メディアグランプリ

私と虫のアンバランスな共存生活


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:今村真緒(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
時々、どうしようもなく焦るときがある。
電車に乗り遅れるとか、冷蔵庫にあるはずの調味料が切れていたことを気づかずに、フライパンに火をつけてしまったとか、そういった類の、一瞬フッと首の後ろが寒くなるようなことではない。
 
胃の中に、毛足の長い虫が這い回っているような、うっ血しているその場所を、髪の毛のようなか細い足にピンポイントで突かれるような、何とも言えないゾワゾワした感じなのだ。
 
息苦しいような、切ないような。
なぜだか、泣きたくなるような感情がセットになってやってくる。
忘れた頃にふとやってくるこの定期便は、いつも私の心に波紋を残す。
 
満たされることのないこの想いが、虚しいのだ。
自分をどんなに納得させようとしても、じわじわと下から這い上がってくるのだ。
 
ある時は、キラキラした目で語る、青春真っただ中の娘の姿に。
またある時は、アイドルのコンサートのバックステージでの真剣な姿を見たときに。
そして、第一線で活躍している知人の充実した素敵な姿をインスタで見る度に。
 
羨ましかった。何かに真摯に懸ける姿は、眩しかった。そんな風に、私が持っていないものを、まざまざと見せつけられる度に、再び虫が這いまわる。
 
ああ。一体私は何をやっているんだろう。何かが、絶対的に足りていない。これだと胸を張って言えるものがない。
何もかもが、中途半端な気がしていた。お尻がゾワゾワして、落ち着かない。
 
日々、平穏に暮らしている。幸せなことだ。
けれど、何かを求めて渇望する気持ちは治まらず、歳を重ねるごとに膨れ上がっていく。
いまだに、何者でもない。自分の色を見つけられていない。真摯に向き合っているものはあるのだろうか。
 
人生の折り返し地点が目の前だと言うのに、何も成し遂げられずに終わるのではないか? こんな想いを抱えること自体、成熟できていない自分を見せつけられているようで気落ちする。
 
時間がない。若い頃のように、時間が無限には感じられなくなった。限りある時間の中で、自分には一体何ができるというのだろう。
早く見つけなければ、あっという間に時は過ぎ、後悔だけが残るのではないか?
 
どうしようもない焦りだけが、細かい棘のように引っかかって抜けない。
そんなこと思わなくてもいいじゃない。楽しく静かに生きられればいいじゃない。
刺さった棘を抜いて、大人げないとなだめようとするけれど、その傷口はなかったことにはならなくて色素沈着を起こし、いつまでも忘れさせてはくれないのだ。
 
自分の輪郭が、ぼんやりとしていて掴めなかった。
自分とは何か? 自分の独自性とは?
そんなことを思いつつ、いろんなことに影響を受け、どっち付かずで迷いながら進んできた。
 
人生も半ばを過ぎようとしているのに、いまだにしっかりとしたアイデンティティーは持ち合わせていないし、どう生きるのが自分に適しているかも不明だ。あっちに行ってはぶつかり、こっちではないと引き返す日々だ。
 
自分が情けなくもあるが、裏を返せば、ひょっとして、まだどうにでもできるということかもしれない。
そんな一縷の望みがあるせいか、まだ私の中の黒い虫は消えてはいない。這いまわりうごめき続け、私の急所をチクリと刺し続ける。
その刺激に促され、「まだできることがあるかもしれない。諦めるのは早い」と思い続けてしまうのだ。
 
永遠に、これでいいと思える日はないのかもしれない。不安定な感情に振り回されてばかりかもしれない。「足るを知ること」が必要なのかもしれない。いい年をした大人が、何を言っているんだと思われるかもしれない。
それでも、私は、このどうにもならない衝動を抑えることができない。幼い子供が欲しいものを求めて駄々をこねるように、諦められない。
 
私にも、「これは」というものがあったならば。
真剣に打ち込める「何か」があったならば。
もしも、違う世界が開けたならば。
「たられば」で夢見る世界には、理想の自分がいるのだろうか?
 
自分が描く世界から戻ってくると、いつもの変わらない自分がいる。
変わりたかった。恐れずに、何かに飛び込んでいきたかった。初めから無理なんて思いたくなかった。
ちょっとずつでも変化したいと願い、恐る恐る踏み出して、失敗して、へこんで。でも、何とか奮い立ちたくて。
望むことを止めない限り、堂々巡りのサイクルには終わりがない。
 
やり切れた実感が足りないから、私の中の虫が騒ぎ出すのかもしれない。
けれど、いつの日か、螺旋階段から抜け出せる日が来るかもしれない。
どんなことでもいいから、自分の拠り所となるものが欲しいのだ。確証のないものを求め続けるのは辛い。それなのに、いつか満足できる達成感を夢見る挑戦者であり続けたい。虫につつかれるのは落ち着かないくせに、進むことを止めるのは怖いのだ。
我ながら因果な性分だ。けれど、求めることを止めるのは、自分を諦めることになると思うから、きっとこれからも虫と共存する道を選ぶのだ。
 
 
 
 
***

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2021-05-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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