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メディアグランプリ

こんぶ茶が教えてくれた、おもてなしの流儀


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:高林忠正(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
百貨店に入社した私は、「気が利かないなぁ」としょっちゅう言われていました。
やることなすこと、すべてについてです。
特に相手に合わせることが得意ではありませんでした。
 
入社2年目になると店頭での販売から、外回りに変わりました。
VIPのお客さまや法人のお客さまのもとに営業する通称、「外商(がいしょう)」です。
ただし「気の利かなさ」は相変わらずでした。
 
お客さまを前にすると、何を話して良いかわからなくなってしまうのです。
お客さまのご自宅やオフィスで提案する場合でも、カバンから出した品を前に「いかがですか?」と言うだけでした。
 
その都度、一緒に外出した上司や先輩から「他に(言うことって)ないのか?」と言われました。
しかし、何を伝えればいいんだろう?と黙ってしまいがちでした。
 
そのくせ、行動は行き当たりばったりだったのです。
私の気まぐれな行動が、お客さまの逆鱗にふれてしまったことも1度や2度ではありませんでした。「どうしたらいいんだろぅ……」といつも悩んでいました。
 
そんな20代の私でしたが、ある日の外出が実は大きなヒントを与えてくれたのです。
 
7月下旬、梅雨明けから3日ほど経った日でした。
朝の天気予報では、「首都圏は快晴、最高気温は35度以上の真夏日」を伝えていました。
 
午前9時、直属の課長と一緒に外出しました。もともと夏は大好きでしたが、アスファルトの照り返しに思わず顔を歪めてしまいました。
体が灼けるような感じがしたのです。
 
午前中の外出先は埼玉県川口市の食品問屋さんでした。奥さまから「お暑かったでしょう」とアイスコーヒーを出されました。
炎天下のなか歩いてきたこともあって、生気が蘇る感じでした。
 
昼休みは駅近くのファミレスでした。
定食とともに注文したのがフリーのドリンクでした。
 
若かったせいでしょうか、水分補給としてソフトドリンクをいくら飲んでもお代わりしたくなるのです。
食事中も冷たい水に、麦茶と烏龍茶を交互に飲んでいました。
 
食後は特別にドリップされたアイスコーヒー。酸味と苦味が程よく取れたものでした。
「よく飲むなぁ」と言った課長も、しろくま君のデザートにガブリついていました。
 
エネルギーチャージ十分と思った私たちでした。しかし、枯渇した水分を必要以上に摂ったことにそのときは気づいていませんでした。
 
エアコンで体の汗は引いたものの、内臓まで冷え切っていたのです。
 
午後1時、その日2件目の外出先は大宮の開業医さんでした。
待合室にいた私たちは、看護師さんから「お暑いでしょう」の声とともに、氷の入った麦茶を出されたのです。
「さっきは(ファミレスで)冷たいもの飲みすぎちゃったな」という表情の課長。
私も、「ちょっと、ヤバイすね」という表情を返してしまいました。
 
そして、その日3件目の外出先は、東京都台東区の印刷会社さんでした。
応接室のソファーに着いてほどなく、何やらお盆に乗ったガラス容器が運ばれてきました。
女性事務員さんの「お暑いでしょう」の声とともにテーブルに出されたものが、かき氷でした。
氷あずきに練乳がかかっています。
 
ありがたいのですが、課長も声が出ませんでした。
甘党であずきが大好きな私も、さすがに「勘弁してよ」という気持ちになりました。
 
しかし課長はさすがにサラリーマンです。
「いただきます!」の声とともに「今日って今年一番の暑さみたいですねぇ〜」と言いながら、練乳をかき回し始めたのです。
そしてガブリと一口。
「生き返りますねぇ〜」と言いながら、氷をかき混ぜ始めたのです。食べているフリをしながら、氷が溶けるのを待っているだけ。
 
私はといえば、アズキを口に含んだ後、課長を真似して氷をかき混ぜていました。
キンキンに冷えた冷房で汗はすっかり乾いています。私たちの胃腸は動きを止めつつありました
 
商談を終えた私たちは、駅前のドラッグストアで胃薬を購入し、次に向かいました。
 
4件目が千代田区の会計事務所でした。
時間は午後5時を過ぎていました。公認会計士の先生に、「暑いなかすまないねぇ」言われながら応接室に通されました。
そのときです。「お暑いでしょう」と奥様から声がかかりました。
この言葉はその日4回目でした。
 
そのあと、初めてのフレーズを耳にしました。
「冷たいものがよろしいですか? それとも、温かいものがよろしいですか?」
 
課長も私も、おたがいを気にするどころではありません。ほぼ同時に、「温かいものでお願いします」という言葉が出てしまいました。
 
さらに
「お茶、コーヒー、紅茶、あと、こんぶ茶もありますよ」と訊かれたのです。
 
「こんぶ茶をお願いします」と。
課長は反射的に言いました。
ここは上司と同じものじゃないとまずいよなという心境だったのでしょうか。
 
「私も同じものをお願いします」
無意識に口から出てしまいました。
 
こんぶ茶!!
子どものころ、祖母がよく飲んでいました。
「あんたも飲んでみな」と言われて口にしたら、ジュースとは大違い。
塩辛くて、海藻の風味がする変な飲み物でした。
実は20年以上、自分の味覚になかったものです。
 
そんなこんぶ茶ですが、ひとくち、口に含んでみると、新たな大きな発見がありました。
自然の恵みが沁み入るような感覚です。
なにか細胞が生き返るようでした。
 
お茶・コーヒー・紅茶は飲み物でいえばビッグ3です。
そこに提案された脇役としての”こんぶ茶”。
その日の私たちにとってみれば、もはや、“スーパーサブ”ともいえる飲み物でした。
 
おもてなしとは、「相手の方に選択の機会をお持ちいただくこと」。
あの日の、”こんぶ茶”が教えてくれました。

***

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2018-06-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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