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メディアグランプリ

開かずの扉をついに開けてしまった


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:眞水純子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
その時は突然訪れた。ずっとずっと恐れていたことが。
「実家の片付け」という恐怖。
 
何が恐ろしいかって、物の多さが半端ないのだ。
実家は二階建ての5LDKなのだが、キッチン、お風呂の脱衣所を含め全ての部屋が大量の物で埋め尽くされているのである。その中身は、洋服が大半なのだが、その他にも化粧品であったり、洗剤であったり、食品のストックであったり。1つのアイテムの数が私の常識では考えられない程にあるのだ。例えばフライパンなんか軽く20個はあった。多分日常に使っているのはせいぜい2-3個だったと思う。錆びて何年も使ってない物を捨てずにとってあるのが私にとっては理解できない。嫌、とってあるというよりも放置していると言った方が正しいのかも知れない。
 
通販が大好きで見ると欲しくなるようで、最新のダイエット器具、健康のサプリ、美容系のグッズなどがどんどん届いていた。化粧品なんかもとても一人の顔じゃ使いきれない程あり、未開封のものがダンボール2箱分はあった。
購入するのはまあ仕方ないにしろ、問題なのは捨てられないのでどんどん物が増えるばかり。最初はちょっと置いておくだけのはずだったかも知れないが、またその上に置いて、そして重ねて山になっていく。そんなことを繰り返していくうちに、気がつけば床がまったく見えない状態になってしまっている。ひどい部屋になると、一歩も入れない状態にまでなってしまっていた。そんな開かずの扉が3部屋も出来ていた。
日常をすごすリビングと寝室のベットと、そこに通じる道だけはスペースが確保されていた。まさに室内に「けもの道」があるような状態なのだ。
 
私は年に1回だけ実家に帰省していたが、その時は私のスペースを空けるために荷物が他の部屋に移動していたようだった。父も何度も片付けるように言っていたらしいが、「わかっている!」と不機嫌になるだけで一向に進まなかったようである。どこから手をつけたらいいのかわからなかったのかも知れない。見かねて私がやろうとすると「やらないで!」と怒り出す始末。私も手を出せずにいた。少し認知症が始まっていたのかも知れない。
そんな家の状態であるから、外部の人が家の中に入ることはなかった。来るのはせいぜい宅急便のお兄ちゃんだけ。
長い間、父と母の二人だけの世界で仲良く暮らして来たのだ。二人の世界のうちはよかったのだが、その世界はある日突然終わりを告げることとなった。
 
母が交通事故で亡くなってしまったのだ。
 
さあ、大変。外部の人が家の中に入って来る。葬儀が終わると祭壇を作りに葬儀社の方が自宅にやって来るのだ。もしかしたら、ご近所の方がお線香を上げに来るかも知れない。
 
「さあ、どこに祭壇を作る?」
そんなスペースは1mmたりとてない。さあ、大変だ。ならば作るしかないのだ。時間との勝負だ。時間は限られている。やるしかないのだ。
大きめのごみ袋にどんどん洋服を入れていった。入れても入れても山は小さくならない。どんどんどんどん下から出てくる。
「もう! 信じられない!」
何度この言葉が出てきたことか。あまりに物が多すぎると、思い出という概念は無くなって来る。私はまるで無機質なマシーンの様に、ひたすらごみ袋に入れていった。やってもやっても終わりが見えない。
まったく何をやっているんだか。
お陰で悲しみにふけるヒマも泣くヒマもなかった。滞在できる時間も限られているので、私と姉はひたすらひたすら家の物を減らしていった。私たちがいなくなった後に、父が生活しやすい様に整えておきたかったのだ。数日間かけて、やっと床が見渡せる状態になった。これで、万が一ご近所の方がお線香を上げに来ても大丈夫だ。
 
続いて台所。ここも強敵であった。フライパンでさえ20個もあるのだから、お皿の数も半端ない。期限切れの食品ストックも半端ない。中身がなんだかわからない液体の瓶も多数ある。そんな物たちが収納に入りきらず台所の床を占めていた。本当に気が遠くなる。
ここでも私は容赦なく、干からびたゴキちゃんにビックリする気力もなく、マシーンの様にごみ袋に詰めていった。すさまじい量の袋が積みあがっていった。
 
本当だったら父は時間をかけてゆっくりと物と向き合いたかったのかも知れない。母との思い出を噛み締めたかったのかも知れない。
 
一体何をやっているのだろう。
バタバタと慌しくやるべきことをこなして行った私はあれでよかったのだろうか?
自宅に戻って一週間経ってふとそんな気になっている。
 
四十九日の法要で今月末にまた実家に行く。その時は、もう少しゆっくりした気持ちでいられるのかも知れない。いや、甘いかな。まだまだやる事は山積みだから。でも今回は穏やかに優しい気持ちでいたいと思っている。父をいたわり、思い出を語れたらいいなと思っている。
 
だが、その前にわが家もキレイにしておこう。物を減らしておこう。油断するとすぐに物が増えてしまう。引き出しや押入れに押し込んでしまう傾向にあるから、手が付けられなくなる前にやっておこう。ずっと後回しにしていた家のごちゃごちゃをこの機会にすっきり整えておこう。後に残された人が大変なのは身にしみてわかっているから。
 
そんな気にさせてくれたのも母のおかげかな。

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2018-07-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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