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メディアグランプリ

ヌードモデルは天使の聖職


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【8月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:木戸 古音(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「私で良かったらモデルやりますが」
突然の申出に代表の画家先生もびっくり仰天、戸惑いを隠さなかった。
今日来るはずのモデルクラブからの派遣のモデルは理由不明でトンズらしてしまい
クラブも急な代理を手配する余裕すら無かったらしいのだ。
おそらくはそのモデルさんは新人なのかどうかは不明だが理由のいかんにかかわらず、
モデルクラブから追放処分だろう。
 
「みなさーん、ちょっと戻って下さい」
貸し会議室からあきらめ呆れ顔で出て行こうとしていた面々の背中に先生の大きな声が響く。
「何事?」
「どうかしましたか」
わけがわからず部屋に戻ってくる面々。
一部のものはもうすでに駅に向かって戻ってこない。
戻ってきた面々は
「どうしたんですか」
と頭の上にクエスチョンマークが三つ、四つ。
代表の画家先生が切り出した。
「皆さん、今日は予期せぬクロッキーのモデルの無断欠席で大変ごめいわくをおかけしています。
ところで今、描き手のおひとりの女性のかたから、急遽モデルになってもいいという申出がありました」
「たいへんありがたいことですので、皆さんここはひとつ申出を受けてみたいと思いますので、もう一度お席についていただけませんか」
大阪船場ビルの一室でのことだった。
大阪はもちろん、京都、神戸くんだりからもみんな集まってきていた。
みんなどういう展開になるのか興味津々で、にわかモデルの登場を待つことに。
 
考えてみればモデルになるといってもモデルの七つ道具と、
心づもりは無くてもその気になれば描くことができる。
素っ裸になればいいそれだけのこと。
七つ道具と、心づもりとはなにか。
 
タイマー
着脱しやすい休憩着かガウン
髪留め
 
心づもりとしては
直前にシャワーないし入浴をしておく
下着あとを残さないよう
化粧はしないかごく軽め
日焼け跡を残さない
云々
 
いったいどんな子が。
会議室の隅に仮に設けた「更衣室」からあらわれた篤志な女性は小柄でいつも熱心に描いている女性だった。おとなしい、楚々とした女性だ。
「エエー、あの子が」
私は普段にヌードを描いているとモデルに対して尊敬の念さえおぼえることがある。
では世間ではどうだろう。
「ヌードモデル、なにそれ。ストリップなんだそれ。ハダカを売り物にして罰あたり」
何か偏見とか、言われもない差別にくるまれている世界ではないだろうか。
だれでもハダカで生まれてきてそのハダカを一番疎ましく世間で思われていることは無いだろうか。
 
わたしがハダカというものを、初めて意識したのはいつだったか。
小学生5年の折のことだ。
クラス担任は福井出身のおばあちゃん先生だった。
毎月曜日の一時限目は日曜日にどう過ごしたかを一人ひとり発表させられた。
そして全員の話がおわったら、いよいよ先生自身の発表になる。
わすれもしない。
おばあちゃん先生はいきなり冊子を私たち児童に回覧し始めた。
 
なんとまあー、女があられもない姿で毛も丸出しで突っ立っている。
別のページには男の性器もそのままに堂々と台の上に立つ男性の
全裸体の写真か絵なのだ。
「先生はね、昨日京都の美術館でそれらの絵をみてきたんよ。
安井曾太郎という日本を代表する絵描きさんだよ」と先生は続けて
「先生たちね仲間で集まってハダカのモデルさんをときどき描いているのよ。
モデルさんはいつも全裸でじーとしてくれている。
それを先生方仲間で描いて勉強してるんよ」と、さらに
「先生たち、そのモデルさんがいないと勉強できないのよ。モデルの仕事って
とてもたいせつな立派なお仕事よ」
5年生のわたしには良くわからなかった。それに音楽に夢中だったそのころ
美術に特に興味は無かった。
それよりも男性の性器が表現されている絵に冊子を持つ手がふるえて
私の幼い性器に「びびびっ」と電気が走っていた。
「はだか、立派な仕事よ」
その言葉だけが独り歩きした。
 
そして今にもどる。
私は一瞬かたずをのみシロウトさんということに驚きと
ぜひ描いてみたいという期待感がないまぜに成る。
にわかガウン代わりの長めのブラウスが辛うじて脚の付け根から
下あたりまでを申し訳程度に覆い隠している。
覚悟の出来ていた彼女は迷うことなくその上衣を脱いだ。
実に堂々としている。
遅れてきた人なら正規のモデルと見まがうかもしれない。
それほどに視線も落ち着いている。
当事者の絵描き先生が一番おどろき、
そして集まった面々の描き手たちに責任を果たせたと安堵したことだろうか。
まもなくわたしも描くことそのことに集中することが出来た。
モデルの彼女は普段は描く側で熱心な人だろう。
立場を逆転させても要領を得ているようだ。
変にじたばた、たじたじ、そわそわ、がたがたするのは
かえって羞恥心を増すことになるのだろう。
それは彼女自身が経験上一番良く知っていることだろうか。
 
プロのモデルさんのように下着あともほとんどみられない。
「すごいな」
プロのモデルさんが彼女から学ぶべきことが多々あるようにもみえる。
 
立ちポーズ
座りポーズ
寝ポーズ
時間を短縮していく動きのあるポーズの数々
 
飛び入りの彼女の勇気に頭が下がる思い、
なによりも全裸になれる彼女がなにやら、うらやましくもあった。
どういう感情だろう。
それほど堂に入って美しかった。

***

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2018-07-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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