メディアグランプリ

人から教わるのがキライなデザイナーが、ピアノ教室に通って意識が変わった話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:鷹野サヤカ(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
去年の秋頃、結婚して2LDKのアパートに住むことになった私は、念願だった電子ピアノを買った。14万。自腹である。
なぜピアノを買おうかと思ったかというと、私は5年目のグラフィックデザイナーで、自分の仕事に行き止まりを感じていた。どれだけ仕事しても、毎日似たようなものばかり作っていた。成長している気が全くしなかった。
それなら「勉強しろよ」とか「キャリアアップは?」とか言われるかもしれないが、家に帰ってまでデザインの勉強なんてしたくない。目は疲れるし。田舎だから、転職先とかないし。
このスタンスは疲れなくていいんだけど、自己肯定感や仕事へのやりがいは無くなっていくばかり。「どうしたものか……」と感じながらも、ダラダラ過ごしていた。結婚もできたし、モテるためにしていた努力も一気にいらなくなり、本当にもぬけの殻みたいになってしまっていた。そこで、都合のいい話かもしれないが「何か成長を感じられるものがあれば、私は変われるかもしれない!」と思った。
そこでパッと思い浮かんだのがピアノ。
中3までピアノ教室に通っていたから基礎はできているはずだし、ある程度練習すれば初心者よりは弾けるからきっと楽しいはず。そして、始めた時より絶対上手くなるから成長を実感できるはず。人に披露もできる。そしてゆくゆくはYoutubeに演奏動画をアップするんだ! と考えた。ピアノを弾いていれば、行き詰まった仕事のことも思い出さなくて済むかもしれない。
思い立ったら早いので、私は夫に「電子ピアノ買うね!」と言うと、「え? 本当に弾くの……?」と言われたけど、私の独身時代の貯金でピアノを買った。
しかし私は、「ピアノの練習は独学でやろう!」と思っていた。
なぜなら、私は「人に教わる」というのが大っ嫌いだったから。
正直「教わる」というのはハードルが高い。
教えてもらったことをすぐ理解できなかったら申し訳ない気持ちになって、分かったふりをしてしまう。分からないからといって、すぐに質問が思いつくほど私は頭の回転が早くない。「分からないので教えてください!」と、自分の無知さをさらけ出せるほどの謙虚さもない。
だから教わる内容を予習しておく羽目になる。しかし、予習した後にわざわざ予習した内容を再度教わるというのは、それも時間の無駄に感じてしまう。「この内容、知ってるなぁ……」と思いながらぼんやりしていたら、「聞いてないの!?」と怒られる。とにかく、人の話を聞くのが苦手なのだ。
会社でも5年目になると、デスクを見渡す限りほとんどが後輩になってしまった。そして苦手だった「人に教わる」ということが一切なくなった。このままでは私は自分のやり方を曲げない、自分のやり方に固執するお局ババアになりそうだった。向上心も謙虚さもない、老害グラフィックデザイナーの出来上がりだ。こんな女になりたかったわけじゃない。
そしてピアノが届いて3ヶ月間。私は毎日、独学で練習し続けた。
曲は、パダジェフスカの「乙女の祈り」を選んだ。なぜこの曲かというと、中学生の時に弾いていたから。大人になっても弾けるだろうと思っていた。甘かった。
Youtubeのお手本のような演奏を目指し、3ヶ月間頑張って練習した。それなりに優雅に弾いてたつもりだった。
しかし、いざ録音して自分の演奏を聞いてみると、これは「乙女の祈り」ではない……と思った。例えるなら、ドタバタと転んだり起き上がったりを繰り返して躁鬱気味な「アラサーの祈り」だった。何だか音楽的に間違っている気がするが、どう直せばいいのかさっぱり分からなかった。これが3ヶ月間の独学の限界なのか。
私は、ピアノ教室に行く決心をした。
ピアノ教室は月謝がかかるので、さすがに夫に相談した。
「毎日頑張って弾いてるし、上手くなりたいんなら行ってこればいいよ」という趣旨のOKをもらった。新婚・子なし夫婦の財布はガバガバだった。
そして家から車で5分ほどのピアノ教室を探した。なんと平日の夜21時からレッスンしてもらえるらしい。これなら会社帰りに行ける!と歓喜した。
先生とワンツーマンのレッスンで、月謝は月2回・1時間のレッスンで6000円。払えない額じゃない。これぐらい払っていれば、練習のやる気も出る。私は入会することにした。
レッスンを受けてみてすぐ、「なんで早く来なかったんだろう」と後悔した。
自分の指についた変な癖を抜かすのも面倒だったし、楽譜を読み違えているところもたくさんあった。しかし、先生のアドバイスを素直に聞いて家で練習したら、見違えるほどよくなった。どんどん上手くなるから、楽しくて仕方なかった。
レッスンを受けてから3ヶ月後。
先生から、「ちゃんと、乙女の祈りになったね!」と言われた。
「アラサーの祈り」から「乙女の祈り」にできたのは先生のおかげです……。
そして楽譜に、赤い鉛筆で花マルをつけてもらった。
人生で花マルをもらったのはいつぶりだろうか……?
そしてこれまで、人からのアドバイスを拒否していた自分に気付いた。
仕事でもそうだ。いつの間に、私の作ったデザインにアドバイスをくれる人はいなくなってしまったんだろう。思い返してみると、むしろ人からのアドバイスを拒否していたのは、自分自身だったことに気が付いてしまった。
そしてすぐ、私の妊娠が発覚した。
産休、育休に入ってから1年後ぐらいに職場に復帰する予定だ。
部長から、「次は同じプロジェクトに入れないかもしれない」と言われた。
つまり、新しいプロジェクトに異動したら、次からは後輩に仕事を教えてもらわなくてはならない。
後輩から教えてもらうなんて、嫌だけど。文句も言ってられない。
むしろワクワクする。頑張らなくちゃ。
育休明けは、6年目のグラフィックデザイナーだ。
復帰しても、まだまだ新しい私になれそう。

 
 
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2018-09-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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