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鏡の中の私へ

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:相澤 めぐる(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「シャンプーをしませんか?」
25、6年くらい前だろうか。こういう歌がバックに流れるシャンプーのテレビCMがあった。美容院とおぼしき場所で、髪を洗ってもらう。ほんわかとした癒しの空間。あのコマーシャルが大好きだった。
 
その影響かどうかわからないけれど、美容院が好きだ。
髪を切ってもらうことがもちろん第一の目的なのだけれど、ホッと一息つきたい時、リラックスしたい時にも美容院へ行く。10年くらい前からカットとともにカラーリング(というか、白髪染め)もしてもらうようになり、美容院で過ごす時間が長くなった頃からその傾向がより強くなったと思う。
 
行きつけの美容院は、古民家をリノベしたおしゃれな空間で、同年代の女性がひとりでやっている。白い漆喰風の壁に自然のままの風合いの板張りの床。インテリアも白とブラウンで統一されていて、趣味がいい。カットの腕も信頼しているし、置いてある雑誌もシャンプーの香りも全部私の好み。店主とは趣味嗜好も似ているので、おしゃべりにも花が咲く。
 
コロナ禍の今は別として、私はよく友人とランチをする。とても楽しいし、盛り上がるのだけれど、その後どっと疲れることも少なくなかった。知らず知らずのうちに気を使っているのか。それなのに、その美容院へ行った後には疲れを感じることはなかった。長い間、それはお気に入りの香りのシャンプーや落ち着いた店のインテリアに癒されているからだと思っていた。
 
昨日、美容院へ行った時に、そういう話になった。
 
「ここで髪を整えてもらった後って、すごく癒されるし気分がスッキリするんですよ。香りですかね?それとも空間??」
 
店主はクスクスと笑いながら、こう言った。
 
「鏡マジックのせいもあると思うの」
 
鏡マジック? なんだ、それ??
 
店主がおっしゃるには、美容院では店主も客も正面の鏡の方を向いている。そして、その鏡に映るそれぞれの姿を見ながら会話をする。その独特な距離感が一種の心地よさを生み出すのではないかと言うのだ。
 
「そしてね、それだけじゃなくて、鏡の中の自分に対しても話しかけているような錯覚を起こすんだと思うの」
 
考えもしなかった。でも、一理あると思う。
食事をする時でも、向かい合って座るのもいいけれど、カウンター席で隣り合わせに座った時の方が話しやすかったりする。なんというか、肩に力が入り過ぎないというか。そうか、鏡を挟むことによって、絶妙な距離が逆に心地良さを感じさせるということか。
 
そして、もう一つの自分への語りかけ。
 
そうか。そういうことだったのか。
 
2年前に私は大病をした。
手術の後のダメージは想像以上で、思ったように身体が動かせない。いや、たぶん、見た目は病気前と変わらない。顔色も悪くないし、家事もパートもこなせる。でも、ふとした拍子に感じる鈍痛や、ちょっと急いで動いた時に起こる動悸や息切れ。やっぱり私の身体は病気前には戻らないんだと思った時に感じる将来への不安。全部がしんどかった。苦しかった。病気になるとはこういうことかと思った。身体の不調だけではない。転移・再発に対する恐怖。人生は永遠ではないと突然突きつけられた現実。
 
そんなイライラを全て夫にぶつけた。
 
今なら、わかる。私は怒りたいから怒っていたのだ。不安な気持ちをどこかへぶつけたかったのだ。怖くて、どうしようもなかったのだ。
 
治療がひと段落して、体調も気持ちも徐々に落ち着いてきた半年くらい前から、私は、自分を見つめ直す作業に取り組み始めた。最初はそれが目的ではなかったけれど、自分のやりたいことをやりたいようにやっているうちに、自然に流れ着いた。このライティング・ゼミもその一つで、こうして言語化することで、自分でも気づかなかった思いや考えに気付かされることが多々ある。それはそれで、癒されるのだ。
 
闘病中も、あのしんどさを負の感情として夫にぶつけるのではなく、つらい、不安だと正直な気持ちを伝えるべきだったのだと今になってやっと気づいた。でも、あの時は、精一杯「私は大丈夫」と強がっていて、自分でもわからなかった。そして、夫に当たれば当たるほど、私自身も傷ついていった。
 
 
 
美容院の鏡の中の自分への語りかけ。意図せずやっていたことだけれど、きっとそれには自己暗示的な効果もあるだろうし、話したことに対する納得感も違うのだと思う。口に出して話すことそのものも、自分の気持ちの言語化だ。カウンセリングも然り。
 
「はい、こんな感じでどうですか?」
きれいに染まって、スッキリと整えられた髪。それを見て、私は大きく頷く。
 
 
 
 
***

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

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2021-06-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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