メディアグランプリ

人に感化されやすい「何者にもなれなかった自分」の行き着いた居場所


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:いづやん(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
僕は、感化されやすかった。ちょろいくらいに。
 
色んな人の影響を受けては色んなものに手を出してきた。
 
小学生の時の趣味は、ノートに書き連ねた漫画。中学生では少し発展して手の込んだイラスト。
 
高校生になると、友達が持ってきたテーブルトークRPGにハマった。友人を集めてプレイしてはテープに録音してワープロ(まだWindows 95が世に出る前の話だ)で書き起こし、挿絵となるイラストも自ら描いて、リプレイ集を作って配ったりもした。今で言う同人誌みたいなものだ。
 
大学になると一転、面白そうな先輩に感化されてテニスサークルに入り、絵を描く根暗なオタクから、絵に描いたような学生生活を送ることになる。
 
だが、学生時代の終わりに小笠原に初めて旅をすると、あっという間に島旅の楽しさに捕われた。その時に知り合った友人たちからは、旅そのものやバイク、デザイン、写真など、様々な影響を受けた。
 
テニスと飲み会に明け暮れた4年間は、あっさり自然大好きアウトドア趣味へと変わっていったのだった。
 
大学4年の就職活動は出版社への就職を希望していたが、なんとなく「写真や文章に関係する仕事がしたかったから」というふわっとした志望理由で、書類選考に落ちまくった。色んなものに感化されやすい自分には「一本通った筋」などなかったと、今ならわかる。
 
新卒でなんとか入った会社は今で言うブラック企業で、朝から深夜までOA機器の営業をしていた。
 
当時、仕事の辛さから逃避するように自然への憧れに傾倒していた僕は、買い漁っていたネイチャー系の雑誌や写真集に載っていた写真にまたしても感化されていた。
 
「こういう美しい自然の写真を撮って生きていきたい」
 
OA機器の営業が辛すぎて、8ヶ月後にはあっさり退職した。同時に写真専門学校の資料を取り寄せるのだが、父親に見つかって、即座に言われたのがこれだ。
 
「ちゃんとした仕事に就いてもらうために大学を出したのに、働かずに写真の勉強をするなら家を出て行け」
 
「若い」とは怖いもの知らずの代名詞だろう。これを真に受けた23歳の僕は、1ヶ月後に実家を出て一人暮らしを始めることになる。就職せずにフリーターのままで、だ。
 
結局、「何者にもなれていないただのフリーター」状態で、写真学校に通うお金を貯めるのに、学生時代のツテで始めた中華屋のバイトを1年半、プロが使う写真現像所(プロラボ)の暗室マンとなって7年、食いつないでいくことになる。
 
写真といえば、まだフィルム全盛時代だった。感化と憧れを抱いたまま、プロの現場の裏方に回った僕を待っていたのは、頂点が見えないほどの高いヒエラルキーの世界だった。
 
「写真じゃ食えないな」という諦めに似た感情を抱くのに、そう時間はかからなかった。
 
暗室マンフリーター時代も小笠原で出会った友人との付き合いは続いていて、キャンプに行ったり、バイクで遠出したりしていた。そんな時、僕は決まってカメラマン役だ。
 
これまた友人たちに感化され生まれて初めて買ったiMacで、拙いサイトを作って写真をネットにアップしていった。自分で色々作れることと、友人からのリアクションが楽しくて仕方なかった。
 
結局、写真家への夢は諦めたが、プロのデザイナーの友人に憧れて、趣味だったウェブサイト作りを写真に代わる道として選び、気がつけば制作会社の正社員となり、プロとして今も働いている。
 
カメラはいつしかフィルムからデジタルになり、いくら撮ってもフィルム代も現像代もかからなくなっていた。ありがたい時代だ。
 
制作会社の仕事はストレスも多かったが、慣れてきた頃に久しぶりに島に旅に出た。お金の余裕も出てきたので、遠い島にも行けるようになり、写真も山ほど撮って、ネットの写真共有サービス「Flickr」にアップし続けた。
 
2010年に青ヶ島に旅をした時の200枚ほどの写真は、2年後の2012年に突然1日に8万PVものアクセスを集めた。海外の2ちゃんねる的掲示板に僕のFlickrのURLが貼られたのだ。
 
世界のあちこちから「この島にはどうやって行くんだ」と連絡が入ってきた。一時期メディアを賑わせた青ヶ島ブームの火付け役の一端は僕が担っていたと、ほんの少しだけ自負している。
 
僕の青ヶ島の写真は、世界のあちこちのサイトで引用され、ポーランドの旅行会社サイトの日本特集ページを採用され、ドイツの雑誌に載り、ナショナルジオグラフィックを元にした英語教材の青ヶ島紹介のページを飾った。
 
「やっぱりネットって面白いな!!」
 
プロカメラマンでもない一個人に起こった事件として、心が沸き立ったのを覚えている。
 
「こんなに見てくれる人がいるなら、ネットで日本の島の良さを発信しよう」と思って、2013年に島旅ブログを立ち上げた。
 
旅をして、写真を撮り、サイトをデザインし、文章を書く。
 
色んなものに感化されては手を動かして身につけていったスキルは、ひとつひとつは最前線のプロには及ばなかったかもしれないけれども、それをまとめあげて「自分のメディア」として「島旅の楽しさ」を発信できている。
 
最近はブログを通して、Webメディアでの執筆や、イベントで話す機会もいただくようになった。
 
「なんとなく何者にもなれないままここまで来てしまった」と思っていた僕が、流された末に手にできた居場所としては、存外悪くない。欲を言えば、いつか商業誌を出して、今度は誰かを感化したいものだと思いつつ、今日も文章を書いている。

 
 
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2018-10-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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