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一本だけじゃ建てられないと気付いた話


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:西片 あさひ(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
「そんなに出かけて大丈夫なの?」
 
周りの人から、よくこんなことを言われる。
私は旅行や食べ歩きなど、一人で出かけることが多い。
結婚して1年弱。
新婚間もないんだから、奥さんが寂しがらないのか。
そう心配してくれての発言なのだろう。
その言葉に対して、妻も同じように家を空けることありますよ。
と言うと、まるで狐につままれたような顔をされる。
 
端から見ると、さぞかし不思議な行動をしているように見えるのだろう。
奥さんが大事じゃないのかと。
私がこんな行動をするようになったのは、新入社員当時の出来事が関係している。
 
約10年前。
大学を卒業して就職した私。
楽しい大学生活の最後に待っていた、卒業論文の執筆、そして就職活動。
そのどちらも終わらせることができ、私は開放感に満ちていた。
それに就職先は、旅行で訪れたのがきっかけで移住したくなった場所にある企業。
 
住みたかった場所に住めるんだ、これからが楽しみだな。
それに、どんな人に出会えるんだろう。
 
ワクワクが止まらなかった。
 
就職した会社には、私と同じタイミングで入社したメンバーが70人くらいいた。
同期のみんなは楽しい人達ばかりで、遠くから移住してきた私に対してもとてもよくしてくれた。
その中でも、特に一人の女性と仲良くなった。
きっかけは、新入社員向け研修の打ち上げで隣の席になったこと。
お互いに東京の大学に行っていたこと、そしてマンガが趣味であることが共通して意気投合。
はじめはマンガの貸し借り程度だったが、だんだんと二人で遊びに行くことが増えていった。
自然と好意が深まっていったことを今でもよく覚えている。
数ヶ月後には、その女性と付き合うことになった。
 
彼女とはいろいろなところに行った。
ショッピングモール、近くの公園、東京ディズニーランド……。
挙げればキリがない。
 
毎日が楽しくて仕方がなかった。
他に何もいらない。このままこの時間が続けばいいと思った。
 
そんなある日のことである。
彼女との約束で早く仕事が終わった方が相手を待ち、一緒に帰るのが日課になっていた。
この日は私が早く仕事を終えたので、彼女が職場から出てくるのを待っていた。
いつもなら待ち始めてから大体20分以内には合流できるので、今回もそのくらいで来るだろう。
そう思っていた。
 
しかし、30分経っても一時間経っても彼女は現れない。
もう帰っちゃおうかな。
そんな気持ちが頭をよぎったが、根気よく彼女を待ち続けた。
 
一時間半くらい経って、遠くに彼女を発見した。
なんだかとても疲れた顔をしていたが、私に気付くと駆け足で向かってきた。
「ずっと待っててくれたんだね。本当に嬉しいよ!」
笑顔で、私にそう話してくれた彼女の様子は今でもよく覚えている。
 
なんてかわいいんだ。
この笑顔が見られるなら、私は彼女のためなら何でもしよう。
そう心に誓った。
しかし、この誓いがあんな結果をもたらすとは思いもしなかった。
 
それからは、文字通り彼女に尽くすようになった。
一緒に出かける時は、ほとんど車の運転を担当した。
彼女との予定が入りそうな時は、他の予定を削ってでも優先した。
彼女と少しでも一緒にいたいから、飲み会の送り迎えは欠かさず行なった。
 
「西片くんは彼女のためにそんなに尽くせるなんて本当にすごいね」
同期の友人からは、よくこんなことを言われた。
内心誇らしかった。
周りから評価される。
それに、大好きな彼女と一緒にいられる。
何より彼女に喜んでもらえる。
そう信じて疑わなかったからだ。
 
しかし、いつのころか彼女の様子が違うことに気付いた。
どこか表情がさえないのだ。
あれだけ笑顔を見せてくれたのに、それが少なくなってきたのだ。
 
「どうしたの?」
「なにかあったの?」
 
彼女に理由を聞いたが、何を言っても、「なんでもない」の一点張り。
だんだんとイライラすることが増えるようになった。
自然と喧嘩することも多くなった。
 
もしかして、「尽くすこと」が足りていないかとも思い、さらに彼女の予定を優先するようになった。
自分の話を差し置いて彼女の話を聞くようにした。
それでも、彼女の顔は晴れなかった。
 
こんなにも尽くしているのに、何がいけないの。
いったい何が不満なの。
 
彼女に、そんな気持ちをぶつけるようになった。
でも、彼女は落ち込むばかり。特に理由を話してくれなかった。
 
そんな日々がしばらく続いた冬の日。
彼女は私に告げた。
「別れてください」と。
 
今までずっと聞きたかった彼女の気持ち。
やっと聞くことができてほっとした反面、納得できなかった。
 
「今までいろいろやってきたのになんで?」
「悪いところがあったら直すから」
しつこく食い下がった自分の姿が今でも忘れられない。
 
彼女はため息をついて、冷めた声で言った。
「私のためというのは嬉しかったよ。でも、重すぎるんだよね」
 
こうして、彼女との日々は終わりを告げた。
 
訳が分からなかった。
こんなに彼女のことを思っているのに。
あんなにも尽くしたのに。
一体何がいけなかったの?
 
憔悴した私を見かねた友人が、飲みに誘ってくれた。
吐き出すように、自分の思いを語ったら、友人からこんな言葉が返ってきた。
 
「たしかに、おまえは頑張っていたと思う」
「でも聞いていると、なんだか彼女に寄りかかっているように感じるな」
 
その言葉を聞いてはっとした。
今まで私は彼女に尽くしていると思っていた。
ずっと彼女を支えているのだと思っていた。
しかし、実際は違っていた。
支えていると思い込んで、逆に彼女に依存しているだけだったんだ。
 
彼女に尽くすことだけが自分の生きる指針だった。
大きな柱だった。
しかし、それじゃダメなのだ。
 
人間関係を築くことは建物を建てるようなものだ。
いくら大きな柱があっても、一個だけでは倒れてしまう。
柱は何個もないと丈夫な建物は建たないのだ。
 
そのことに気付いてから、私は考え方を変えた。
友人と積極的に遊びに行くようになった。
好きだった一人での旅行や食べ歩きを再びするようになった。
 
するとどうだろう。
気持ちがだんだんと晴れやかになっていくのが分かった。
人生、こんな楽しみ方があったのかと気付いた。
 
あれから10年以上が経った。
縁あって今の奥さんと出会い、楽しい生活を送っている。
しかし一方で、友人と遊ぶことも、一人の外出も続けている。
 
なんで一緒にいないんですか。奥さんが大事じゃないんですか。
そんな風に思う人も多いだろう。
 
でも、私は言いたい。
もちろん、奥さんは大事。
大事だから、他の生きがいを、柱を持っているんだ。
お互いに何個も柱を持っていれば、築いた人間関係という建物は崩れない。
大事な人といつまでも楽しく過ごせるのだ。
 
そう思えてならない。
 
 
 
 
***

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2021-05-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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