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メディアグランプリ

苦手を克服しない手編みマフラー


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:羽衣姫 香耶(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「お母さんって手編みのマフラー貰えたら嬉しい?」
 
娘がそう聞いてきたのは、娘が小学校5年生の時だった。
「そりゃあ嬉しいよ。手編みってなんか心がこもっている感じがするもん」
私がそう答えると、娘はちょっとはにかんで、そっと手編みのマフラーを差し出してきた。
マフラーというには寸足らずで、タオルぐらいの長さしかなかったし、クリスマスでも、私の誕生日でもないのだけれど、不器用な編み目から編み物という根気のいる作業が苦手なのに、作ってくれた娘の気持ちが見えて、とても嬉しかった。
「ありがとう! これあなたが選んだの?」
と喜んで何気に口に出た私の問いに、娘はとんでもない答えを言った。
 
「そんなわけないじゃん。あたし、編み物苦手だもん」
 
娘の言葉に私、しばしフリーズ。
解凍が始まった頃には私の頭の中には、はてなマークが飛び交っていた。
「ん? ちょっと待て。じゃあ、これは誰の手編み?」
「クラスの○○くん!」
元気に答える娘の言葉に、私の頭の中はさらにはてなマークが乱立する。
「んん!? 待て待て待て。なぜに○○くんが私にプレゼント?」
「え? あたしが頼んだから」
「え? あなたが頼んだの? ○○くんに?」
「そうだよ」
「何で?」
ここまで話が進んでも話の脈絡が理解できない私に対して、何でそんな当たり前のことを聞くんだ? と言いたそうな娘。
「何でって……お母さん、ずっと前に言ってたじゃん。『手編みのマフラーって作って貰えたらうれしいよね』って」
「ああ……うん。確かクリスマス前にそんな会話をしたような記憶があるなぁ。あるけど……それで、どうして○○くんが作る羽目に?」
「あのね! ○○くん、編み物がすごく上手なの! あたしはほら、編み物きらいだからさ。だから、○○くんに作ってくれない? って頼んだら、いいよ。って作ってくれたの」
と嬉しそうに語る娘を見ながら
「まさかの外注かーいっ!!」
と思わず突っ込みを入れたくなってしまった。
確かに、数か月前に『手編みって嬉しいよね』っていう話は娘とした。それは覚えている。だけどそれは『娘の手編み』という注釈がつくのであって、手編みであれば誰でも良いと言った覚えはないし、ましてやよそのお子さんが作った物を喜ぶ趣味もない。
 
「『手編みだから嬉しい』と言うのは、編み物が苦手なあなたが苦手を克服して、努力した賜物だから嬉しいのであって、よその子が編んだ手編みは嬉しくもくそもないわっ!」
ということをどう伝えたら良いのか考えあぐねている私をよそに
「○○くんっておうちの人に『男なのに編み物なんて』って言われてるんだって。しかも作った物がうちにいっぱいあって、困っちゃうんだって。
だから、あたしが『作って』ってお願いしたら、すごく喜んでたんだよ。他にも作ってくれるって言ってた! ねぇ、手編み嬉しい?」
と笑顔満面で語る娘がいた。
 
昭和の育ちの私は『頑張ることが美徳』であり『苦手は克服することが美徳』だった。
『努力してなんぼ』はある意味『努力しなければ何の意味もない』と同義だった。
そんな私の価値観で言えば、今、目の前にあるマフラーは「努力を嫌がる怠け者の発想」でしかないのだけれど、嬉しそうに語る娘からは、そんな印象はみじんも感じなかった。
それどころか、作ってくれた○○くんからしたら、おそらく人生初の発注で自分の趣味を理解し、更に必要としてくれる人がいてくれたことが分かって、とても嬉しかったのではなかろうか?
そして、娘はできない自分を責めることもなく、なかなか仕上がらない作品に苛立つこともなく、それどころか「自分って何てナイスは発案をしたんだろう!」とちょっと自分を褒めたりしちゃってるかもしれない。
そして、手編みをプレゼントされた母親もすごく喜んでいる(これは、娘の大いなる勘違いではあるのだが)
これっていわゆるWin-Winの関係どころか、三者がそれぞれに幸せなWin-Win-Winの関係と言えるのではないだろうか(とはいえ、三者目の私は娘の勘違いなのだけど)
 
時代は『苦手は克服』から『得意を伸ばす』に変容しているのかもしれないな。と娘を見て痛感した。
私が苦手なことは得意な誰かにおまかせ。そして誰かが苦手なことは、それが得意な私におまかせ。
編み物が得意な○○くんには編み物をおまかせ。誰が何を得意としているのかが分かる娘は「あの子にはこれを頼んで、この子にはこれを頼む」という人選をおまかせ。
努力と根性だけではできないことを一人で抱え込んで、アップアップする必要はなくて。それぞれがそれぞれの持ち味を生かすプロフェッショナル集団が出来上がれば、それはそれでひとつの正解なのではないか。と娘を見て勉強させられた。
 
とはいえ
「○○くんも喜ぶから、いっぱいマフラーしてね!」
と頼まれても、寸足らずのマフラーを愛用するのは難しく、ましてママ友に
「それ手編み? 娘ちゃんが作ったの?」
と聞かれて
「ううん。○○くん」
と答えては、説明がややこしくなるばかりなので、外に持ち出すことは叶わないだろうなと予想し苦笑いで答えておいた。
 
そんな私の苦笑いを気にも止めず、帰ってきた夫に
「ねぇねぇ! お父さんは手編みのマフラーって貰ったら嬉しい?」
と問う娘に対して
「そりゃあ嬉しいよ! 嬉しいに決まってるじゃないか!」
と鼻の下を伸ばしながら喜ぶ、新たな被害者(?)を目の当たりにし、娘に外注をあきらめさせるのが正しいのか否か、別の悩みができてしまった私なのであった。

***

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2018-06-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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