もしかしたら、足の力だけでなく、腕の力を使えば上手くいくのではないだろうか」
 
そうして、腕を引くことを意識して、3回ほど。太ももが鉄棒の高さまで上がるようになった。
「あと少しだ」
 
そして、ついに太ももが鉄棒に引っかかった。ここからは回るだけだ。
「ついにできた」
 
感動の瞬間だった。小学校で最後のスポーツテストを終えた時、もう逆上がりは一生できないものだと思っていた。しかし、高校生になってできるようになったのだ。
実際のところ、結局大人でも逆上がりができない、という人は結構いるのではないかと思う。しかし、16才になってできるようになったのは私くらいのものだろう。
 
私がなぜ逆上がりができなかったか? それは腕の意識がなかったからだ。
小学校の時、先生も友達も「強く足をけり上げて」だけで、腕を使って体を引き上げるなんて、誰も教えてくれなかった。
 
恐らく普通の人なら、そんなの身体感覚でわかるのだろう。
運動神経が鈍い僕は、頭で考えないとわからないけど。
まあ、最終的にできるようになったから良いのだ。
 
苦労して手に入れた果実ほど美味しい。これほど逆上がりができるだけで喜べた人間は私くらいのものだろう。
 
 
 
 
***

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2021-05-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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