メディアグランプリ

自殺は一瞬


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記事:梅林 美小希(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
様子がおかしい。そう気づいたときには手遅れだった。
 
母は呂律も回らず、自力で立つことすら叶わず、父に抱えられて病院へと運ばれた。私たちが選んだのは救急病院でも、町医者のところでもなく、私もともに通っている精神科だった。平日の昼間、無理を言って父に早く帰ってきてもらい、約一時間半ほど待ってようやく診察を受けられた。どうやら大量の睡眠薬を服用したらしい。私に処方されていた睡眠薬も全て飲み尽くしていた。200錠足らずの睡眠薬を大量摂取した母は、診察の時に、ほとんど聞き取れないような言葉で、わたしさえいなければ、と言っていた。
 
私は自分の行動を悔いた。きっかけを作ったのは、まさしく私であったからだ。
 
去年の10月、私はこの世を去ろうと思った。どうしようもなく自分が嫌になり、あるだけの睡眠薬や精神安定剤を酒で流し込んだ。いわゆる、オーバードーズ(OD)だ。せめて綺麗に死にたいと思い、私は布団に入った。胃の拒絶反応による吐き気、布団にしっかり包まっているのに止まらない震え、手足の末端の方からの痺れ、数十分に1回のペースで来る、まるで癲癇のような凄まじい痙攣、それに堪え続けた。全てはその後に訪れる安らかな死のため。どれほどの時間が経ったかわからないが、ようやく意識が薄れ始めた。これで死ねると、安心して私は目をつぶった。
 
しかし、目を開けたときに見えた景色は、数時間前に見た景色と全く同じものだった。枯れたと思った涙が流れた。なんで生きているんだと、自分を強く責めた。しかし、体はまだ薬の影響が抜けておらず、鉛のように重く、立ち上がることもまともに話すこともできなかった。私はひたすら時間が経つのを待った。すると、動かせなかった手足が徐々に動かせるようになっていた。目覚めて何時間か経ってから、ようやくベッドから出ようとすることができた。千鳥足のような状態でなんとかトイレに向かった。それを数時間おきに何度か繰り返していくうちに、まともに話すことができ、手足もいささか痺れはあるものの、メールを打てるくらいにはなっていた。
 
死ねなかった、その事実が私に重くのしかかってきた。そんな時に頼ったのが家族だった。家族に頼れただけ、私は良かったのだろう。私はその時のことをありのまま母に伝えていた。ほどなくして、私は一人暮らしをやめ、実家へと帰ることになった。
 
そして、母がODをする2時間ほど前、母と私は些細なことで険悪な空気になってしまった。本当に些細な喧嘩だった。だが、私はその時、感情に任せて母に今まで溜めてきた思いをメールでぶつけた。その後、文面上では和解が成立し、私は安堵しながら友人との飲みへと出かけて行った。帰ったのは日付が変わってからだった。母と連絡が取れなくなっていたのは21:00前くらいからだ。
 
家に帰ってみると、いつもならパジャマ姿で寝こけている母が私服のままだった。深い眠りについていたため、結局父と話して、そのまま起こすことはせずに私は自室で寝た。翌朝、なんだか嫌な予感がしていつもより少し早く目が覚めた。リビングへ向かってみると、変わらぬ姿のまま母は寝ていた。いつもなら4時半には起きているのに。この時までは母は疲れて寝ているのだと思った。そして父を見送り、寝不足だった私はもう一度寝ることにした。
 
2時間ほど経って目が覚めた時、リビングからがさごそと音がしていた。母が起きたのかと思い、様子を見に行くと、明らかにおかしい。落とした薬を集めては落とし、また拾おうとしては落としを繰り返す母がそこにはいた。話しかけても何を言っているのかわからない状態だ。私は瞬時にあの時の自分を思い出した。祖母が近くに住んでいるため、祖母を呼び、父にも連絡をした。祖母とともに様子を見たり、ごはんを用意し、父の帰りを待った。そして、母は診察の時にODをしたという旨を伝えていた。
 
私は後悔した。ODをしたことがある自分自身を、感情に任せて母にメールを送った自分を、和解できたと思い込んですぐに帰らなかった自分を、今までの母への行い全てを悔い、責め立てた。私があんなことをしなければこうはならなかった……。
 
今もその思いは消えない。意識が戻った母に、私のせいではないと言われても、それでも後悔が消えることはない。ODは自殺志願者にとっての最初の希望だ。他の自殺手段よりも手軽に行える。だが、その希望はもはやドラマの中だけの話だ。ODで死ねる人間なんて本当に限られている。それでもせずにはいられない。麻薬のように中毒性がある。軽いODを繰り返して、なんとか死にたい気持ちを抑えようとする人もいる。ODによって少しでも死に近づこうとして精神を保っている人もいるのだ。
 
だが、周りの人間はたまったものではない。悔いても悔いても悔やみきれない。これが遺された者の気持ちか。ああしていればこうしていればが入り乱れる。死を免れただけ本当に良かった。私も母も。
 
ODのように手軽な自殺手段は勢いで行われることが多い。一瞬の感情が希死念慮へといざなう。自殺が絶対悪だとは言わない。言えない。死にたくなる時は誰にだってある。行動に移したくなる時だってある。それは私も同じだったから、それを咎める資格は私にはない。だが、一瞬の感情だけで自殺を考えるのはやめてほしい。きっとそれ以上の後悔が自分にも周りにも訪れるからだ。
 
自分を好きになることは難しい。だが、嫌いという感情だけに苛まれるような状況からは大抵の場合逃れることができる。まずは、逃げることを考えてみてほしい。どうか自分の命を粗末なものだなんて思わないでほしい。自分にとってはそうかもしれないが、家族や周りの友人から見ると、とても大切な命なのだから。

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2018-06-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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