メディアグランプリ

捨てられなかったもの


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記事:相原なおみ(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 
夜行バスで早朝の東京駅におりたち、トイレに向かった。
鏡の前でバッグから取り出したのは、口紅。
東京の大学への進学が決まり、初めて買ったメイク道具だった。
 
出身地を言うと6割がた「どこだっけ?」と言われる片田舎で高校卒業までを過ごした私にとって、「東京」はテレビや雑誌の中の華やかな世界に映っていた。
「東京」に行く!
「東京の人」になる!
合格発表から、浮足立ちながら上京の日を指折り数えた。
田舎の進学校で、土日も制服を着て部活に行っていた私は、メイクをしたことがなかった。
「the田舎のおばちゃん」の母親も、メイクをする習慣がなかった。
でも、「東京」では、きれいにお化粧をしておしゃれをしないと!
合格祝いに親戚からもらったお金で、服を買い、パーマをかけて、メイク道具を買いに行った。
目いっぱい背伸びをして、口紅だけは、かっこいい女優さんが出ているCMにあこがれて有名国内ブランドのものを買った。
でも、ド田舎で、突然張り切ってメイクして出歩くのも気恥ずかしく、「東京に着いたらつけてみよう……」とポーチに入れ、バッグにしまっていた。
 
そして、東京駅につくなり、トイレの鏡に向かっていたのである。
今東京駅に着いたばかりの田舎者だということが周囲にばれないように、
手早くメイク直しをするようなふりをして、ポーチから口紅を取り出し、唇に塗った。
鏡にうつった自分を見て、ちょっと拍子抜けした。
見慣れた、あか抜けない、自分の顔のままだったのだ。
塗り足りないのかな?
そう思って、もう一回塗ってみたけど、やっぱり変わらなかった。
ぞろぞろと、制服姿でばっちりメイクをした女子高生と思われるグループが入ってきて、メイクを始めた。
居心地が悪くて、トイレの個室に入って、もう一度鏡を見ていた。
するとしばらくして、ばっちりメイクの女子高生グループの声が聞こえてきた。
「さっきの人、見た?
●●(口紅の商品名)持ってたんだけどさぁ。
全っっ然、似合ってなかった(笑)」
カーっと赤面したのを覚えている。
腹が立ったのではない。恥ずかしかったのだ。
洗面所から人の気配がなくなるまで、個室を出ることができなかった。
 
これがトラウマになって、私は、外見に強いコンプレックスを持ってしまった。
「おしゃれ」を、そして「おしゃれな雰囲気のもの」全般を避けるようになった。かわいい服を着て、メイクをしておめかしをしても、どうせ影で笑われてる……そんな被害妄想に捉われたまま、日陰がちな大学生活を過ごした。
そう、私は捉われていたのだ。と、振り返ればよく分かる。
 
その後、外見コンプレックスは抱えつつも、月日が経ち、歳をとった。
就職して経済的に自立し、結婚して恋愛市場から退出し、子どもを2人産んで体形の激変を経験した。
仕事と育児に追われて、メイクはおろか、自分自身にまったく意識を払えない状況で5年間が過ぎた。
苦しくない服、入る服を着る日々で、ふと大きな鏡に映る自分を見た。
「the 田舎のおばちゃん」だった。
 
あぁ、キラキラした「東京の人」とは程遠い……
まぁでも、そのころには、かつてイメージしていた「東京の人」なんてメディアが作ったものだということも理解できるようになっていた。
でも、この鏡に映っている私の姿は、到底、受け入れられない!!!!
だらだらと着続けたマタニティウェアを断捨離し、服を買い、美容室に行き、メイク道具を買った。
デパートを歩き回って、自分が着ているところをイメージできるブランドのお店に入り、試着をしながら店員さんに相談した。
出産で体形が変わって、以前の服が着られなくなったこと、
しばらく楽な服ばかり着ていたので、体形が出る服は抵抗があること、
子どもに汚されるので、汚れが目立たない、もしくは家で洗えるものがいいこと。
時間をかけて服を選んで、試着して、ヒールの靴を履くと、
「この私は、けっこう好き」
そんな風に、初めて思えた。
メイク道具は、自然派で、せっけんで落とせるもの、肌なじみのいい色のものを一式そろえた。
日常的なお手入れを最低限にしたかったのと、超敏感肌で化粧品トラブルを多く経験していたからだ。
そして家に帰り、しばらく使っていなかった化粧ポーチにメイク道具をしまった。
ポーチの中には、ほぼ新品で捨てられなかった初めて買った口紅が入っていた。
懐かしさのあまり、開けて、唇に塗ってみて驚いた。
なんと、ついさっきデパートで買った口紅と、ほぼ同じ色だったのだ。
 
アラフォーの私に似合う色が、18歳の時に似合うわけがない。
現状認識と、それに応じた対策。受験勉強と同じじゃないか。
あの時は、テレビのCMや雑誌の華やかさに踊らされて、18歳の、自分の顔を、まったく見てなかった。
でも、そんなこんなを経て、18歳の時にイメージした大人に、なれているのかもしれない。

 
 
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2018-06-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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