一生痺れる足になったことで、どこまでも行ける自分になれた話
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:金澤 鮎香(ライティング・ゼミ朝コース)
「うーん頸椎椎間板ヘルニアですね。痛みが出てないのが不思議なくらいです」
脳神経外科の一室で先生は私のMRIを見ながら、今日の天気を答えるみたいに淡々とこう言った。はぁ……そうですか。なんだか自分のこととは思えなくて、私も能天気に返事をしたのだけは良く覚えている。
「基本的には、治らないですね。手術をしても痺れが取れるかは確約できません。手術をすればこれ以上悪化することは無いとは思いますが、必ず治る訳ではないです」
まじかよ。こんなに簡単に病気ってなるんだ。
まさか私が。
そんな気持ちでいっぱいだった。
首をボキボキならすのが癖だった。仕事内容が完全なるデスクワークかつデザイン関係を扱っていたこともあり肩と首のコリは酷いもので、毎日ボキボキならしていた。それだけが原因ではないかもしれないが、ある日首をボキっとならした時、右手に電流が走った。右手の薬指と小指が痺れるようになり、右足、左足と痺れは広がった。その時は疲れかな? と思って放置していたが、一週間、二週間経っても良くならない。取り合えず整形外科に行くと、レントゲンを見た先生が脳神経外科に行ってくださいと一言言った。
のうしんけいげか。
ドラマでしか聞かないようなワード。自分に到底、関係ないだろうなぁと思っていた単語。
世界一周した時も、インドの路上でごはんを食べた時も一回しかお腹を壊さなかった。一年に一回熱を出せば多い方。基本健康優良児だった私は、自分の身体には根拠のない自信があった。
まさか私が、そんな一生治らないかもしれないような病気になるなんて。
頸椎椎間板ヘルニアは、首の骨、頸椎の間にある椎間板がはみ出て神経を圧迫することで起きる病気だ。基本は手術しないと治らない。また飛び出たことで傷ついた神経が治ることも基本的にはない。
本当に、夢にも思っていなかった。
しかも、当時はまだ26歳。え、これからの何十年死ぬまで私、ずっと足痺れてんの。あまりにも現実味がなかった。嘘だろうと思った。痺れだけならまだいいのだが、筋肉痛のような足のだるさが常時あるため、それがしんどかった。お医者さん曰く、階段が上がれないとか、日常生活に支障があるなら手術した方がいいです。とのことだった。
階段が上がれない訳ではない。足は動く。ただしんどいだけである。別に歩けない訳でもない。ただ痺れていて、足がしんどいだけである。
しかも手術しても治る訳ではない。悪化しないだけだ。私は、本当に足が痛くなってやばいなと思うまでは手術しない、という選択肢を採った。
治るかどうかも分からない首の手術なんて怖すぎる……。というのが本音だった。賛否両論あると思うが、私はそれを選択した。
「頸椎椎間板ヘルニア 症状」
でググるのが習慣になった。経験談や症状をむさぼるように読んだ。私は痺れと足のだるさだったが、頭痛や痛みなど皆、結構苦しんでいた。案外同じ病気の人は沢山いるんだなぁと思った。グーグルに書いてある症状は他人事だけど、全部自分がなる可能性があると思ったら、入り込み過ぎて共感し過ぎて疑似体験しすぎて疲れ切った。ググるのはもう止めた。
こんなに簡単に病気ってなるんだなぁ。もう一回バックパックで世界一周したいし、行きたいところもやりたいことも沢山あるのに。
この足大丈夫なんかな……?
一ヶ月程鬱々としていた。あんまりその時のことは思い出したくない。
しかし、人間とはおかしなもので慣れるのである。何に? 痺れにだ。
なんせ、24時間ずっと痺れているのでなんだか最初からそういうものなのかと思えてきてしまったのである。そんなことは絶対にないのだけれど。
あまりにもずっと痺れているので、普通の状態を忘れてしまった。足はだるいけれど、痛い訳ではないのでまだ良かったなァと能天気に思えるようになった。
運動嫌いで、絶対やらないと思っていたランニングも、友達に誘われて
「まだ足が動くうちにやった方がいいなァ」
そう思って走ってみたら、意外と走れた。
中学生以来、登っていない登山に誘われて
「まだ足が動くうちにやった方がいいなァ」
そう思って登ってみたら、意外と登れた。
それから、誘われたこと、行きたいなと思ったところ、会いたいなと思った人。諸々。
全てに対して
「まだ足が動くうちにやった方がいいなァ」
と思うようになり、以前にもましてめちゃくちゃ活動的になった。
これまでの自分は、やりたいけれど迷ったことに対して「また今度でいいか」と思うことが多かった。今じゃなくてもまたタイミングがあるだろうし……とか、最近金欠だし……とか、仕事で疲れているし……とか。
やらない理由を探すのが得意だった。
でも「一生痺れている足」は絶好の「やる言い訳」になったのだった。
迷った時、不安な時、まぁ今回はいいかな、やめようかな……そう思ってしまう自分をこの「一生痺れている足」は鼓舞してくれる。
かもすればすぐ怠けてしまう、簡単な方へ簡単な方へ流れてしまう自分に「やる理由」を思い出させてくれるのだ。
大変なこともこれからあるかもしれないけれど、私はこの痺れている足が大好きだ。大好きになれた。
この足で、自分のやりたいことに忠実に、一歩一歩、歩いていきたい。
今はそう思っている。
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