メディアグランプリ

「らしさ」がなければ何が残るのか?


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記事:樋口 紀子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
私は、23年前に子供を産んだ。
「おめでとうございます! かわいい女の子ですよ」
女の子だった。おちんちんはなかったから。
そのとたん、ピンクの服が着せられ、出産のお祝いで何もかもがピンクに彩られた。
生まれるまでは、もうすぐ初孫が抱ける嬉しさで、前のめり気味なじいちゃんとばあちゃんによって、男女どちらでもいいようにと黄色のベビーグッズが用意されていった。
「私は、生成りがいい」そうは言っても23年前には、そんなナチュラルなお色目のベビーグッズは、そうそう田舎の街中ではまだ売ってなかった。
生まれた子を抱いて家に戻ると、ピンクと黄色の、それはそれはパステルな子育てグッズに囲まれることになっていた。
 
ただ、この子はどうも何か主張があるような気がしてならない。
初めて顔を見た瞬間に思ったことは、「この子の歩む道の邪魔をしてはいけない」だったのだ。
産院ですでに「ガンコちゃん」とあだ名されるほど、激しい主張をしていたようだし、
その主張が何なのかはわからない。とにかく邪魔をしないことだけは、気をつけていた。
ただ、人間としての思いやりだったり、挨拶やお礼のマナーだったりは、きちんと身につくようには心がけてきた。
物心ついたころには、スカートを嫌がった。公園内を走り回り、そこかしこによじ登るのに邪魔だったからだ。別に穿かせる必要もないのでズボンにした。
プリキュアにも全く興味はなかったが、おジャ魔女どれみのアイコちゃんと、とっとこハム太郎だけはすごく興味を示した。戦隊モノは、別にどうでもいいらしい。
女の子っぽくはないけど、弟や近所の男の子と一緒でもない。これを邪魔しちゃいけないのかもしれない。そう思った。
そして、生き物がやたら飼いたいようだった。ダンゴムシ、カナヘビ、サワガニ。
名前をつけては、かご内の居住性を上げるために触りまくって、昇天させてしまい、
アイスクリームの棒で出来た墓が、団地の駐車場の車の後ろにいくつも並んでいった。
中学でセーラー服を着ることも嫌そうではあったが、クラブに入りほぼ体操服でいると納得したようだ。
とても女の子にはモテていたらしく、毎年バレンタインは弟が悔しがるくらいの大漁だった。
初孫かわいやのじいちゃんばあちゃんも、近所のおばさんたちも「年頃になって彼氏でもできれば、女の子らしくなるよ」と、淡い期待をもっていたようだが、残念ながら違った。
彼氏ができても「女らしく」はならなかったのだ。デートに行ってもどちらが運転するかは、交代だったらしいし、浴衣をレンタルしたら、二人で男ものの浴衣でポーズをきめた写真を撮って飾っていた。得意料理を作りあい、男物の服を貸しあい、選びあう、それでいい彼氏もいたのだ。
それでもある日、私に泣いて告白してきた。どうも自分は女として生きられないようだと。
彼氏より女の子のほうが愛しいし、筋肉が欲しい、性転換したいとか言ってきた。
どうにも違和感がある。
振舞いが、男の独特のそれではないからだ。男というには、かなり無理があるのだ。女らしくしようとするのと同じように。
 
ここで、邪魔しないでおくという、私だけのルールを初めて破った。
本当に男として生きることが望みなのか? ただ生きづらさが、男になることで解消されると思っていないか? そこが知りたかった。
男でも女でもない魅力が、自分らしさの財産ではないのか? それは要らないものなのか? 自分の生まれてきた性を否定するしか生きられないのだろうか? 問うてみた。
「私は、キョンキョンみたいに産んでもらえなかった! と泣いたことはないぞ」
そう私が言ったときに目が覚めたそうだ。
ないものねだりをしているだけかもしれないと思ったそうだ。
男か女かどっちでもないし、どっちでもええのかもしれん。ただ、自分はこのままでええと思う。今は、スカートや化粧は要らない。好きな女の子がいる。それでいい。
そんな結論に至ったようだ。
 
ジェンダーレスが叫ばれて久しいが、世の中、特に日本には、まだまだ古い風習が残っている。ピンクのベビー服も、選ぶテレビ番組も、おもちゃも、セーラー服も。
だが、パステルカラーの日曜大工のおもちゃがあったりするそうだから、時代はちゃんと少しずつ進んでいるようだ。そうして、女らしい男らしいは、死語になっていくのだろう。
 
家庭での役割も、子育ても平等になってきていると聞くことが多くなった。
「ママしかダメ期」なんてものは、パパがさっさと諦めるからついただけの名前だと今は教えられるらしいから驚きだ。
あんなに生き物を育てることが好きだったうちの子も、いつかどんな形かは分からないけど、親になれるのかもしれない。
 
自分らしさは性別で決めなくていい。自分が好きになる人も心に従っていい。
ただそれは、いつも自分の心の声に蓋をせず、自分で決めないといけないということだ。
過去にお手本がない。
それは、昭和生まれの私たち世代のほうが苦手なことだ。
「らしさ」ばかりを指針にし、周りを見て、親世代を真似して無難に生きることを選び続け、令和の今頃になって自分らしさを探す迷子になっているのは、私たちのほうだ。
まだ遅くはないだろう。
自由を容認し、自分たちもまた自由を享受し挑戦していく。
そんな私たち世代の姿が、きっとエイジレスも作っていけるはずだから。
 
 
 
 
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2021-06-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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